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終わりが見えてきたぞー!

つってもまだ半分くらいだけどー!


視点、一旦リズちゃんに戻ります!

あと、途中でエリック視点になります!




「行こう、リズ」


「うん」


 差し出された手を握る。

 しっかりとした働き者の、そして剣を握る人の手だ。

 暖かくて、私を決して傷つけないでいてくれる人の手だ。




 あの、私が言うつもりのなかった本心を口にした日から、早くも半月近くが過ぎた。

 翌朝にはすっかり元通りの振りをして、お互いにぎこちなく日常を取り戻していった。


 最近はもうお互いの傷もすっかり良くなっていて、今日、旅を再開させるのだ。


「最初は、ここから1番近いユーフォレアの村に行って旅支度を整え直すとして……その後はどうしたい?

 本に出てきた順番をなぞるか、それとも近い場所から巡っていくか」


 私が書き起こした本に登場する場所のリストを片手に、エリックは先頭を歩きながら言った。

 道無き道を開拓するように進むしか無いので、横に並んで進むより縦に並んで進んだ方が効率が良かった。


「そうだなぁ……そんなに時間かけるのもあれだから、近い順でいいかも。花畑は終わってるから、妖精の棲む森とかどう?」


「そこだと……近くの村から半月もあれば着くのか。途中に魔物狩りで稼げそうな場所もあるし、良い感じだな。

 その次はどうする? 幻獣の楽園も花火大会も、妖精の棲む森からは大体似たような距離だけど」


「早い内に行かないと夏を逃しちゃうだろうし、先に花火大会がいいな」


 大雑把なプランを決めながら、足場の悪い森を進む。

 これから見られるだろう絶景を思うだけで、いくらか気分が明るくなるようだった。




 魔国ユーフォレアは魔族の国だ。

 けれど祖国サジュレスと違って、人間が街を歩いていたとしても通報されたり石を投げられたり、果ては捕らえられて殺されたり、なんて物騒なことは起こらない。

 力ある種族である魔族は、寄せ集めてようやく自身と張り合えるような弱い人族をわざわざ攻撃したりしないから。


 魔族の根本には『人族より自分たちの方が上だ』という意識があって、だからこそ人間の存在は見逃せる。


 しかし、混ざり者は違う。

 下等な人間と混ざった魔族モドキとして、私のような混ざり者も、人間と結ばれた魔族も決して存在を許さない。親族からそのような存在が出ると外聞が悪いとして一族総出で殺そうとする。

 教会所属の証を身につけていたからこそ石を投げられるだけだった祖国よりも、私にとって命の危機が大きい場所だ。


 最初私は、この国を横断する最短ルートで、混ざり者でも受け入れられている実力主義の共和国に向かおうと思っていた。

 道中で死んだらそれまで、もし生きて辿り着いたら生まれ直したつもりで生きよう、くらいの気持ちで。


 でも今は、共和国なんでどうでも良くて、ただ漠然と死にたいと思う。

 エリックが付き添うこの旅路の終わりで、大人しく息の根を枯らしてしまいたい。




 遠目に魔族が闊歩する村を見て、深くフードを被り直した。

 黒い瞳や耳の短さを誤魔化すのは無理だとしても、せめてこの髪だけでも染められたら良かったのに。


 森を抜けてから最初に辿り着いた村で保存食やら飛び道具やらを補充して、まず私たちは『妖精の棲む森』に向かった。


 妖精というのは、群れを作らず、成人した人間の手のひらサイズ程度しかない小さな身体を持つ種族だ。

 しかし好む環境の条件が厳しくて、自然と「1体見たら他に5体はいるぞ」と言われている。

 それから、妖精がどのように生まれるのかを目撃した記録は残っておらず、捕まえてもすぐに逃げられるか2日ももたずに遺体すら残さず消えてしまうかのどちらからしいので、その生態は謎に満ちている。


 外見としては、デフォルメされた透明な羽の生えた小さな動物で、「そういうぬいぐるみだよ」と言って差し出されたなら疑いなく信じてしまうほど可愛らしい。


 いざ到着してみると、エリックが即座にたくさんの妖精に囲まれてピーギャーチューニャー騒がれてしまって、なんだか大変そうだった。やっぱり、本能か何かでエリックの優しさみたいなものを感知してるんだろうなと思った。


 ……いいよ、別に。

 私は「わふっ」ってテンション低めのわんちゃんが手に乗ってくれたから。そもそも、戯れに来たんじゃなくて景色を楽しみに来ただけだし。

 妖精の祝福の瞬間も、エリックのおかげで見られたし。祝福ですごく良さそうなもの貰ってたみたいだけど。……もういいよ、別に。


 料理当番変わってくれたから、もう拗ねるのもやめるって。




 で、2番目に行ったのがユーフォレアの花火大会。

 川沿いに屋台だとかも出てて、すごく楽しかった。サジュレスと比べて、祭りの時の屋台とか食べ物にあまり違いは感じなかったかな。

 人混みもすごくて、手でも繋いでないとはぐれちゃうからってエリックが言って、手を繋いで花火とか屋台を見て回った。




 3番目は紅葉を見に行った。

 深い森の入口で紅葉狩りをして、奥で大昔に信者の絶えた大聖堂を見た。


 人が立ち入らない場所だから大聖堂の状態は意外と良くて、1番大きなステンドグラスがそっくりそのまま残っていた。

 でも、女神像と思われる石像は何者かに砕かれたようで、頭部から胸部辺りまでがなくなっていた。風化のせいなのか細部の段差だったり彫り込みも消えてしまっていて、でもそれが味わい深かった。


 ステンドグラス越しに見た朝日があまりに綺麗で、まだ寝ていたエリックを思わず叩き起してしまった。

 その日の食事当番は、エリックに見守られた私が彼に変わってする事になった。




 4番目に幻獣の楽園と呼ばれる森、5番目に巨大樹、最後に空飛ぶ光るクラゲの群れを見た。

 どれも最高の景色だった。


 たくさんはしゃいで、エリックを引っ張り回して、すごく楽しかった。

 旅の目的を変えてからまだ1年しか経っていないのが信じられないくらい、濃い1年間だった。





「リズ、本当にいいのか?」


 最後の場所に行こうと決めた満月の日の朝、支度を終えた頃にエリックが言った。


「今日を逃したら、次いつ来られるかも分からないでしょう? だから、私は別にいいの」


「でも、……まだリズのお母さんの墓参り、行けてないだろ」


「そう言うエリックこそ、祖国の王都でご両親が帰ってくるのを待ってるんじゃないの? 帰るなら今だよ」


 私の返しに一瞬黙るエリックだったが、覚悟を決めたようにこちらの目を見つめて、


「国交のほとんどない国同士の国境を越えた庶民の手紙なんて届くのにどれだけかかるか分からないけど、ちゃんと親には遺書を書いて送ってある。それに、下に2人も弟がいるから、俺1人いなくなったってそいつらが両親を立ち直らせてくれるはずだ。……だから、俺も別にいいよ」


 と言った。

 あまりに真剣に見つめられたものだから、私は何も言い返せなかった。


「……じゃあ、この前使った投げナイフの補充分買ってくるから、ここで待ってて。

 俺を置いていこうとか、絶対思わないでくれよ、リズ」


 そう言い残して、エリックは私に背を向けたまま宿の部屋から出て行ってしまった。


「…………」


 今更どうしたらいいのか分からなくなってきて、私は自分でさっき綺麗に整えたベッドに突っ伏すように横になった。






ーーーーー






 魔族だらけの町を歩く。

 存在を黙認されているはずの人間である俺ですら疎外感やらを覚えずにはいられないこの町で、リズは一体どれほどの孤独を感じていることだろうか。


 人族にも馴染めず、実母の故郷でも排除され、居場所が何処にも無い狭間の存在。

 俺の母が「どんな人にも優しく 」と教えてくれていなかったら、俺自身もきっとリズを拒絶する側にいた。


 リズ(混ざり者)を受け入れる事は有り得ないとされているのに、どうして母は世間に染まらなかったのか。

 無垢な幼少時代に交流したことがあったのか。

 俺が母の教えを深い部分で受け入れられた時のように、虐げてきたはずの人間に歩み寄ろうとした彼ら(混ざり者)に感化された経験でもあるのだろうか。


 直接答えを知る機会はきっともう無いだろうから、旅に出る前に聞いてみれば良かった、と今更になって思う。

 ついでに、愛する人に愛を伝えるために、相手の考えを受け入れる以外に何が出来るのかを、万年新婚夫婦を気取る父に聞きたい。


 リズをひとりにしたくないけど、リズから離されたくはないけど、その気持ちと同じくらい、まだリズの色々な事が知りたいと思ってる。

 周りに見せる顔だけじゃなくて、もっと深いところを知ってしまいたい。そして、出来ることなら共に生きたい。


 全部、あと一晩じゃ時間が足りない。


 リズと共に生きられるなら、今の俺にとってそれ以上に嬉しい事は無い。確信を持って言える。

 俺はもう、いつの間にかリズしか見えない体になっていた。とっくのとうに変わっていた。


 今の俺にとって1番の幸福は、リズと共にあること。出来るなら、お互いに腰が曲がってしまうまで、ずっと。

 でもそれが叶わないなら、せめて息が続いている限りでいいから一緒にいたいと思った。それでリズの孤独が、心が癒せるなら。


 ……果たして、今の俺のこの気持ちは、リズの孤独にどう作用しているのだろう。

 本当に、俺がどれだけ強く想っているのか、リズの心に届いているのだろうか。


 ようやく見つけた武器屋の前で、1人ただ佇む。

 どうしようもない事をどうにかしたくて。

 でも、この店で投擲用のナイフを買ってしまえば、どうにかする方法を考える時間も残らない。


 きっと、そんな風に考えたのがいけなかった。




「エリックというのは、お前だな?」


 一般的な旅装をした男の2人組に話しかけられた。

 ただの旅人にしか見えないのに、直感がそれを否定する。逃げた方がいい、と頭の中で警鐘が鳴る。


「……確かに俺がエリックだが、一体何の用だ?」


 しかし、いきなり逃げるようでは後暗いことをしていると言っているようなものだから、俺は問い返すしかできない。

 下手に宿へ逃げてリズの存在が知られてしまっては、今日の満月の夜に支障が出てもおかしくないから。


 2人組の内、無言だった方が1歩こちらに近づく。

 一瞬、甘ったるい香りが鼻をついた。


「悪いようにはしない。安心しろ」


 耳元でそう言われたと思ったら、急に意識が遠ざかり、俺はその場で気を失った。




 これにて前半戦終了です。

 明日の朝6時より後半戦が始まります。

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