第166話 心変わり
ただ、ガンマには気持ちの整理が必要だった。
(ど、どうすればいいんだ……! こんなことになるなんて……僕はどうしたらいいんだ!)
予想していなかった状況が続いたし、周りが敵しかいないし、味方(?)も力になってくれない。そんな状況下ですぐに答えが出せるほどガンマは図太くはない。もっと時間がほしいくらいの心情だ。
そんなことくらいは、ミロアを含めて多くの者が分かっていた。
(言い出したのは私だけど、ガンマ殿下には考える時間が必要だわ。それに今は、彼らを拘束しないとね)
「ガンマ殿下。返答はまた後日でいいので、じっくり考えてください」
「え!? あ、ああ……」
「今はギンベス分隊長に任せますので、次会う時を楽しみにしております」
「…………」
ガンマは静かに頷いた。どうやら大人しくする気になったようだ。そもそも状況的に逃げることは不可能であり、それ以上にガンマ自身に心境に変化があったようだ。
(……これはもう僕の将来は、いやもうどうでもいいや……。なんでだろう……ミロアが謝ってくれたからか?)
ガンマ自身も、自分の心が落ち着いていることに不思議に思っているが、それさえもどうでもいいようだ。ただ、それと同時に虚脱感も感じているらしく、膝を曲げて憑き物が落ちた顔になっていた。
「……分かった。好きにしろ」
ガンマが大人しく従うと感じた騎士たちはガンマたちに詰め寄ろうとするが、ここで意外な男が抵抗を始めた。
「ふ、ふざけるなああああああああああ!」
それはローイ・ミュドだった。先程までうつむいていたはずの男が、ガンマが大人しくなったのを目にして突然暴れ始めたのだ。懐から取り出した短剣を振り回して、騎士たちを近づかせまいと抵抗するローイに誰もが驚いた。
「ふ、ふざけるなよ! ガンマ殿下まで大人しくなってしまっては、もうミロア様を手に入れる道が全てなくなってしまうではないですか! ガンマ殿下までこんなところで諦めたら、僕が助かる可能性まで潰えてしまう! 貴方みたいな王子でももがいてくれれば道は残っているというのに!」
「「「「「っ!?」」」」」
「……は? え? 道?」
ガンマ殿下が諦めなければ自分も助かる。そんなことを叫ぶローイの言葉に誰もが驚いた。抵抗した以上に言葉の意味がイマイチ理解できなかったのだ。前世の記憶を持ったミロアを除いては。
(まさか、あの男……ガンマ殿下が王族なのをいいことに、ガンマ殿下を経由して自分の立場を守ろうとか考えていた? 立場の悪い王族でも上手く活用すれば、罰を受けることになっても減刑してもらえるとか考えてた?)
ガンマは第一王子だ。いくら立場が悪くてもその親は国王と王妃。ガンマが親の情に縋れば悪事を犯しても軽い罰で住む可能性がある。そう考えると、ガンマに味方した者も同じように……そういう考え方もできるわけだ。
(ローイ・ミュドがガンマ殿下と結託する際にそういう打算もあった……今の発言からそうとしか思えない。でも、肝心のガンマ殿下の心変わりで……)
つまり、ガンマの心変わりでローイの打算が狂ったということだ。




