第136.2話 恋する代償
(元王太子視点)
僕は今、少し戸惑っている。いや、多少の罪悪感を抱いていると言ったほうが正しいのだろうか……。
「ローイ、本当にあれで良かったのか?」
「何がです?」
「マークのことだ。あいつに昨日の責任のすべてを押し付けるのはいいが、何も国家反逆罪なんて名目でというのはおかしいんじゃないか?」
ローイは昨日の騒ぎの責任のすべてをマークに押し付けると言って、僕もそれに同意した。だけど、その手段が国家反逆罪で連行。それも、多くの生徒が見ているところでだなんて……。
「やむを得ませんでしょう。そもそも、側近という立場のくせに全く役に立とうとせず保身に走るマークがいけないのですよ。殿下や僕が気にすることなど何一つありませんよ」
「確かに昨日のマークは薄情だったが……いくら何でもグロンとの関わりを匂わせるのは無理があるんじゃ……」
グロン。それは嘗ての僕の側近にもかかわらず、罪を犯して姿を消した男のことだ。ローイは匿名で王宮の兵士に『グロンの犯行にマークが深く関わっている』と通報した。
だからこそ、兵士たちが行動を起こしたのだ。それも、僕のなけなしの権力で動く数の兵士を。彼らに『マーク・アモウを国家反逆罪で連行せよ』と命じて責任を押し付ける。それがローイの作戦だ。
……今にして思えば、少し無理があるような気がするが……そこが心配なのもある。
「殿下、何も気にしなくて大丈夫ですよ。そもそも、グロンのことも本当に関わっている可能性も捨てきれないのですからね。それ以前に、殿下には他にいい作戦が浮かばなかったではないですか」
「それは、そうだが……」
「今は前に進むことだけを考えましょう。貴方も王族の一人なのですから、この程度の些事など気にしていられませんよ」
……これがあのローイ・ミュドなのか? そう思わずにはいられない。あの細かいことを気にする几帳面で、正義感の強い男がこんなふうに変わるなんて。ミロアに、女に恋するだけで人はこんなに変わるのか……って、僕が変わってしまったのだから当然といえば当然か。ミーヤに恋したことで、僕も立場が随分変わってしまったしな。
「……恋をする代償が、変化か」
「何か言いました?」
「いや……」
僕とローイは今、僕の心と立場を変えた張本人ミーヤ・ウォームの引きこもる屋敷に向かっている。ミーヤを僕達の計画に引き込んで、オルフェ・イーノックに不貞をさせるためだ。
……正直、気が進まなかったが今はそうでも無くなった気がする。ミーヤと関わって僕の立場が悪くなったし、ミーヤの出自がローイの言ったとおりだったのだとしたら……僕の恋は最初から実らなかったのだから。




