第169話 私の婚約者
気絶したローイ・ミュド、ウォーム男爵親子、そしてガンマの四人はギンベス分隊長が責任を持って預かることになった。
「彼らは我々が責任を持って連行して取り調べますので、後のことはお任せください」
「もちろん、そのつもりですわ」
ミロアは微笑んで騎士たちを見送った。思うところもあるのだが、公爵令嬢としては余裕を見せたいところなのだ。それになるべくいい印象を与えておきたいという思惑もある。
(……これで元騎士団長に恩を売れた。流石に騎士団長に返り咲くのは無理だけど、手柄としては十分よね)
ギンベス伯爵は元騎士団長。息子の不始末の責任を取って分隊長に格下げされたが、長年騎士団長を努めたプライドがあるため再びその立場になることを望んでいると噂されてもいたのだ。
そんな男に、犯罪まがいの行動に出た王族と従者を捕まえてもらうということは、大きな恩を与えたも同然というわけだ。それがミロアの父バーグの思惑。よほどギンベス伯爵の腕を見込んでいるということだろう。
(もしくは、政治目的だけでなく個人的な思いもあるのかも……まあ、私は興味ないけどね)
「これで……終わったんだな」
「! オルフェ……」
従者姿のオルフェが終わったとつぶやくが、ミロアはそんなふうに思えない。ミロアもオルフェも、まだまだ考えることもやるべきこともたくさんあるのだから。
「それはまだよ。まだ終わってない。ガンマ殿下の今後も決めないといけないし、他の者たちもそう。それにまだ返答を聞いていないしね」
「……ああ、そうだな。だけど、ガンマ殿下の返答なんて聞かなきゃいけないのか? そもそも、なんでミロアはあんなタイミングで謝罪なんて……」
ミロアがガンマに謝罪することは何も聞いていない。当然だ。ミロアがガンマの情けない姿を見て、自分も謝らないといけないと判断したことなのだから。
それをオルフェにも伝えなければならない。
「……あの時のガンマ殿下の姿はあまりにも惨めだった。もう青年なのに幼い子供のように見えてね……思えばその要因の一つというか半分くらいは私の行動にあると思ったの。だから……」
「……そうか、あの頃のミロアは本当にガンマ殿下のことを好いてたからな。できれば俺の方を見てほしかったのに」
ミロアとガンマの嘗ての関係を思い出したオルフェは少し拗ねた。そんなオルフェをからかうようにミロアは苦笑した。そして、今の思いを告げる。
「あら、今の私は貴方だけよ? 私の素敵な婚約者様」
「……!」
この後二人は、後のことを全て家臣たちに任せて貴族街の奥に向かっていった。




