第177話 嫉妬
「まあ、ミーヤ・ウォーム男爵令嬢のことは置いといて……本当の意味でガンマ殿下と決着がついたんだな」
「そうね。もっと早く殿下と面と向き合っていたら良かったんだけどね。そうしたら互いに傷がつかない結果になったかもしれないのに……」
「傷か……そうだな……」
傷と聞いて、オルフェはミロアを無視し続けたガンマに対する怒りが湧いてくる。オルフェの視点では、ミロアが過激すぎたとはいえガンマも露骨に蔑ろにしすぎているように見えたのだ。ミロアが意中の相手だという贔屓をなしにしてもガンマの方にも非があると思えてならない。
ただ、肝心のミロアは違った。
「もっとも、ガンマ殿下が私などよりもたくさん傷ついてきたのでしょうけど……」
「え?」
「好きでもない女と婚約された挙げ句、何一つ勝てるものがない。婚約を無効にしたくても王族にして王太子の立場ではと思うと……その心労は計り知れない。今日、ガンマ殿下と向き合って改めて思い知らされたわ」
「ミロア……」
意外なことに、ミロアはガンマに同情的になっていたのだ。豹変と言ってもいいほど性格が変わって、あれほど嫌悪してきた男に対して。
「思えば、ガンマ殿下は不器用に訴えてきたのかもしれない。それを私や国王陛下、周りの人たちが気づかなかったんだわ。今になって自分が不甲斐なく感じる……。本当に今更だけどね」
「そんな……あの男の仕打ちからすればミロアがそんなことを思う必要なんてないじゃないか……」
「仮にも婚約者だったのよ? それも長い間ね。それでも殿下の気持ちを、」
「そんな事言うな!」
「!」
オルフェは思わずカッとなって大声を出した。ミロアが本気でガンマのことを『前の婚約者』を同情する様子が気に入らない。ざっくりと言うと、ガンマにやきもちを焼いたのだ。
「ミロア、君が優しいのは分かるが、ガンマ殿下にも責任がある。それが互いに分かったからこそ『許さず憎まず』ということになったんだろう? ガンマ殿下も自分にも非があると認めている以上、同情するのはかえって失礼なはずだ。もうそういう考えはよそう」
「オルフェ……」
何やら必死に訴えるように言うオルフェの様子を間近で見るミロアは、オルフェの言葉を聞きながらオルフェの気持ちを読んだ。嫉妬しているのだと。
(前世の記憶って本当に便利。同年代の人が子供のように見える弊害があったりするけど、おかげで心情を読みやすい。なんだかズルしてるような錯覚を感じるけど、何でも利用しないと無能になるっていうし……そうなるともうガンマ殿下の話はこの辺でストップね)
「そうね、ガンマ殿下はもう改心してるからこれ以上は考える必要もないわね。これから私の学園生活が再開するんだし」
「え? あ、ああ。もうすぐ一ヶ月になるんだったな……」
ガンマの話から切り替わって、ミロアの復学の話になった。それもそのはず、ミロアの休学は一ヶ月と決まっていたからだ。そして、その一ヶ月がもうすぐ経とうとしていた。




