第145話 友情……百合
「レイダ様、アギア様。貴女方は誰も信じられないと口にしましたが……本当は信じられる人を求めているのではないですか?」
「なっ!? どういう意味ですの!?」
「え? それって……?」
レイダもアギアも驚いた。本当は信じられる人を求めているんじゃないかと言われるとは思ってもいなかった。しかし、ミロアの言葉に戸惑いつつも彼女の言葉の続きが気になった。
「私は、誰も信じられない人ほど心の奥底で信じられる人を求めているのだと思っているのです。お二人が婚約者に裏切られた後で苦しんでいるのは、信じられる人がそうではなくなったから、もしくは期待していたのにその思いを打ち砕かれたからなのではないでしょうか?」
「っ!?」
「そ、それは……!」
レイダもアギアも脳内で衝撃を受けたような錯覚を感じた。自分達が本当に求めているものは信じられる人だというのだ。そんなこと思ってもいなかったはずなのに、彼女達はすぐに否定できない自分がいることに更に驚く。
((まさか、そんな……!))
「婚約者という存在は、暫定的な伴侶でもあると言えます。政略目的もあるとは言え、将来互いを信頼し合う相手。それ故に、信じられると期待していた相手に裏切られたからこそ、その怒りが深い。そのうえ家柄や誇りを虚仮にされ努力まで踏みにじられて、頼る人がいない。貴女方の苦しみの原点はそこからではないのですか?」
「っ! あ、ああ……」
「わ、私は……」
その通りだった。レイダもアギアも最初は婚約者に歩み寄るつもりでいたのに切り捨てられたのだ。その裏切りが彼女達の苦しみの原点だというミロアの指摘。二人共、肯定するしかない。勿論、本当に求めているものも。
「今のお二人に必要な存在は信頼し信用できる誰かです。決して復讐ではない。特にレイダ様は……たとえ復讐心を捨てきれなくても信じられる人を見つけてからでも遅くはないと私は思います。もっとも、お二人は互いに信じ合える仲のようですが」
「「っ!」」
レイダとアギアは互いに顔を見合わせる。そして、互いに出会ってから今日までのことを思い浮かべる。
「アギア様……」
「レイダ様……」
更には、互いに熱の籠もった目で見つめ合いながら顔を紅潮させる。ミロアが向かい側に座っているのも忘れて二人だけの世界に入ってしまっているようだった。
(いや、まじで二人だけの女の友情の世界に入り込んでるみたい。これは友情……百合展開? まあ、このままならもう私から言うことはあまりなさそうね)
この後、ミロアと二人の令嬢は再び会話に戻り、最終的にミロアの思惑通り仲良く友だちになることができた。
(後でお父様に文句を言ってあげないといけないわね)
前世を思い出した後に友達が出来たのは良かったが、何も教えなかった父バーグへの不満をミロアは忘れていなかった。友達二人が帰った後、ミロアはバーグに渋い顔をさせるのであった。




