第132話 嫌な決断
王族の婚約者は上級貴族かそれに近い価値のある貴族でなければならない。その理由は、王家の意向として立場の強い貴族との結びつきを重要視しているからだ。いかに王家と言えども、公爵などの上級貴族の力はすぐ手元に置きたい。その手っ取り早い手段が婚姻でもあるのだ。
そういう意味では、男爵令嬢など愛人にもする価値がないと言える。
(こ、こいつ……僕が目を背けていたいことばかり……)
「まあ、ミーヤ嬢にとっても殿下のことは都合のいい相手ではあったことでしょう。上級貴族にチヤホヤされていれば、いい気になったものでしょう。悪い方向で騒がれた後に離れていったのは責任から逃れるためでしょうが、感心できませんね」
「それは……っ」
ガンマが気にしていることを、目を背けていたことばかり口にするローイ。だが、なんだか言っていることも理解できなくもないと感じざるを得なかった。
(……そうだ、この僕がそばにいてやろうとしたのに……ミロアのことで離れていくなんて、少し薄情だ。少しくらい僕に協力してくれてもいいはず……)
ガンマは婚約破棄の事があってから大変だった。周囲の生徒が距離をおいて陰口を叩き、悪い噂話を始める始末。その中で心の支えになると思っていたのがミーヤだと思っていたが、彼女もまた周囲から孤立したガンマから離れていった。
「……ローイ、彼女は、ミーヤは力を貸してくれると思うか?」
「そうするように従わせるんですよ。幸い、彼女の弱みを知っていますしね」
「何?」
「その話は後で詳しく教えますが、そんな言葉が出るということは決意は決まったということですね?」
ローイは目を細めながら笑みを見せる。まるで、獲物を仕留める寸前の狩人のように。
「……確認なんだが、この計画は僕とお前とミーヤだけで動くのか? マークにも協力させるというのは、」
「ありえませんよ。あいつには別の役目がありますから」
「別の役割?」
「確かにマークは宰相の息子なだけあって味方になれば心強いでしょうが、信用できる相手ではない。彼には、メインの計画よりも今の学園の騒ぎの収束に当たってもらいます。」
(嘘ですけどね)
ローイはこれを機にマークを排除するつもりだった。正確に言うと、『ガンマとオルフェを破滅させる計画』に支障をきたさないためと、ついでに今後じゃまになりそうなマークにも立場をより悪くさせるためなのだ。
ローイは最初から自分だけが都合がいい計画を企てていた。それをガンマは分かっていない。
「ガンマ殿下、もうそろそろ答えをお聞かせください。僕と手を組んでミロア様にまとわり付く邪魔者を排除するのかどうか。できるのならば手を組みたいのですが?」
「……………」
ローイは右手を差し出す。握手を求める形で。その手を前にガンマの取った行動は……
(……こんなに嫌な決断は生まれてはじめてだ)
その手を取ることだった。




