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 根拠も無くそんな人居ないと思っているんですが、一応忠告します。

 あとがきにこの話のネタバレがあるので普段そちらを本編より先に読んでらっしゃる人はご注意ください。(あとがき自体は作者の語りなので、読まなくても今後の本編に一切影響ございません)


 初々しい、カップルになりそうな2人を書こうと頑張りました。

 よろしくお願いします。




「はぁ〜、もうお腹いっぱい」


 綺麗な花畑の真ん中で、満腹になったお腹を撫でながらくつろぐエリックを傍目に、綺麗な花を茎が長くなるように気をつけながら摘んでいく。20本もあれば足りるだろうか。


「ん、リズ何してんの?」


 記念に花束でも作るの? と、いつの間にか隣に座っていたエリックが私の肩越しに手元を覗き込んでくる。


「違う違う。花束じゃなくて、花冠が作りたいの。ここまで来たら、本に書いてあった事をできる限り再現してみようと思って。……正直、本に書いてある文章だけじゃ上手くできなかったんだけど」


 後半を呟くような声で言った私の手元には、花の茎をぐちゃっと丸めただけのような、少なくとも花冠ではない何かがある。

 穴の空いたズボンとかローブを繕った経験くらいあっても、娯楽や暇つぶしになるような手芸はやった事も、そもそもそれができるような余裕もなかったし、花冠の作り方を丁寧に教えてくれるような人もいなかった。


 盛り上がった気分に流されて後先考えずに花を摘んでしまったけど、こうして失敗するくらいなら無闇にやろうとするんじゃなかった。

 楽しかった気持ちが一転、今にも泣きたいような心地になってしまう。でも、それじゃここまで一緒に来てくれたエリックに申し訳ないから、急に泣き出すのだけはダメだと思って必死に耐えた。


「あーあー。リズって包丁の使い方とか裁縫は上手いのに、意外と不器用なんだな。ちょっと貸してみろ」


「え?」


 抵抗する間もなく私が摘んだ花をエリックに取られる。

 思ってもみなかった横槍にびっくりし過ぎて、すっかり滲んでいた涙が乾いてしまった。


「うーん、これまだ使えるか? いや、結構切り口に近いところで結ぼうとしたっぽいし、この花の近くの茎で…………」


 「こうか? いや違うな。……思い出した! こうだ!!」なんて独り言を呟くエリックの手の中で、無惨に変わり果ててしまった花達が綺麗な花冠に姿を変えていく。探り探りとは思えないくらい鮮やかな手際に見蕩れてしまう。


「よしできた! ほら、頭下げて!」


 ぽーっとエリックの手元を見ていた私が言われるがままに頭を下げると、この花畑の香りと共に、ふわりと何かが───エリックがたった今完成させた花冠が、優しく乗せられた。


「……うん、綺麗だ」


 短い間に沢山の信じられないような情報を詰め込まれた脳が、一瞬その働きを放棄する。


 それから、達成感と喜びを含んだエリックの笑顔に見つめられて、何が起こったのかを一つ一つ時間をかけて咀嚼して。


「なっ、なっ……はぁっ!?」


 盛大に叫んでしまった。


 いやでも、だって、私に今『綺麗』って言った!! 花冠作ってくれて、頭に乗せてきて、『綺麗』って!!!

 す、砂埃でくすんだ白髪には、ここに咲いてる花みたいな鮮やかな色は似合わないって、散々言われた私に!!?


「っはは、驚きすぎでしょ。俺、何も変なこと言ってないよ」


 エリックの瞳越しに見える自分は、今にも目がこぼれ落ちそうなくらい大きく瞼を開けている。口はパクパクと開閉しているが、浮かんでは消えていく思考は何一つ音になってくれない。


「色鮮やかな花が、陽の光を受けてキラキラ輝いてる髪の白さをより際立たせてて、すごく綺麗だよ」


 褒め言葉と並行で、剣ダコの目立つようになった手に優しく髪を梳かれ、


「ふぐっ!?」


 とおかしな声が漏れる。

 慌てて口元を手で抑えるが、調子づいたのか楽しそうな表情になったエリックはすかさず追撃を仕掛けてくる。


「それに、普段フードと目隠しの下にあって真っ白な肌が、こうして褒める度に赤く色づくのも最高に可愛い」


「まっ……」


「っつーか、好きな本の内容を再現したいっていう発想がまず可愛い」


「待っ、て!!」


「むぐっ」


 まだまだ続きそうだった褒め言葉を、エリックの口を躍起になって押さえつけることで強制的にやめさせる。何もしていなかったも同然なのに、私の呼吸は強敵と戦った後のように乱れてしまっていた。


「むー」


 褒め殺しを止められたエリックが、私の手の内側で不満気な声を漏らす。


「わっ私で遊ぶのもいい加減にして!! 私が綺麗なわけないし、ましてや可愛いなんて……っ!?」


 言葉の途中で、突然エリックに手で口を塞がれ押し倒される。

 仰向けに倒れた私と一緒に倒れ込んだエリックの頭上を太く長い何かがものすごい勢いで通過して行ったのが、花びらの舞い上がった視界に確かに映った。

 あのままだったら、きっと2人揃って弾き飛ばされてた。


「魔物っ!!」


 周囲の警戒は私の担当なのに、話すのに夢中ですっかり怠ってしまっていた。この花畑は人間が管理している場所じゃないって分かってたのに!


 慌てて体勢を整える私達を、当然襲ってきた魔物は待ってなんかくれない。

 地面に置いていた荷物を急いで回収する私を庇うように立ったエリックだが、巨大な紫がかった黒いヘビ型の魔物から繰り出される尾を使った殴打はその図体に見合った凄まじい威力のようで、聖剣を使って弾くのがやっとといった様子だった。


「エリック、どいて!!」


 エリックが攻撃を捌いてくれた瞬間を見計らって、胴体部分が無防備になった魔物に魔法を放つ。属性相性なんて考える余裕無かったから、ひとまずただの魔力弾を咄嗟に出せる最高火力で。


ギュガッッ!!!?


 魔力弾を無防備な胴体に受けた魔物が、呻き声らしき鳴き声と共に大きく吹き飛ぶ。


「やった!?」


「っ! まだだ!!」


 私が構えを解こうとするのを大声で制して、森の中から姿を現したもう一体にエリックが斬り掛かる。

 だが、新たに現れたさっきと同じヘビ型の魔物は、ダンジョンで鍛えたエリックの一太刀を細い尾であっさりと受け止めてみせた。


「なっ!?」


 想定外の事にエリックは驚きの声を上げ、追撃を食らう前に慌てて距離をとる。


 よく見れば、新規の魔物はさっきの魔物と色味も体の大きさも違う。図体はやや小さく、しかし感じ取れる魔力量は段違いに多い。体表を覆う鱗は、陽光の反射すら感じさせないくらい純粋な黒だった。


「エリック、そいつ変異種だ! 気をつけて!」


 変異種とは、謎が多く、本来の種に比べて格段に厄介な魔物の総称だ。

 ただ図体が大きくなっただけのものもいれば、繁殖力のような戦っただけでは本来の種とどう違うのか判断がつかないものが強化されている個体も、今回エリックの太刀が通らなかったように耐久力や防御力が極端に上昇している個体もいる。

 種の適性では使えるはずがないとされる魔法を使う変異種も過去に確認されていて、元から討伐難易度が高いとされていた種の中に適性外の魔法を使う変異種が現れた時には、あまりの被害の多さに国をあげての大規模な討伐隊が組まれたこともあった。


 目の前の魔物が変異種であると判断できる最大の特徴及び共通点は、体表が異様なほど黒いこと。

 それから、私のような魔法を得意とする者しか判断の材料にできないが、魔法が使える種であるかないかに関わらず、保有する魔力量が極端に多いこと。


 感じ取れる魔力の質からして、この変異種はきっと何らかの魔法を使ってくるだろう。種の特性通りなら水か土か。でも、変異種にその法則は通用しなくて、だから……っ!?


「エリック、だめだ!!」


 変異種の使ってくるだろう魔法を警戒しながら2人で反撃の機会を探っていた時、視界の端を木々の作る日陰ではない黒が掠め、慌てて叫んだ。


「どうした!?」


 私の叫びを聞いたエリックは、変異種との距離を詰めるのを諦めて私を守れる距離へと戻る。

 変異種の弱点を探そうと様々な攻撃を試した彼の体には細かな傷が見て取れ、息も珍しく上がってしまっている。……この様子では、現在の私の消耗が少ないと言えども変異種を五体満足で倒すのは厳しいだろう。骨の数本で済めば御の字。可能性として少なくない最悪の場合には死が待っている。

 しかも、それは敵が変異種だけだった時に限った話だ。


「森の方から最初に吹き飛ばしたのと同じ魔物が来てる! それも1匹や2匹じゃない! 魔力が感知できる範囲だけでも10匹、森の規模も考えると、まだ増援が来る可能性だってある!」


「魔物が変異種と群れてるって事か!!? そんなのありかよっ!!? でも俺たち転移陣なんて高価なもん持ってねーし、魔物が来てる森以外の方向にあんのは崖だぞ!? 逃げ道ねーだろ!! 飛び降りて死ねってのか!?」


 あんまりな状況にエリックが叫び、その叫び声に反応したらしい変異種が尾を叩きつけてきたので慌てて避ける。この間にもヘビ型の魔物はどんどん数を増やしながらこちらに近づいて来てきて、一瞬の躊躇すら許されない状況に追い詰められていく。


「少なくとも、このままじゃ2人とも大量の魔物に蹂躙されて死んじゃう!」


 なかなかのしぶとさを見せる私たちに焦れたのか、さっきから変異種が土の槍を放つ魔法も使ってきていて、それを相殺している私の魔力量が無視できない速度で減っている。変異種が相手だからと初手で使ってくる魔法の属性や規模を測りかねて、魔力の消費量がありえないくらい嵩んでしまったのもその一因だ。

 戦っている場所は段々と崖に近づいている。もうすぐ増援のヘビたちが戦いに加われる距離になってしまう。……本当に、もう後がない。


「っやば……あ゛っ!!?」


 焦ったせいで狙いが狂って、相殺し損ねた土の槍が脇腹を掠め、ローブを巻き込みながら崖の外側へと体が引っ張られる。


 だめだ。そう思った。

 でもこれで、今度こそ楽になれるんだ、とも。


 不思議とゆっくりになった世界で、目を見開いて顔をひきつらせるエリックの表情だけがやけに鮮明に見えた。


「リズ!!!」


 咄嗟に私に手を伸ばしたエリックだけど、到底届く距離じゃないと分かってすぐにその場から走り出して、崖っぷちから私の方へと躊躇いなく飛んだ。

 私には、『駄目』も『来ないで』も『逃げて』も何一つ言えずに、エリックが落ち行く私に伸ばした手を届かせるのを、唖然としながら見ているしかできなかった。


 ただ、エリックに触れられた瞬間、世界の時間が元に戻った。


 一瞬の浮遊感の後、内蔵が浮くような感覚と共に風を切る音だけをエリックの腕の中で聞いた。

 落下の衝撃から守るように頭を押さえられて、痛いくらいに抱きしめられながら、下へ下へと落ちていく。背中に回って私の服を強く握る手が、きっと力の入れ過ぎだけではない理由で震えている。


 思い出すのは、私がタチの悪い冒険者にフードを取られてしまって、村からエリックと一緒に追い立てられた日の事。

 一緒に村の門を飛び越えたあの瞬間。


 崖下の川に着水する直前、私に残った魔力全部で魔法を使った。

 あの瞬間に使ったのと全く同じ、風を吹き上げさせて衝撃をやわらげる魔法を。




 つまりは走馬灯が本来の役割を果たしたって事ですね。(情緒どこ行ったし)


閑話休題


 冒頭のイチャつき書いてる時、「こいつら、これから死にかけるんだよなぁ……」ってずっと思ってました。

 あんまりにも幸せそうにベタベタして、エリックが勝手に褒め殺しで時間稼ぎなんてしてくるものだから、いっそここで終わるか?キリよくしようと思えばできるしなぁ……と何度か筆を仕舞いかけました。子離れできないタイプの親心ってやつです。多分。

 が、これから私が登場させたいキャラを(番外編であれ本編であれ)登場させるにはまだまだ本編に出さないといけない情報が沢山あるので踏みとどまりました。

 ごめんよ2人とも。もう少し(作者の意向含む)世の不条理に振り回されておくれ。


 という事で、作者の執筆中の心境のお話でした。

 こんなところまでお付き合い下さり、ありがとうございました。

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