走り屋と暴走族
俺は地元の峠を夜な夜な車で走っている所謂走り屋だ。
今日も相棒と二台で走り程よく燃料とタイヤを減らしたところで、クールダウンのため通常速度で峠を流していた。
先頭を走る俺のルームミラーには相棒のヘッドライトが煌々と反射する。
二台のマフラーから発せられる重低音に混じり、聞こえてくる族車特有のリズミカルな爆音が多数。しかも、こちらに近づいている。
「・・・珍しいな。」
彼らのホームグラウンドは麓の市街地で、峠に入ってくることはかなり稀だ。
音達はすぐに追いつき、多数のヘッドライトの灯りとともにけたたましい音を撒き散らしながら追い抜こうと横に並ぶ。
「・・・っ!」
その姿を見た俺は、全身の血の気が引いた。
彼らは全員血塗れでバイクもボロボロだった。中には首のない者や、前半分がグシャグシャに潰れたバイクに乗っている者も居る。
明らかにこの世のものではない。
「おい、マジかよ・・・」
彼らから目が離せないままハンドルを握りしめ、ひたすら過ぎ去るのを俺は待った。
一台、二台、三台・・・
ハンドルを握る手から汗が滲み出る。
そして、最後尾が超越し俺の前に躍り出て、遠ざかって行く。
それを見た俺はホッとした。
しかしその瞬間、背後で加速するエンジンの唸り声が響き、相棒の車がフルスピードで俺を追い越していく。
「あいつ、何やってんだ・・・!?」
吐き出そうとした安堵の息を飲み込んだ俺は愕然とした。
「まさかバトルを仕掛ける気か?」
どちらにしろこのままではまずいと思った俺も加速し、相棒を追う。
それなりの速度を出しているが、奴らとの距離は中々縮まらない。
「幽霊補正か?」
奴らの異常な速さに、俺は思わず口に出す。
だが、ゆっくりとではあるが確実に追いついてはいる。
峠道は既に後半部に差し掛かっている。奴らとの距離を考えると、相棒が勝負を仕掛けるのは終盤のコーナーだろう。
俺と相棒はじわじわと奴らを追い上げていき、遂に運命のコーナーに差し掛かった。
奴らは迫るコーナーに備え減速をする。
「幽霊も減速はするんだな・・・」
俺は感心しつつも相棒とともに減速をせず車線変更をし、そのまま奴らを追い抜いた。
そして、長年の走り込みで掴んだ最適なラインとブレーキングポイントをなぞり、アールのきついコーナーに飛び込んだ。
派手な音を立てながらコーナーを抜けた俺はアクセルを踏み込み、加速する相棒の後に続く。
前を走る車の開いた窓から、勝どきを上げるように相棒の腕が上に突き出した。
それを見た俺の口から笑みが溢れる。気がつけばあのリズミカルな爆音は聞こえなくなっていた。
その後もこの峠に出入りしているが、奴らに遭遇したのは後にも先にもこのときだけだ。