第138話 ターニングポイント
そのためにも会話を優先しなければならない。
「み、ミロア様こそ突然の訪問の約束事なのに招いていただけたことを感謝します」
「わ、私も、光栄です!」
「私はお二人が来てくださることを昨日から楽しみにしておりました。レイダ様の手紙を読んでお二人とお話したくてたまらなかったのです」
「「…………!」」
(情報がほしいし、できるなら友だちも欲しいからね!)
ミロアの見せる笑顔にレイダもアギアも見入ってしまいそうになる。慎ましい姿に変わりながらも、美しい笑顔は輝くように見えたのだ。
「「はい! 喜んで!」」
二人の伯爵令嬢はミロアに魅せられて、ミロアの望むままにスムーズな会話をすることになった。
◇
「――そうですか、そんな事があったなんて……!」
(ええ~!? あのマーク・アモウが国家反逆罪になって馬鹿王子と元側近が欠席って……絶対に何か企んでるに違いないじゃん! っていうか、王子が騒いだから側近が国家反逆罪とかおかしいでしょ! たった二日で状況が動きすぎじゃない!?)
レイダとアギアの話によると、昨日の朝に学園にてマーク・アモウが国家反逆罪の嫌疑で連行され、関係者と思われる第一王子ガンマとその元側近のローイ・ミュドが欠席していたというのだ。それを初めて知ったミロアは驚きを隠せなかった。
「あの男が国家反逆罪を犯すような馬鹿ではないし、してもすぐにバレるようなことはありえない。明らかに誰かの思惑が動いてるとしか思えませんでした」
「もう訳が分かりませんよ……私達も今の学園に通うのが怖くなったくらいです……」
「……お気持ちはよく分かります。そんな異常な事態が起こればお二人が不安になるのは当然ですわ」
ミロアは二人が不安に思って誰かに相談することは正しいと思った。それでいて、自分に伝えてくれたことには本当に感謝するしかなかった。
(まさか、ここにきてそこまで無理やりな感じの暴挙が起こるなんて……いや、投稿恋愛小説とかに結構無理のある状況を押し込むこともあり得たんだから、こういうことも起こるのは当たり前なのかも……ん? でも、無理やりなことをするのって大概敵側なんだよね。しかも物語の終盤あたりで……ってことは……)
前世の世界で読んだ投稿サイトの恋愛小説。それらを熟読してきた記憶をもとに今の状況を考えると、ミロアは今が重要なターニングポイントなのではないかと思い始めた。
(投稿小説では、敵側の大胆な行動に対して主人公がどんな行動に出るかによってハッピーエンドかバッドエンドになる分岐点がある。私の生きる世界でも、それが今なのかもしれない。つまり、私が彼らの行動をどう予測して動くかどうかによって、私の、私の周りの人たちの運命が決まる。これは責任重大だわ……!)
ミロアの推測は、前世の記憶を元にした仮説に過ぎない。それどころか、『前世の記憶の中の知識』というあやふやなものを頼りにしたものでしかないとも言える。それでも、その知識を元にして行動してきたミロアにとっては重要なことなのだ。




