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 皆様、覚えていらっしゃいますでしょうか。

 6話目後半に登場し、リズとエリックが殺されかけて命からがら逃げ出した、あのぽっと出の変異種のヘビさんを。

お待たせ(?)いたしました、再登場(リサイクル)でございます。




 翌日から、里長に直談判して作物が枯れた原因を突き止めるために里にある畑を往復する日々が始まった。


 そして、私の挫いた足首がすっかり治るくらいの日数をかけて、私たちはとうとう真相に辿り着いた。


「ずばり、作物が枯れ始めたのは土壌の魔力が多すぎたせいよ!」


 私がこの里に流れ着く少し前、日照り続きになっていたらしい。普段使っていた井戸の水も水位が下がっていて、だから、水量に不安があった為に畑に撒く水を魔法で出した水にしたという。

 魔力というのはこの世界で植物が育つのに使われる重要な栄養の一つだが、与え過ぎればすなわち根腐れのようなものにも繋がる。

 ミシェルは近くの川から水を持ってきていたから、里の中の畑とは違って植えてあるものが枯れなかった。


 そんな説明を訥々と里の人たちに言って聞かせると、納得がいったような表情をする人たちと、まだ疑念が晴れない様子の人たちに二分されたようだった。


「そうか、我々はこの魔力量に胡座をかいて、魔法で楽をしすぎていたのか。クリスさん、ミシェル、原因を明らかにしてくれた事、感謝する。

 それから……ミシェル、今まですまなかった。この里の皆を代表して謝らせてくれ」


 1歩前に出た里長が、そう言って頭を下げる。


「いえ、あの……長にはずっと良くしてもらってて、この里に捨て置くようにして物心着いたばかりの私が預けられた時も受け入れてくれて、すっごく嬉しかったから……。今回の件で恩返しになったらって思ったのもあったんです。だから、どうか謝らないでください」


 里の過半数は、これを機にミシェルに好意的になってくれたと思う。だからきっと、そろそろ私が元の場所に戻っても、ミシェルはもう大丈夫。


 そう思って、別れを切り出そうとした時だった。


「みんなっ! 大変だっ、魔物がっ! 魔物が大群で襲ってきた!!」


 里の周辺を見張ってくれている人が、そう叫んで私たちがいる里の広場に駆け込んできた。


 魔力は魔物にとってご馳走のようなものだから、きっと作物が根腐れを起こすほどの魔力が溜まっているこの地を狙って集まってしまったんだろう。


「若い衆は今すぐ逃げろ! このまま全滅するのはいかん! ここは我々年寄り連中が囮になる!」


 さすがと言うべきか、突然の事に凍りついてしまった人々の中で、一番最初に自体を飲み込んで指示を出したのは里長だった。

 しかし、この里の人々は軍隊の兵士じゃない。そう簡単に意見が纏まることも無ければ、無条件で里長の指示に従うとも限らない。


「そんなこと言っても! この里から出たら、俺たち一体どうやって生きていったらいいんだよ!!」


「いいから早く逃げるんだ! このままだと全滅する! 隠れ里なんて何度でも作り直せばいい!! だから早く!!」


「あの大群を相手に年寄り連中だけで時間稼ぎなんて無理だ! みんなで立ち向かった方がまだ未来がある!!」


 一人の青年が里長に噛み付くように叫び、見張りだった人が里長に考え直すように言う。

 その周りでは女子供が身を寄せ合うようにして泣き崩れ、老人たちは覚悟を決めたように見張りの青年が走ってきた方向を睨むように見つめて、事態は混沌としたままに時間だけが過ぎていく。


「そんな風に言い争っている場合なの!!? 今すぐにでも逃げないと、魔物がこの場所に到達してしまうわよ!!」


 どうにか収拾をつけたくて叫んでも、


「余所者は黙ってろ!!」


 と言われるばかりで、私の言葉では彼らの耳に一切届かない。


 そんな中、真っ先にこの里に辿り着いた漆黒のヘビが、言い争っている里長たちに向かってその長い尾を振り下ろした。


「危ない!!!」


「ミシェルっ!!」


 彼らとヘビの間に飛び出して行ったミシェルの名を叫ぶ。

 もうもうと立ち込める砂埃が晴れた時、そこには腰を抜かしている里長たちと無傷でこちらを睥睨する黒蛇、そして倒れ伏すミシェルの姿があった。


「ミシェル、ミシェル!!」


 魔物の事も忘れて駆け寄り抱き起こすけれど、ミシェルは力無く四肢を放り出したままピクリとも動かない。

 黒蛇の攻撃をその身に受け、地面を少し転がった時にできてしまったらしい頬の擦過傷が痛々しい。

 けれどもミシェルが上手く魔法を使ったのか、それ以外に目立つ外傷は見られなかった。


「……っ!!」


 ミシェルの顔に落ちた私以外の影が落ちる。

 見上げた先には予想通りに、ミシェルを攻撃した黒蛇がいた。


 私たちを丸呑みにしようとする大きく開いた顎門(あぎと)と、そこから覗く鋭い牙があった。


 黒蛇の尻尾に薙ぎ払われたミシェルを追って駆け出したから、私たちを助けられる場所には誰もいない。

 絵に描いたような絶体絶命だった。


 いっそ、このピンチが本当にフィクションで、遅刻しがちなヒーロー(ローレンス)が助けに来てくれたなら。


 縋れもしない空想を描いて、逃れられない現実から目を逸らそうときつく瞼を閉じた。


 そして。




グルルルゥガアアアッ!!!




 耳を劈くような断末魔が聞こえたかと思うと、瞼の裏が赤く光を帯びた。

 黒蛇の巨体に遮られていた陽の光が、瞼に流れる血液を透かしている。


「遅くなってごめんね、ティーナ」


 次いで聞こえたのは、誰より会いたくてたまらなかった愛しい人の声。


 夢でも見ているのかと思って、未だ微かに震える片手で頬を抓らずにはいられなかった。


「……ダメだよ、クリスティーナ。君のきれいな肌が傷ついちゃうから、ね?」


 それを、剣を持っていない方の手で優しく包むようにして止められた。……ああ、温かい。


 一気に見えているものに現実味が戻って、周囲の幾つもの剣戟が脳にまで届く。周りを見れば、我が国の騎士たちが黒いヘビの魔物の群れを相手に戦っている。

 一際戦闘が激しい最前線では、騎士団の制服以外の格好をした男性が縦横無尽に駆けて黒蛇を薙ぎ払っているようだった。


 正に一騎当千と言うに相応しいその人の様子と、何より心強いローレンスの存在に、体から力が抜けてしまう。こんな場所に居ては邪魔になるのに、安全な場所に移動するどころか立ち上がることすら難しい。


「ティーナはそこに居てね。私がちゃんと守ってみせるから。

 ……あと、これが終わったらお説教だよ。君を見つけるまでの間、本当に生きた心地がしなかったんだから」


 一瞬抱き寄せられて囁かれた言葉に、罪悪感から肩が跳ねる。……でも、そう言って貰えたことで緊張が緩和されて、少しずつ平常心が戻ってきた。

 今の私がするべきなのは、どんなにもどかしくても、ローレンスの言い付け通りにここでじっとしている事。


 そう結論づけて、魔物との戦いに加わったローレンスの背中を目で追いながら、みんなが無事で戦いを終えられるようにとひたすらに祈った。






ーーーーー






「エリック、私は右側をやるからお前は左側を倒せ。どんなに小さかろうと、1匹たりともクリスティーナに近付かせるな。命令だ」


 父王を廃する為に探し出した手駒でもある勇者エリックに言い付けて、私は手早く視界に入ったヘビの全てを排除せんと剣を振る。


 並の冒険者一人が相手するのであれば多少手間取るだろう魔物だが、クリスティーナを守る為にあらゆる分野で力をつけてきた私からすれば、そこまでの強敵でも何でもない。

 同時に相手取るならば5体が限界でも、戦うのは私一人ではない。だから、クリスティーナの居る場所に魔物は一切辿り着けない。


「変異種だ! 魔法を使う変異種が出ました!」


 途中で騎士の誰かがそう叫ぶ声もしたが、


「雑魚は任せた! 俺が変異種の相手をするから邪魔だけはするな!

 あの時の礼、たっぷりさせてもらおうじゃないか!!」


 とエリックの叫び返す声がして、全ての雑魚が倒し終わった頃には変異種も片付いたらしく、一気に場は静まり返った。


「ローレンス!!」


 剣を鞘に戻したと同時に、ティーナが私の背中側から飛びついてきた。

 戦いの直後にそんなことすると危ないよ、という言葉が口から出かかって、でも、私の背中にしがみつくティーナの手が小さく震えていたから。


「ティーナ、もう大丈夫だよ。……ひとりで、よく頑張ったね」


 私がティーナを見つけた時、彼女は気絶した白髪の少女を守るように上半身を抱き抱えていた。ティーナ自身に戦う力は無いのに、魔物の前にひとりで立ち向かっていた。

 無鉄砲とも言えるその自己犠牲が、私が好きになったティーナの持つ彼女らしさだから。今は彼女が落ち着くまで、ただ抱き締めてお互いの熱を溶け合わせていた。







ーーーーー






 魔物の群れとの戦いが終わって、私も村の人たちも落ち着いた頃。

 ローレンスに今までこの里であった出来事を全て話して、ちょっとした散歩のつもりで死にかけた事をこってり絞られてから、私たち夫婦は少数の護衛と共に里長と向き合っていた。


「私のような混ざり者が相手だというのに、こうして話し合いの場を設けてくださったこと、心より感謝します」


 魔物の群れに襲われても運良く無事だった里長の家で、もてなし用のお茶が揃ったと同時に里長がそう言って頭を深く下げた。


「そこまでしなくていい。それで、要件は何だ? クリスティーナが疲れているようだから、手短にしてくれ」


 私以外にはどうも冷たいローレンスがそう言って里長に頭を上げさせる。ここで私がローレンスに小言を言っては話が進まないから、色々言いたい気持ちをぐっと堪えた。


 里長の話というのは、里を救ってもらった礼と、この隠れ里の存在を言いふらさないでほしいという嘆願だった。

 混ざり者が住んでいると知られては、里ごとみんな焼き払われてしまうかもしれないから、と。


 生まれひとつでそこまでしなくてはならないこの国の在り方に無性に怒りが湧いたが、所詮他国の賓客に過ぎない私にこの里のためにできる事なんて無いから、里長にただ黙って首肯して見せた。


「護衛の騎士たちも万全な状態とは言えないから、今日一日だけこの里で泊まらせてもらって、明日の昼前には出発しようか。旅程が押しているから観光は少し減らさないといけないんだけど、どうか許してね」


 里長の家を出ると同時にローレンスにそう言われたのを了承した後。

 私は、今まで世話になったミシェルに最後に2人きりで話がしたいと我儘を言って、里の外れにあるミシェルの家へと向かっていた。


 ミシェルの様子を見てほしいと言い付けていた騎士から「ミシェルさんがお目覚めになりました。どうやら外傷は頬の傷ばかりで、骨や関節の異常も無いそうです」と報告を受けていたから、少し安心しつつも神妙な面持ちでこの2週間に何度も眺めた木製のドアをノックする。


「クリスっ!」


 すると、中から弾かれたような勢いでミシェルが飛び出してきた。

 咄嗟に彼女を受止めて、でも殺しきれなかった勢いに押されて2、3歩たたらを踏む。


「クリス、明日この里を出るって本当なんですか!? どうしてそんなに急に!!」


「ごめんねミシェル。私、実は隣のサジュレスの王太子妃なの。この国には外交も兼ねた新婚旅行で来ていて、予定通りの日にユーフォレアの王城まで行かないと国際問題になりかねないから、なるべく急がないといけないの」


「そんなっ……だからって急すぎます!! 私に居場所をくれるって言ったのはクリスなのに、私を見捨てるんですか!?」


 そう言って私に詰め寄るミシェルの神秘的な黒い瞳は、涙ですっかり濡れてしまっていた。

 無責任な事をこれ以上言ってはいけないと思って、私は黙ったままミシェルの背に腕を回す。せめて、ミシェルには泣き止んで欲しかった。


「わたしっ、クリスと離れたくありません! どうか一緒に連れて行って……! お願いです!!」


 しかしミシェルは泣き止んではくれなくて、それどころかより大きな涙を零しながら私の服を掴んで離さない。


「ミシェル、それは……」


「別に連れて行ってもいいんじゃないの、ティーナ」


 ミシェルの申し出を断ろうとした時、いつの間にか近くに来ていたローレンスが言った。


「でも、……」


 私だって、ミシェルが一緒に来てくれたなら嬉しい。けれど、ミシェルがこの里から出て魔族の目に触れたなら命の危険があると聞いてしまった。だから、断るしかないと思っていたのに。


「私がティーナのお願いで叶えられなかった事が、今までに1つでもあった? ……大丈夫。何があってもティーナの笑顔を守るって言ったでしょ?」


「ローレンス……良いの?」


「もちろん。お説教の前に聞いた話で、彼女がティーナに良くしてくれたのは知ってるし。新婚旅行の直前にティーナ付きの侍女が1人結婚して職を辞してしまったから、ちょうど良いんじゃないかと思うよ」


 王太子妃付きの侍女になるのに十分な教育を受けてからにはなるし、教育自体もそう簡単なものじゃないだろうけどね。

 なんて、ローレンスは最後に意地悪な脅しを付け足したけれど、既に『私と一緒にいる為なら何でもする』と覚悟を固めてしまったミシェルには全く効かなかった。




 ……そんなわけで。

 私たちは新たにミシェルを加えて、翌日に隠れ里を発った。


 この国の王城までの道中は、今までが嘘のように平和だったと述べておこう。


 ただ、この国の王城に向かう馬車の中で、


「この新婚旅行が終わったら以前よりもっと忙しくなっちゃうだろうから、ごめんね」


 と先に事情がよく分からないまま謝られて、結局いくら問いつめても具体的な話を何も教えてくれなかった事だけが、心に引っかかっていた。




 文字数の問題と私の文才の問題で、戦闘シーン全カットです。そもそもこれ恋愛モノだし、そんなに戦闘シーンとかじっくり書かんでもいいよな! という怠慢もちょっとあります。(自供)

 それでも今作最長の約5700字とか、自分で書いておきながらびっくりです。


 そして皆様、(今回二度目の)お待たせいたしました!

 次からちゃんとエリック側の視点に戻ります!

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