11
筋書きのメモに、(頑張って1話にする)って書いてあったんですけど……無理でした。ぜんっぜん無理でした。
……という事で、このお話から、今までとは全く関係なく見える、あらすじにしか出てきてない知らんやつ視点のお話が入ります。どうか読み飛ばさないでやってください。頑張った執筆当時の私さんが泣いてしまいます。
私が転生に気づいたのは12歳の頃。
公爵である父と王家の間で交わされていた口約束の婚約が本格的に書面に起こされ、当時第一王子だった王太子殿下との顔合わせがあった時だった。
「お初にお目にかかります、クリスティーナと申します」
「私はローレンス。これから婚約者としてよろしくね、クリスティーナ嬢」
そうして差し出されたローレンス第1王子殿下の手を恐る恐る握ったその瞬間に、私は前世を思い出し、その情報量の多さに倒れてしまった。
私が転生したのは、タイトルも思い出せないとある乙女ゲームの世界。
ゲーム内容といいタイトルといい、ありきたりな学園を舞台にしたヨーロッパ風異世界のシンデレラストーリーがテーマの作品だったけれど、キャラデザやスチルの綺麗さに思わずパッケージ買いし、キャラ専用BGMも良くてすっかりハマってしまったのを憶えている。
このゲームでは、16歳になった年から始まる学園生活の1年間でエンディングまで到達して、一学期が共通ルート、夏休み後から卒業式までの二学期が個別ルートになっていたはず。
私のお気に入りの攻略対象は、王道の生徒会長枠でもある王子様だった。パッケージど真ん中に居る感じの。確かエンディング後のモノローグに、『卒業を機に王太子として国政に関わり始め、数年後には立派な国王として(あなた)に支えられながら国を治めた』みたいな文章があったと思う。
庶子として平民に混ざって育ち、学園に入学する時期に実父が当主の伯爵家で引き取られたヒロインにとって、考えうる限り1番の玉の輿だった。
「そして、全ルート共通で出てくる恋敵役が、攻略対象たちの幼なじみであり、メインヒーローである王子の婚約者でもあるクリスティーナ公爵令嬢。……つまり、今の私」
なんとテンプレート通りの転生だろうか。もはや笑うしかない。
数少ない救いがあるとすれば、王太子ルート以外ではビジネスパートナー同然でも王妃になれて、王太子ルートでも素行の悪さから修道院に送られる程度であることだ。国王陛下も参列なさる卒業パーティーでの断罪ショーは免れず、公爵家の名声や財力でも庇いきれない醜聞を負わされるが。
しかしそれでも、斬首だとか、国家反逆罪で一族郎党晒し首だとか、そういう過激な断罪も、それをされるに足るだけの過激な恋路の妨害もしなくて済むのは本当にありがたい。
全年齢対象ゲーム最高!!
「でも、……どうせなら、愛し愛される相手と結婚したかったわ」
世継ぎというものが国王には必要なわけで、でも元日本人の心を持つ私としては、義務的に相手されるのは心が死んでしまう気がする。
一般的な家庭に生まれ育ち、恋愛結婚をして穏やかな家庭を築くのが夢だったのだから。
悪役令嬢だって、そのくらいの夢を持ったって良いでしょう?
そういうわけで、私が目指すべきなのはヒロインに婚約者様を攻略してもらうこと。それがダメそうなら、せめてお互い尊重し合えるだけの関係性を築くこと。
まずは、婚約者として定期的に行うという2人きりのお茶会で、私の希望を伝えるところから頑張ろう。
……そう、前向きに決意を固めたのが、顔合わせで倒れた翌日、私がおよそ半日ぶりに目覚めたのこと。
そしてその顔合わせから2日後の今日。
「2日振りだね、クリスティーナ嬢。体調の方は大丈夫?」
王子教育で忙しいはずの婚約者様が、私の見舞いにやってきた。
お茶会がある再来週までに具体的なカンペの準備だったり計画を立てようと思っていたのに、早速初期装備でラスボスとご対面だ。……もう1回倒れちゃダメかしら。うん、知ってる。そんなのダメに決まってるわよね。うふふふふ(白目)。
「……顔色が悪そうだ。もしまだ万全では無いという事なら、また後日改めて出直そうか?」
「いっ、いえ、大丈夫ですわ。お忙しい中こうして会いに来てくださったこと、嬉しく思います」
まあ良いわ。どうせやる事は変わらないから、先延ばしにせずに終わらせてしまいましょう。
「第1王子殿下は、これから何かご用事がおありでしょうか? もしよろしければ、少しお話する時間をいただきたいのです」
「もちろん大丈夫だよ。クリスティーナ嬢の見舞いのために空けた時間だからね。……それから、嫌じゃないなら私の事はローレンスと呼んでほしいな」
「分かりましたわ。ではこれからは、ローレンス殿下とお呼びさせていただきますわね」
本当は『殿下』もその堅苦しい言葉遣いも無くていいんだけど……それはまた、追々でも良いかな。
などと呟いたローレンス殿下が、改めて私に向き直る。
「それで、クリスティーナ嬢。話というのは一体何かな?」
小首を傾げるのも様になっている。さすがメインヒーロー。
「お話したいのは、私たちの婚約についてですわ。今回の婚約にあたって、お互いにいくつか決まり事や約束を交わしたいと思いましたの」
「約束って言うと、具体的には?」
そして私は話し始めた。
今回の婚約は政略でお互いの気持ちが伴っていないという事実確認に始まり、できる限り互いに歩み寄って良好な関係性を築きたい事。
もし他に好きな人ができたら、まずは相談してほしい事。
その好きな人と身分が釣り合っていて素行も問題無いようなら、円満に婚約を解消しても構わないと思っている事。
……ざっと、こんな感じの話を。
「私はそこまで身勝手な人間じゃない……と言いたいけど、人の心は確かに分からないものだからね。良いよ、約束しようじゃないか。そして証明してあげる。私がどれだけ誠実な人間なのか」
自信に満ち溢れた笑みもとても美しいその人は、
「今だって、こんな面白い話をしてくれたクリスティーナ嬢の事が、ものすごく気になってるんだ」
と、12歳にあるまじき色気を纏いながら私に囁いた。
その瞬間に、私はまんまと恋に落ちたのだと思う。
浮気を許容するような約束を交わした直後だというのに、呆気なく。
画面越しの物語の延長のつもりでいたのを、現実にされてしまった。
ーーーーー
それから私は、乙女ゲームの本編が始まる3年生になるまで、ローレンス──『殿下』を付けて呼ぶことも敬語で話すことも、あの見舞いの後に禁止されてしまった。「仲良くなるには呼び方と話し方からでしょう?」というのが理由らしい。──と自分なりに恋心を隠しつつ交流を深め、幼なじみでもある他の攻略対象とも友人として仲良くしながら過ごした。
そして迎えた運命の新入生入学式。
道に迷ったヒロインがローレンスに案内されて入学式の会場に向かう、というベタな出会いイベントが起こる日。
……どういう訳か、出会いイベントが起こらなかった。
ヒロインと思われる初々しく愛らしい女子生徒は、私が恋敵ではなくただの先輩として登場する唯一のルートの、『小さい頃に結婚の約束をした商会の息子』と一緒に仲睦まじく私の隣を通り過ぎて行った。
それを見た時に私は……なんというか、力が抜けてしまった。この恋心を諦める必要が無いって分かったから。
「クリスティーナ、どうかした?」
「どうもしないわ、ローレンス。ちょっとぼーっとしてしまっただけ。昨日少し夜更かしをしてしまったから、多分その疲れが出たんじゃないかしら」
「……そう? なら良いけど、何かあったら言うんだよ?」
「ええ、ありがとう」
この時初めて、なんの憂いもなくローレンスに笑いかけることができた気がした。
それからというもの、私の予想に反して『悪役令嬢vsヒロイン』の構図は1度も見られず、何故か私が何度かヒロインが起こすはずのイベントを引き起こしてしまった以外は非常に平和な一学期になった。
夏休みは例年通りにローレンスと一緒に過ごす予定で埋まり、避暑地でちょっとしたローレンスの個別イベントを先取りするなどのハプニングも込みで楽しんだ。
二学期は乙女ゲームのイベントでは無い、でもイベントにあってもおかしくない程の日々をローレンスと共に過ごした。ローレンスは私を、ティーナと愛称で呼んでくれるようにもなった。
そして。
「……こんなところで何してるの? ティーナ」
「ローレンス……なんでもないわ。ただ、もう卒業なんだと思うと、少し切なくなっちゃったの」
卒業パーティの会場から少し抜け出して、夜風の涼しいバルコニーで休んでいたところに、私を探してローレンスが来てくれたらしかった。
「ねえ、ティーナ」
「なあに?」
「君はさ、今年の入学式の日まで、何かを凄く怖がっていたでしょう? 私なりにその原因を考えて、ティーナの心が少しでも安らぐように頑張ったつもりでいたけど……結局、その原因だけはいつまで経っても分からなかった。今なら、それを教えてくれる?」
「……そうね、もう、話してもいいのかもしれないわね」
そして私は話し始めた。
荒唐無稽に思えるような、前世と乙女ゲームの知識、私が心配していたローレンスの心変わりの事、訪れるかもしれなかった未来について。
「……なるほどね。信じ難い事ばかりだけど、これで確かに納得がいったよ。ティーナが12歳の頃に言ってた約束は、その知識があったからだったんだね」
「ええ。……今まで、隠していてごめんなさい」
「謝らないでいいよ。私だって、この3年間の学園生活で、ティーナがいつ別の男に言い寄られるかと気が気じゃなかったし。
私の心変わりを気がかりに思うって事はさ……誰かに取られたくないって考えるくらい、私を好きになってくれてたって事でしょう? それだけで十分、なんならお釣りがくるくらい嬉しい」
「……もう、ローレンスったら」
全てを話しても変わらない、いつもの溺愛ぶりにほっと胸を撫で下ろしながら、私を引き寄せる腕に従ってしなだれるようにローレンスに身を寄せる。
「クリスティーナ、今改めて言うね。王子としての私じゃなくて、ただのローレンスという一人の男として。
……貴女に恋焦がれてやまないこの私の手を、どうか取ってはくださいませんか。貴女を心から愛しています。一生愛し続けると誓います。
だから、私と結婚してください」
そうして差し出されたのは、彼の瞳と同じ色をしたレッドダイヤの輝く指輪。
「……っもちろん!!」
2人きりで愛を誓い合った私たちを、空に瞬く星々が祝福してくれているかのようだった。
ここまで読んでくださった皆様へ。
本当にありがとうございました。
もう少しだけどうか、知らんやつ視点にお付き合いください。




