疑惑の適性検査
「ここが適性検査の場です。」
案内された場所は大きな図書館だった。
高い天井に360°見渡す限り本がギッチリ並んでいる。
「こちらで検査を行い、その結果によって今後白川さんに就いていただく職業が決まります。」
「なにが向いてるとかじゃなくてもう決定しちゃうんですね、、、」
話を聞く限り現実の適性検査とは違うらしい。
頭がいい方ではないし難しいテストだったらどうしよう、、、。
「あれ〜?不法侵入〜?」
「え!?」
背後から声が聞こえ振り向くとモノヘと同じ制服、胸元には黄色い花のブローチをつけた男が俺をまじまじと見つめていた。
長い前髪からちらりと覗く丸い瞳はまるで品定めしてるようで、蛇に睨まれた蛙の如く身動きが取れない。
「今日エネンドへいらっしゃった白川碧さんです。少し前に連絡したでしょう?」
「あ〜ぜんぜん気づかなかった〜ごめんね〜」
「白川さん、こちらは適性検査を担当しているジビスです。」
「し、白川です。よろしくお願いします、、」
ごめんね、と謝りながらも俺から視線を外さないこの男はジビスというらしい。
今度は上から下まで視線を滑らせて隅の隅まで観察してくる。逃げ出したい気持ちが湧き出てくるが178cmある俺よりさらに高い所から感じる視線に逃げられるわけがない。
「わ〜!ぼくのことこわいの〜?」
「そ、、そりゃこわいです、、で、でも!大人しくいうこと聞くんで!殺さないでもらえると、、。」
「やだなあ〜今は殺さないよ〜」
「は、はは、、、」
本日2回目の"今は"いただきました。
2回目といえどこわいものはこわいので乾いた笑いしか口からでない。
「じゃ〜適性検査しよっか〜あの椅子すわって〜」
ジビスが指を刺したのは部屋の真ん中にポツンとある木製の椅子だった。
周りには本が沢山あるのに椅子の周りだけ何も無くて
なんだか違和感がある。しかし、変な事を言って地雷を踏みつけるといけないので違和感は感じなかった事にして腰をかけた。
「はじめるよ〜、気持ち悪くても吐かないでね〜」
「吐く、、?」
その瞬間周りには風が吹き、長い前髪で隠れていたジビスの瞳が露わになる。
瞳は金色に輝いていて、まるで満月のようだ。
綺麗だな、なんて他人事みたいに思っていると大きな手が
頭に置かれる。
「君のすべてをぼくに見せて?」
その瞬間、頭の中に走馬灯のように記憶が駆け巡る。
無理矢理引きずり出される感覚に吐き気を催し、体が震えて歯がガチガチぶつかる。
この検査が何秒だったのか、はたまた何分だったのかは
わからない。でも、俺にとっては永遠にも感じる苦痛だった。
「おわったよ〜だいじょうぶ〜?」
「なんとか大丈夫です、、」
嘘だ。あんなの大丈夫なわけない。
いまだって吐き気を抑えるのに必死で少し動いたら喉まであがってきそうだというのに。
なんなんだよこれ、こんなのが適性検査なのか?
「はい、これがエネンドの適性検査です。と言ってもジビスにしか出来ませんがね。」
「ぼくのやり方だと人間み〜んなきもち悪くなっちゃうんだって〜ここで吐いたら殺しちゃうけどね〜」
「ジビスは汚いものが大嫌いなのでこの部屋の物やジビス本人が汚れる事があれば即刻首が飛びますよ。」
「それを最初に言ってください、、、」
「結果的に免れたんですからよかったじゃないですか。頑張って耐えてよかったですね。」
「いつもはここで何人か死ぬんだけど今日はゼロ〜!おめでとう〜!君も喜びなよ〜!」
「わ、わーい、、」
なにがおめでとうなのか、なぜモノヘまで拍手してるのか、とか思う事は多いけどもういい。
こいつらを理解しようとしてはいけない。否、できないんだ。それでいい。潔く諦めよう、そうしよう。
「それで〜これが君の結果ね〜」
「本?」
いつの間にか一冊の本がジビスの手にあった。
例えるなら図書室にある長い間誰の手にも取られてないだろうよく分からない分厚い本。
「僕は人間の記憶や特性を一冊の本にできるんだ〜ここにある本もぜ〜んぶエネンドに来た人間の診断結果だよ〜」
「こんなに来てるんですか!?」
「半分以上は死んでるけどね〜」
「あっ、、、なるほど、、、」
「それで〜君の結果は〜、、、」
パラパラとページをめくる音がとまり、答えを待っていると、、、
「あははははは〜!!きみやばいかも〜!!」
「え!?なんですか!?」
「きみ悪い事して捕まったことないよね〜?」
「ないです!誓って犯罪なんてした事ないです!」
「だよね〜、ぼくの適性検査がまちがえるはずないし〜」
「あ、あの、、俺の適性ってなんか変なやつでした、、?」
「きみの職業はね〜、、、、、」
「詐欺師だよ〜」
月桂樹