2-1
なんとなくわかったと思いますが、本作は某週刊少年漫画雑誌の某ヒーロー漫画に特大な影響を受けてます。
まあ、ヒーローモノではないので、似通ったところはありつつも、テーマだとか色々と大きく違うのですが……
切り立った崖の見える広い岩場で。僕はクロロさんと相対し、彼女が背伸びをするのを見つめていた。
「……さて。そんじゃあ、始めますよ」
「あっ……は、はい! お願いします!」
あくびをするクロロさんに、僕は努めて大声で答える。
――どうして彼女と2人きりで、こんな場所にいるのか。その理由は、昨日の夜にまで遡る――。
◆ ◆ ◆ ◆
「……はぁ〜〜!?!? 私がコイツの指導ですかぁ!?!?」
宿屋の中で、クロロさんが僕を指差し叫ぶ。声の矛先であるフランさんは、澄ました表情で「そうよ」と受け答える。
「ルースはステータスが上がらない。強くなることは望めないわ。……だからこそ、あなたの力が有用だと思うの。適任だわ」
「え……えぇぇ〜!? なんでですか、めんどっちぃですねぇ……」
クロロさんはため息を吐き、肩を落として僕を見遣る。僕は痛々しい視線を感じて、ギリギリと口角を引き上げる。
と。しかし、クロロさんは、僕の顔をしばらく見つめると、「……ま、わかりましたよ。いつまでも穀潰しのままにはさせてらんねぇですからね」とため息を吐いた。
「でも、芽が出るかはわかんねぇですからね。そこはコイツ次第です」
クロロさんはそう言って、その日の夜を指導の準備で終わらせた。
◆ ◆ ◆ ◆
……そう言うわけで、僕は現在、クロロさんに言われるがままにこの岩場へと来ているのだが。
果たして、彼女は一体僕に何を教えるつもりなのだろうか。僕は期待に応えられるだろうか、そもそもまともに教えを実践できるだろうかと、不安で全身から体温が消え失せていた。
「と言うわけで、これからは私がお前を指導するわけですが。……その前にひとつ、言っておくべきことがあります」
クロロさんが、やや気怠いながらも、沈痛な声色で語り始める。僕は一層真剣な色を醸す彼女にピンと糸を張り詰めさせ、その言葉に耳を傾ける。
「――ハッキリ言いますが。この世の10割は運です。世の中には、才能も、境遇や環境の差も確実に存在します。『努力をすれば』と世の中は言いますが、努力で越えられた壁と言うのは、所詮努力をすれば越えられる程度の壁でしかなかったと言うことです。……努力すればどうにかなるほど、社会は甘くはありません」
クロロさんの言葉は、ひたすらに残酷だった。僕はこの人生で自覚していた言葉の数々を浴びせられ、一層不安に心が揺らいでしまった。
「お前の壁はあまりに高く、分厚いです。越える事も、壊す事も叶いません。……ですが。越えられねぇンなら、迂回すりゃあいいだけです」
と。クロロさんは左腕を突き出し、「小さな大工房」と呟いた。
彼女の左腕には、緑色の宝石の付いた腕輪が装着されていた。すると、腕輪の宝石が突然輝きだし、僕はその眩しさに目を細めてしまった。
光が収まると、クロロさんの左腕には、鈍色の小さな大砲のような物が装着されており。するとクロロさんは、「ファイアッ!」と叫び、同時に大砲から真っ赤な光が飛び出した。
光は岩場の崖に当たると、凄まじい轟音を立てて爆発した。切り立った崖はガラガラと崩れ、気が付けば、岩肌が大きく抉れた歪な形に変貌していた。
僕は何が起きたのかがわからず、「い、今のは……!?」と目を点にさせる。するとクロロさんは、ため息を吐きつつと僕へと語り掛けた。
「――私のステータスを開いてみるです」
困惑する僕を他所に、クロロさんは更に声を発する。僕はきょとんとしながらも、彼女の指示に従い、人差し指でくるりと虚空に円を描く。
◇=====◇
名:クロロ・メタン(26) ♀
LV:35
MP:2041
STR:261 Rank:D
DEF:391 Rank:D
DEX:536 Rank:C
SPD:301 Rank:D
INT:269 Rank:D
MND:283 Rank:D
←BACK(1/4)NEXT→
◇=====◇
「――えっ!?」
クロロさんのステータスは、僕が予想していた物とは大きくかけ離れており。僕は衝撃のあまりに、「ほ、ほとんどDランクじゃないですか!」と大きな声で叫んでしまった。
クロロさんが「ほっとけです!」と顔を真っ赤にさせて怒鳴る。僕はハッと肩を委縮させ、「ああ、ご、ごめんなさい!」と必死で謝った。
「で、でも……だとしたら、どうしてあんな威力の魔法を? フランさんなら納得できますが……」
「それが、私の力ですよ」
クロロさんは腕を組み、フンと鼻息を鳴らす。僕はますます彼女の言葉がわからず、「え……?」と首を傾げた。
「――コイツは、火炎砲と言う魔道具です」
と。クロロさんが、左腕の大砲へと目を落としながら答えた。
「魔道具ってのは、僅かな魔力で色々な効果を発揮する魔法の道具のことです。で、火炎砲の効果は今見た通り、声を引き金に高威力の炎の魔法を撃ち出すってわけです。……私はこの魔道具を作り出す技術、錬成術を会得しています。さっきの腕輪は小さな大工房と言って、様々な物をしまい込んだり、コイツだけで錬成術を成立させる魔道具です」
「え……えっ、と……」
「ようは私やお前みたいなクソ雑魚でも、高い威力の魔法を使えるってことです。理解しましたか、雑魚太郎」
「雑魚太郎ってなんですか! 変なあだ名付けないでください!」
あまりの呼び名に僕が怒ると、クロロさんはケラケラと僕を嘲笑った。この人、ものすごく性格悪いな。
「ルース・マゾースキー。今からお前には、この魔道具の製法……錬成術を学んでもらいます。……レベルを上げても強くなれない。どんだけ努力をしても報われない。だったら答えは単純で、別の方法で強くなる他ねぇです。正攻法は強者の特権、私ら弱者は賢く立ち回るしか生きる道はありません」
クロロさんは真剣な面持ちで僕に口上を続けていく。僕は彼女の気にあてられて、同じく鋭い目付きでクロロさんを見つめる。
「卑怯ってのは、他のやり方を探せねぇバカ共の戯言です。お前はたかが調味料から活路を見出した。その発想力は活かすべきです」
クロロさんは僕にそう言うと、また腕輪を光らせ、そして僕の目の前に、大きな釜と山盛りの薬草を出現させた。
「いずれはこのクラフト・ワークを使えるようにしてもらいますが、そのためには基礎的な錬成術が使えないといけません。……今からお前にその大釜で作ってもらうのは、私の経験上最も作るのが易い、町の調合師が作る魔力回復のポーションです。錬成術は魔道具だけじゃなく、こう言うのも作れるんですよ」
僕はクロロさんの言葉にごくりと固唾を飲む。そして、「……できるでしょうか、僕に」と呟くと、クロロさんは「知りません。できなかったら飢えて死ぬだけです」ときつく言い放った。
「そんじゃあ、早速取り掛かりますよ。まずは私の言う通りにやってみてください」
クロロさんは迷う僕をよそに、手をパンパンと打ち鳴らして僕に準備を促した。
僕は急かされるがまま、「は、はい!」と、錬成術の修行に取り掛かった。
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◇お知らせ 今後の更新について
今後ですが、20話(10-1)くらいまでは毎日更新を続けて行こうと思います。
ただ、作者の仕事の都合上、週ごとに投稿時間が前後致します。
今週は12時くらいを目処に更新しますが、
来週は17時を目処に更新させて頂きます。
その次の週はまた12時くらいに……と言う感じです。
ややこしい更新の仕方をしますが、どうかご理解お願い致します。