第121.3話 考える時間
だから、逃げるしかない。
「で、殿下! まず、今は場所を変えて出直しましょう! ひとまず詳しい話をしてから行動すべきです! ここでは人目があまりにも多すぎます!」
「はぁ!? そんなんじゃ遅いだろうが!」
ふざけるな。そもそも誰のせいでこんな騒ぎになったと思う? 遅いというのはこっちの方だ!
「お、オルフェ・イーノック!? どうして奴の名が出るんですか!?」
「うるさい! お前には関係ないだろうが!」
「関係ありますよ! ミロア様は僕の……僕の……」
「うぐ……っ!?」
ローイが見たこともないような感情的な顔でガンマ殿下の胸ぐらを掴む。本来なら不敬に問われるだろうが小物なガンマ殿下だとローイが恐ろしくて下手なことは言えんだろう。
しかし、これは絶好の機会だ。ガンマ殿下とローイがこんなで多くの生徒もこの二人だけに注目している。今のタイミングでなら、この混乱の場から逃げられるはずだ。
だから、私は振り返りもしないで人が少ないところを選んで走り去った。ガンマ殿下の声もお構いなしに。
◇
「……教室には授業が始まる直前に入るか」
私やガンマ殿下は他の生徒よりも若干早い時間帯に登校している。だからこそ、今は授業が始まるまでには少し時間があるのだ。考える時間はまだいくらかある。
「それにしてもミロア・レトスノムとオルフェ・イーノックの婚約か。それは確かに不味いな……」
この二人が婚約する可能性は否めなかった。ただ、二人の性格を考えると婚約しようと思い至るのはもっと後だと思っていたのだ。
ミロア・レトスノムはガンマ殿下に付きまといすぎて関係が破綻。よほど口説かれない限り新たに婚約を考えると思えなかったのだ。オルフェ・イーノックは気が弱そうで控えめな性格。そんな男が婚約が白紙になったばかりの女を口説くような度胸があるとも思えず……いや、待てよ?
「……逆、ならどうだ?」
ガンマ殿下やオルフェの話を統合すると、彼女は豹変したと言ってもいいほど性格が変化したようだ。ガンマ殿下のことを何とも思えないくらい変化したのだとしたら、身近にいる男を狙うこともありうるのでは?
「ミロア・レトスノムの方からオルフェに?」
ガンマ殿下のことを忘れたいとか新たな恋がしたいとか思ったのかもしれない。それで身近にいる男を……そういうことなのか?
「……これはもう少し情報が欲しい。仕方がない。どうにかしてガンマ殿下から話を聞かなければならない」
正直、あの馬鹿王子と今関わるのは嫌だが私の目的のためにも情報源になってもらわなければならない。オルフェはもうこっちに情報を流すことはないだろうからな。
「できれば二人を別れさせればいいのだが……」
幼馴染同士の婚約となると引き裂くのも難しい。だが、ミロア・レトスノムの問題行動やオルフェのスパイ紛いの行動を理由にすればあるいは……。




