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 釈然としない気持ちを引きずったまま、翌朝にエリックの美味しいトーストとスープを食べて、再び歩き始めた。


 早めに出発したのもあって、太陽が真上に来る少し前には目的の村に着いた。

 すぐに私が2人分宿に部屋を借りて、その間にエリックは困り事の有無を村長に確認していた。勇者っぽい事をしたかったらしい。聖剣を見せても、何も頼まれなかったみたいだけど。

 私としては、この辺りでエリックの実力を引き上げたかったから、余計な手間が増えなくて好都合だった。


「さて、この村の近くに初心者向けの洞窟ダンジョンがあります。エリックには、そのダンジョンで2週間かけて私との連携を練習してもらうつもりです」


 宿の部屋で一息ついたタイミングで、改まって言う。ノリを合わせてくれたのか、エリックも背筋を伸ばして聞き、


「イエッサー!」


 と元気に返事をした。

 私はそれに調子づいて続ける。


「でも、今日は野宿で溜まった疲れを癒す方が優先なので、自由時間とします」


「イエーイ!」


 ……兵隊風のノリからブレすぎじゃない? 結局何だったんだこれ。

 私もちょっと、教会から自由になれたからってはしゃぎすぎかも。






ーーーーー






 という事で、2週間過ぎた。

 本当にあっという間だった。

 最初の3日以降は、ダンジョンに籠りっきりのせいで正直時間の感覚がおかしくなってた。

 ひとりで活動してた頃でも長期間ダンジョンに潜ることがたまにあったけど、その時と比べて2人だと気が紛れるから楽だった。キツさ半減って感じ。


 慣れてなかったエリックは、外に出た瞬間に「あぁ、朝っ、朝日だ……!!!」って狂喜乱舞してたけど。

 ……国境付近の魔物は強いから、もう3回はダンジョンに籠って強化訓練する予定だって言ったら逃げ出しそう。今更、絶対に逃がさないけど。




「エリック、そこの干し肉取って」


「はーい」


「傷薬は私が作るから要らなくて、後は……」


 そろそろ次の村に向かう予定なので、現在買出し中だ。

 勇者の旅と言うには平和すぎるが、魔族からの被害が出ていると聞いて出立した訳でもないから、こんなものだろうとも思う。王命に従ってユーフォレアへ赴き、何か問題が起こっているようなら解決して帰ってくる。こっちの王の真意は別にあるらしいけれど、額面通りに受け取った仕事だけするとなれば、押しかけの便利屋のようなものだ。




「……なあ、お前らだよな? 最近ダンジョンの魔物狩り尽くしてる2人組ってのは」


 しかし、そんな能天気な事を考えていた所為だろうか。分かりやすいゴロツキのお出ましだった。


「てめぇらの所為で、こちとら商売上がったりだ。責任持って埋め合わせ、してくれるよな?」


 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて話しかけてくる、冒険者らしき男が3人。運の悪い事に、威嚇を担ってくれそうなエリックは会計中で、こちらの様子に気づいていない。次の村まで1週間かかる予定だったから、収納袋に入るだけ買い溜めしようとしたのがアダになってしまった。

 冒険者ギルドで絡まれる分には多少の暴力行為も見逃してくれるけれど、ギルド外の公共の場ではそうもいかない。そして、オーバーサイズのローブを着てフードを被っていても私の体格が小さいのは丸分かりで、完全に相手から舐められてしまっている。攻撃魔法を街中で使うのもマナー違反だし、警備隊に話を聞かれる時はフードを取らないといけない。……正直、嵐が去るのを待つしか出来ない。


「私たちは別に獲物を横取りして回った訳でも無いんだから、埋め合わせなんてする必要は無いはずです」


 言い返すのは逆上を誘うので悪手だが、このまま(だんま)りだと腕を掴まれてどこかに連れて行かれる可能性があるので、抵抗の意思を見せて時間を稼がないと。


「そういう問題じゃねーんだよ。なあ、あの辺りのエリアは俺達の縄張りだったんだ。使用料ってやつを払ってもらわなきゃなんねーんだよ」


「ダンジョンは公共物扱いなので、所有権を主張されても困ります」


「てめぇはっ! 黙って俺らの言うことに従えばいいんだよ!!」


「チッ……じょーちゃん、大人をおちょくると痛い目見るっての、教えてやろーか?」


 3人の中でリーダーらしい男が、私の頭を締めるように握る。……マズい。フードは、フードだけはマズい。


「ちょっ、やめてください!! 離して!」


「ほーん、フードを触られんのが嫌だったのか? 見られたくねーもんでも、頭に隠してやがるって? ……見せてみろや、なあ!」


 慌てて抵抗するが、所詮魔法を使わない私なんてヒョロガキも同然。

 1番隠したかった白髪が、白日の下に晒される。


 同情的だった周囲が一気にざわめいた。

 頭を掴んでいた男も、その仲間も、驚きの声を上げて後ずさる。


「……やめてって、言ったのに」


 そう呟いて踵を返し、ちょうど会計を終えたらしいエリックの腕を掴んで走る。私と一緒にいた所を見た人もいるだろうから、絶対にエリックは回収しなくちゃいけなかった。旅の途中で訪れただけの村なら、この方がきっと傷が浅く済むはず。


「えっ、リズ!? どうして急に走ったり……っ!?」


 フードは被り直していない。こうなった時は、髪色を見せた方が道が空いて走りやすいから。

 ……だから、後ろから息を呑む気配がしても、握った手が強ばっても、仕方ない。


 村の門番が武器を構えたのを見て、強く地面を蹴る。2人分でも耐えられるかは分からないけど、門を越えるくらいなら出来ると信じて。


「とっ、飛ん……だ!?」


 驚きの声を上げるエリックに、ちょっと得意気になって振り返って笑ってみる。


「落ちるから、舌噛まないようにね!」


 『落ちる』の一言に、また繋いだ手がビクリと揺れた。でも、さっきみたいにエリックの手が離れようと動くことはなく、むしろ縋るようにより強く握られる。


「うぉおおおおっ!!!?」


 魔法を使っているのは私なのに、斜め上から落下に合わせて気合いの入った叫び声が聞こえた。クスクスと笑いながら落下の衝撃を和らげるように魔法を使い、着地してそのまま走る。走り出す時、後ろでちょっと転びそうな気配を感じたから、多少は魔法で補助してやる。

 わざわざ村の外までは追いかけられないだろうけど、念の為に、できる限り村から離れたかった。






ーーーーー






「……で、エリックはこれからどうする?」


 村が地平線の端で霞み、建物の影一つすら見えなくなった頃、ようやく走るのを止めて歩きに切りかえ、息を切らしたエリックに振り返って問いかけた。


「……っは、ぁ……! ちょ、っと…たんまっ!」


 私よりも重装備なエリックは、問いかけには答えず息も絶え絶えにそれだけ絞り出すように言うと、フラフラと数歩歩いて崩れるように地面に座り込む。

 まだまだ若いし魔法で多少補助もしていたのに、この(てい)たらく。


 私が、こうして理不尽な絡まれ方をされた末にフードや目隠しを剥ぎ取られる度、こんな感じで逃げないと行けなくなるだろうに、本当にアタッカーがこの体力の無さで大丈夫なんだろうか。

 このままだといずれ、遅れたエリックだけが私と一緒にいたというだけで捕まってしまう日が来るんじゃ……なんて考えて、その甘ったれた考えを慌てて振り払った。


 だって、私は混ざり者だ。

 犬猿の仲になってから世紀単位の時が過ぎた、ほぼ魔族しかいないユーフォレアの民と、ほんのひと握りの混ざり者以外は人族しかいないこの国、サジュレスの民の。


 魔族の特徴である、白髪と黒い瞳。

 人族の特徴で、魔族ではありえないくらい短い耳。

 これらがある限り、私たちはどちらにも溶け込めない。


 どちらの国でも混ざり者は受け入れて貰えないと、時折盗み見ることが出来た古新聞で知っている。

 ユーフォレアでも嫌な思い出の多い憎きサジュレスでも、混ざり者が見つかったら、禁忌を犯した親より先に混ざり者である子供が殺される。法や教義で明確に禁止された存在でもないのに、世間が許さないからとリンチに遭う。不景気で気が立ってる人が多いと、本当に酷い時にはミンチにされる。

 駄洒落っぽく言ったが、実際に数年前に起こった事件だ。


 そういうわけだから、この国で私がこの歳まで生きられているのは、本当に奇跡だった。


 国境付近だったり、山奥だったりに隠れ里のような場所でもあれば、私より年上の混ざり者も居るかもしれない。

 けれど、私が育ったのは魔族に関連する全てに差別意識の強いこの母国、サジュレスだ。

 知能ある生物は皆平等であるという教義(女神の言葉)をねじ曲げてまで、ユーフォレアを、魔族を、魔族との繋がりを示す混ざり者を、絶対悪と述べて排除を促進する国の中の、世界的に信仰されている女神教の神父が管理する孤児院で育ったのだ。

 この混ざり者特有だという異常なまでの膨大な魔力量と、孤児院の経営を担当した神父の小狡さや野心の強さが無ければ、きっととっくに野垂れ死んでいた。


 王都まで何週間もかかるような辺鄙な村なら、たまに混ざり者の存在を知らない子供がいる。何も知らないから、混ざり者()みたいな底辺に手を差し伸べて笑いかける。大抵は、交流に気づいた親が叱って縁が切れる。

 それでも声をかけてくれる子は、例外無く悲惨な運命を辿ってしまう。その子の周りから人が消えて、後ろ指をさされて、混ざり者の道連れで石を投げられる。

 無知な子供が、混ざり者と関わっただけでそこまでされるのだと悟った時に何をするのかと言うと、私たちから離れるか、私たちを恨むかがほとんどだ。

 それでも縁を切ってこない奇特で純粋すぎる子と巡り会えていた時は、混ざり者の側から子供と離れることを選ぶ場合だってある。

 結局は、相容れられないで道は分かたれる。


 まして、目の前の男は無知でも子供でもない。結論は聞くまでもなかった。




 ……ただ、息を整える彼と、妙に目が合う。

 暖かいオレンジ色の瞳が、その瞳の色の印象そのままで私を仰ぎ見る。この2週間とちょっとですっかり慣れてしまった優しさが、染め粉の色がどうやっても乗らない私の白髪を映している。目隠しすら見透かすようにして、汚泥のようだと言われた黒い目のある場所を、一心に見つめている。


 ……怖い。

 私を見つめる彼が。

 私から目をそらされる瞬間が。

 暖かい瞳から冷たい色を見つけてしまうのが。


 自分を守るように、肩にかけた大きめの収納袋の紐を強く握って、彼の腰にある聖剣に目を向ける。女神がこの大陸中の生命を潰えさせようとした暴君を討つために遣わせた者が持っていたという、聖なる剣に。

 大罪を犯した人間に、魔族に、分け隔てなく罰を与える聖剣に。


 ……この剣は、存在そのものが悪だという混ざり者を赦してはくれない。そんな気がする。

 女神を創ったのは所詮人間で、女神は世論の味方だろうから。


「……わ、私としては、荷物の類はエリックがさっきの村以外の近場の村に行ける程度に分けるから、それ以外は私に渡して欲しい。

 ほら、今回の買い出しでも私の貯金崩して物資買ったでしょ。何も無い状態で放り出す訳じゃないから、この条件で頷いて。私、エリックに向けて魔法打ちたくない」


 言い切って、未だに地面に座ったままのエリックに1歩近づく。収納袋を渡して欲しいと伝えるために、手のひらを上に向けて手を差し出した。


 目線は、もう私からは合わせられない。




「………………いやだ」




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