第125話 二人の令嬢
そんな二人が、レイダとアギアが騒ぎを避けるために、図書館で課題に取り組んでいるときだった。
「「あ」」
互いに課題に必要な本を取ろうとした時に、本に触れようとした指が重なったのだ。互いに相手を見れば、名前と素性だけは知る相手。
(アギア・ファング……グロン・ギンベスの元婚約者……)
(レイダ・ブラッド様……マーク・アモウの婚約者、だったお方……!)
相手が相手なので、素性は把握していたが全く関わったことはなかった二人。言葉を交わすことはおろか、こんなふうに会うこともなかったのだ。互いに関心がなかったために。
「「あ、あの……!」」
だからこそ、そういう相手にどう接すればいいか分からない。相手に声をかけるタイミングが被って更に動揺する。
(相手は成り上がりのファング家の令嬢……伯爵とは言えこちらが上……だけど、変に上から言うのも印象が悪くなるし……)
(こ、この方は名門のブラッド家の……こっちが譲って差し上げないと……!)
どう接すればいいいのかわからないので譲歩する、と思った二人。
「「ど、どうぞ! ……!?」」
同じことを考えて同じ言葉が重なった。
((あ、あれ!? どうしよう!?))
気まずい状況になった。そう思った二人は次の言葉に迷うが、動揺したアギアが手に抱えていた本を落としてしまった。
「あっ、本が……!」
「ッ!」
アギアが慌てて落とした本を拾おうとして、それをレイダも手伝い始めた。
「れ、レイダ様! 大丈夫ですから……」
「そ、そういうわけにもいきませんわ……あら?」
レイダは一冊の本に気づいた。それは課題に重要な本ではない。むしろ、学園には数少ない分野の本だった。
「あ、それは!」
「貴女も、この本を読むの……?」
「え?」
その本はレイダも強く関心を持っていた本だった。
◇
一冊の本のことでレイダとアギアの会話は先程の緊張が嘘のようにスムーズに進んでいった。図書室では不味いので、人気のない空き教室で詳しく語り合うことになった。放課後なのでちょうどいい。
「――というのが、私の見解なのですが……」
「そうですわね。ですが、私はその先の――」
最初は、本の内容のことだった。その後は、互いの課題に関する情報交換と考察を語り合った。そして、最後は世間話……。
「――本当に貴族の男ってまともな人がいなくて嫌気が差しますわ! 女を簡単に捨てて!」
「そうですね……私もけっこう大変でしたのに、ろくに感謝されなくて……」
勿論、自分たちの身の上話もその一つだった。
「マーク・アモウ! あの男には何としてでも報復してやりたいですわ! でも、そのためには力がいるのです! 伯爵から格上の家の力が!」
「それで、ミロア様に、ですか?」
「ええ、その通り……といきたかったのに、ちょっと声をかけづらくなってしまいました……まさか、彼女がオルフェ・イーノックと婚約するとは誤算でした……」
会話の中でレイダは感情的になって人の名前まで口にした。とある男の名前を。
「え? オルフェ・イーノックって……この前婚約を断った……」
「え? 何故それを?」
この後、二人は互いの共通点が多くあることを知ってしまうのであった。




