第121.2話 最悪の一日
(宰相の息子視点)
「オルフェ・イーノックはいるかー! 出てこい!」
……今日は最悪の一日となった。
「今から僕は、ミロアの婚約者になったというオルフェ・イーノックとやらに、ミロアと別れるように言ってやるのだ!」
「「「「「ええっっ!!??」」」」」
ガンマ殿下の爆弾発言のせいで、今日は朝から非常に騒がしくなったのだ。せっかく、私達を注視する周りの目が減ってきたというのに……。
「ミロアのやつは昨日、オルフェとかいう侯爵令息と婚約しやがったんだ! 元婚約者のこの僕に相談もしないでな!」
「「「「「っっっ!!!」」」」」
朝っぱらから大声でよくそんなことを叫べるな。確かに元婚約者が他の男と婚約したと聞けば気にならないはずもないが……普通、それを学園中に広めるようなことをするわけないだろう、どこまで愚行を重ねるんだあの無能で無知で愚かな王子は!
「さあ出てこい! この第一王子ガンマ・ドープアントが呼んでいるのだぞ! さっさと出てこい!」
王太子の座を降ろされて、それを取り返したいあまりにミロア・レトスノムのことが気になるのは分かるが……わざわざ自分の首を絞める様なことは止めろよ! こっちはいい迷惑だ!
「ガンマ殿下っ! それは一体どういうことなのですかっ!?」
ガンマ殿下の愚行だけでも大変なのに……
「み、ミロア様が、僕の月が婚約したというのは本当ですか!?」
最悪のタイミングで、ガンマ殿下とは全く別次元の愚か者が現れた。早い段階で側近を辞めるという賢明な判断をした男ローイ・ミュド。思えば、賢明な判断はあの時だけだったがな……。
「う、嘘です! 嘘だと言ってください!」
「「「「「…………」」」」」
ローイは少し前までは、正義感を振りかざして見せつける偽善者だと私は思っていた。いや、そうであってほしかったと今は思う。ローイの本性は頭のおかしい男だったのだ。女の趣味が悪すぎるという意味で頭がおかしいのだ。
ローイはよりによってミロア・レトスノムに恋慕していたのだ。しかも、『ガンマ殿下を愛していたミロア様』に好意を寄せていたというのだから尋常じゃない。血のように赤い長い髪は仕方ないとしても、派手な化粧で派手なドレス、ガンマ殿下を震え上がらせる付きまとい。それでいて婚約者持ち。そんな女が好みだというのだから信じられないし協調できない。
それにローイは愛情が歪んでいるように見える。ミロア・レトスノムを『僕の月』と呼び、近い将来に自分たちが結ばれるなどと言いふらすのだ。とんでもない異常者だった。これなら、野心を持った偽善者のほうがマシだ。グロンとは別の意味で側近を止めてもらってよかったと今は思う。
「マーク、あの馬鹿をここから引き離せ!」
あの馬鹿……ローイを引き離せと言われても私では話が通じないだろう。




