第129話 手を組む
手を組む。その言葉の意味くらいはガンマも理解はできた。だが、そんな言葉が出るとは思っていなかったため、一瞬理解が遅れて目が点になった。
「……は? なんだって?」
「手を組みましょうと言ったのです。具体的には、僕と貴方が力を合わせてミロア様と今の婚約者を別れさせるのですよ」
「…………」
理解されていないと思ったローイがわざわざ具体的に語るが、ガンマが分かっていないのはローイの真意だった。今のガンマとローイの関係は主従関係ですらないはずなのだ。それなのにこんな提案など……。
(こいつが手を組むだって? ありえない。あんなふうに僕の側近を辞めた男が今更僕と力を合わせて……何を企んでるんだ?)
ローイはガンマの目に余る行動などが我慢できなくて自ら側近を辞めていった男。それでいて、ガンマの婚約者だったが婚約破棄したミロアに異質な好意を寄せている男でもある。それがガンマのよく知るローイ・ミュドという男なのだ。
(そんな男が僕と手を組む理由と言えば……やはりミロアのことしかないだろうな)
「目的はミロアだな?」
「おや? 流石に殿下でもそれくらいは分かるのですね」
「お前の想い人くらい僕も分かるんだよ。お前が日頃から何やってるか身を持って知ってるんだからよ!」
「ああ……そうでしたね」
ローイの日頃の行い。それはミロアに対する思いを周囲に語り、ミロアのことでガンマたちやオルフェに突っかかってくる行為のことだ。ガンマもその周りの者もローイの奇行にうんざりしていたのだ。
「ミロアに執心しているお前が今更僕と手を組みたがる理由なんてそれしかない。だが、僕の目的も最終的にミロアなんだぞ?」
「ですが、今は利害が一致しています。それまでは手を組む、それだけのことですよ。そもそも、僕達が一人でできることなんて限られていますし、他者から距離を置かれている現状では協力してくれる者もいないでしょう」
「ふん、そうだな……」
つまり、目的のために今だけは手を組もうということだ。
「だが、一体どうしようってんだ? お前が言うようにミロアも新しい男も上級貴族だ。そんな二人を別れさせるなんて僕達が手を組んだだけどどうにかなるというのか?」
「ええ。貴方が思いつかないような計画をたてることができます。こう見えても僕は耳が良いのですよ」
ローイはガンマに笑顔を見せて言いきる。一見、優しそうな好青年のように見えるが、ガンマの視点からでは残酷な雰囲気を感じさせていた。何しろ元側近だが、ローイが自分に向けて笑顔を見せるなんて初めてなのだ。しかも、こんなタイミングでというのもある。それ以上に本性を知ってしまっている。
「オルフェ・イーノック、奴には浮気してもらいましょう」
だからこそ、えげつない発言が来ると思っていた。




