第172話 絶望
ガンマは自分がローイ・ミュドと結託して、男爵親子を脅して、オルフェ・イーノックを陥れる行動に出て、最後に捕まるまでの経緯を偽りを何一つ入れずに全て話した。
「――……というわけです」
「……報告にあったこととほとんど一致しておるな。偽りはないな?」
「はい」
ガンマの言葉に偽りはないのは確かだ。ただ、一つだけ口にしていないことがあった。それはウォーム男爵をどうやって脅したかだ。
「ガンマよ。ウォーム男爵をどうやって取り込んだのだ? 脅したのは分かるが、その一点だけ詳しく聞いておらんのだが?」
「……王族の権力を利用したのです」
それも間違いではない。確かにガンマとローイは、最初は王族の権力を笠に着て男爵に協力させたのだ。しかし、それでも男爵は渋ったためにローイが握っていた男爵の弱みを利用して無理やり協力させたのだ。その事実をガンマは口にしていないし、口にするつもりもなかった。
(こんな事になったんだ……流石に、もう男爵とミーヤに悪い……)
今のガンマには、少なからず罪悪感があった。利用して切り捨てるつもりだった男爵親子に対して罪悪感を抱く。以前のガンマにはあり得なかった。それだけミロアの謝罪がガンマに変化をもたらしたのだ。
だが、そんなガンマの心境の変化など大したことではないのか、現実は残酷だ。
「違うな」
「え?」
「ガンマよ。お前たちは確かに王族の権力を利用したがそれだけではなく、ウォーム男爵個人の弱みを利用したのであろう」
「なっ!? 何故それを!?」
「別室で取り調べを受けているローイ・ミュドが男爵のことでそう口にしていたのだ。ミーヤという娘が平民の拾い子であり、男爵がそれを隠し続けたこともな」
「そ、そんな……!」
ガンマは絶句した。確かにローイ・ミュドの口からならば男爵親子の秘密が暴露されてもおかしくない。何しろ、ローイ・ミュドにとって重要なのはミロア・レトスノムだけなのだから。
(……そうか、そうだよな。今更僕がかばったところで意味がないんだったな……)
あの夜、ガンマは男爵の約束を守らないとローイに口にしていたし、ローイも目的が果たせない以上は男爵の約束を守る意味もない。それに気づいたガンマは少し前の自分の悪意に吐き気がする思いだった。
(……どうして僕は、あんなことを……やっぱり、僕は最低だ……)
「そして、男爵親子の口からも自分達が血の繋がった親子ではないという証言を聞いた」
「えっ!? なんで!?」
「このような事態になったことで、もう隠しきれないと思ったのだろう。そもそも、取り調べられる時点で血の繋がりがない事実も判明することだろうしな」
「……そうですか」
男爵親子からも証言があった。そんな言葉はガンマの心にさらなる負荷をかけるだけだった。要するに、巻き込んだ時点で男爵親子との約束は守れなかったということだ。
(……結局、計画が上手くいってもいかなくても破滅しか道が用意されていなかったわけか)
ガンマは改めて己の愚かさに絶望した。




