第174話 許さず憎まず
ミロアが目覚めてから二十七日目。王宮の一室にて、公爵令嬢ミロア・レトスノムと第一王子ガンマ・ドープアントが向かい合っていた。
「「…………」」
嘗ての婚約者同士ともあるが、片方は昨日に問題を起こした男で、もう片方はある意味被害者。そんな二人が一室で見張りと護衛と監視をつけたうえで向かい合うなど特例中の特例。それが実現したのは、公爵令嬢のミロアからの要望だったからだ。
「……ガンマ殿下、考えてくださいましたか?」
「……ああ」
ミロアの要望。それは昨日の謝罪に対する返事をもらうことだ。ガンマの都合に合わせて聞くという要望だったが、思っていたよりも早く返事をもらうことになったわけだ。
(あのガンマ殿下のことだから後二、三日くらい悩むと思っただけに、答えを出すのが早すぎると思ってしまうのは私だけじゃないから疑うのは悪くないわ。万が一を考えて専属騎士の二人どころかオルフェにも来てもらったけど、もしかしたら杞憂だったかもね)
ミロアが杞憂だったと思う理由は今のガンマの顔つきだった。以前に比べると落ち着きがあり、何よりも真面目らしい顔つきになっているように見えた。精神面における成長がうかがえる。
(前世の小説でも悪役が改心すれば大人しくなる傾向もあるのよね。それに私自身の勘が大丈夫って感じてるし、いざとなれば……まあ、なんとかなるでしょ)
「それでは、返事をお聞かせください」
「……ミロア、僕は……」
ガンマは大きく息を吸って吐いて、真っ直ぐにミロアを凝視しながら、少し震える声で答えを口に出した。
「み、ミロア……僕は、僕は! ミロアのことを、許さない。そして、憎まない!」
「……!」
「だから……だから、ミロアもそうしてくれ!」
「!?」
「で、できれば、ミロアも、僕を許さないけど憎まないでほしい! それが僕の答えだ! 情けなくても、惨めでもいい! それが僕が真剣に悩んで考えだした答えだ!」
「殿下……」
「ハァハァ……!」
(私を許さず憎まず……それでいて自分を許さず憎まずか。そんな答えを出してくるとは予想外ね。てっきり許すか許さないの二択のうち一つだと思ってた。ガンマ殿下の頭だとどちらもあり得たけど、まさかこんな……)
答えを口にした後、よほど緊張していたこともあって息切れを始めるガンマ。そんな姿を見たミロアは素直に見直した。微笑を浮かべて。
「……及第点」
「ハァハァ……なんだ……?」
「いえ、あまりにも予想外でしたので、驚いたのです。お気になさらず……いえ、これは私からも返答させていただきますね」
「何?」
ミロアは微笑を切り替えて真剣な顔つきになる。部屋にいる者全員が美しいと思って見惚れるような真剣な顔で、ガンマに返答を口にした。
「返答を受け取りました。そして、ガンマ殿下にならい、私もガンマ殿下のことを許さない憎まないを貫かせていただきます。私はもちろん殿下が前に進むためにも」
「! ミロア……そうか。ありがとう……」
ガンマはもう何も言えなくなった。




