第179.5話 消えろ
(元側近視点)
計画が失敗してしまいました。気絶している間に連行された僕は、起きてすぐに騎士たちに事情聴取ということであれこれ聞かれました。なるべく印象が悪くならないようにガンマ殿下とウォーム男爵親子に責任がいくように語りましたが、あまり上手くいかなかったようです。
「……まあ、別に構いませんがね」
王族を巻き込み公爵家の婚約を踏みにじるような計画に関係している時点で、僕が何を言おうと重い罪に課せられることは理解しているし覚悟もできていました。
「あの馬鹿王子があんなになるとは思いませんでしたが……」
ガンマ殿下がまさかあんなにやる気を無くすとは予想外……それ以前にミロア様が謝罪などとご乱心されたのが本当に予想外でした。やはりオルフェなどのような無能が婚約者などが悪いのです。
「まだ終わらない……」
冷たい牢屋に入れられた僕でしたが、このまま終わるつもりはありません。こんな事もあろうかと、あらかじめ部下たちに僕の救出を命じておいたのです。もしも計画が失敗して捕まった時は、僕だけを救い出せと。
「……!」
足音が聞こえてきました。僕を牢屋に閉じ込めた兵士のものではない足の音が。暗くてよく見えませんが、こんな時間帯に来るのは間違いなく兵士でも騎士でもありません。
「……来ましたね」
部下の手引でここから出た後は、改めてミロア様を……。
「……待たせたな。ローイ・ミュド」
「っ!?」
この声は僕の部下じゃない!? 口調も違う! 何者だ!?
「誰です!?」
「小生のことは……知らなくていい。貴様にようがあるのは存在そのものだからな」
「そ、存在そのもの……!?」
何だ、こいつは!? 何故牢屋に入ってくる!? なんだかとてつもなく嫌な予感がする……そもそも部下たちはどうなったんだ!?
「ここに来る前にミュド家の兵らしい者たちがいたが寝てもらった。貴様を助けに来るものはいない」
「っ!?」
そんな……だとしたらこいつは敵ということになるではないか!? だとしたら目的は!?
「当主様の予想通りの男のようだな。その様子だと、本当にまだミロアお嬢様のことを諦めていないようだ」
「当たり前です! ミロア様が他の誰かのものになるなんて耐えられない!」
「ならば消えろ」
やはり目的はこの僕を『消す』ということか! ふざけるな!
「断る! ぐはっ!?」
腹に激痛が!? い、いつ攻撃されたんだ!? 不味い、暗いうえにこんなことをされては……
「己の技を叫ぶ趣味はなかったのだが、お嬢様は好感を抱いたご様子だった。ならば小生も真似してみるか」
「な、何を言って……!?」
言っている意味がわからないが、男の雰囲気が変わったのだけは分かる。静かだが獰猛な殺意を肌全体で感じ取れてしまう。やばい!
「カラミティスト――…………
◇
「ふん……やはり理解に苦しむな。もうやるまい」
先程まで命だったものを転がしながら、『陰』だった男が呟いた。いや、違う。ミロアの専属騎士ゴウル・アンディードは無表情で牢屋を後にしたのだ。




