第121話 家臣たち
学園で騒ぎが始まった頃、レトスノム公爵家は和やかなものだった。レトスノム一家全員が楽しい時を過ごしていられているのだ。今だけは、近い将来の不安を忘れさせるほどに。
そして、それは家臣たちも同じだった。窓の外から中庭で戯れるミロアとスマーシュを眺める彼もその一人。
「……楽しそうですな」
「そうだな。あれでも長い間離れ離れになっていたというか、確執のようなものがあったと思えるのにな」
彼の名はゴウル・アンディード。ミロアの護衛を担当する事になっている専属騎士だ。元は『陰』の一員だたっという裏の肩書をもっているが、それ故に実力と信用信頼が認められているのだ。ただ、今は怪我をしたので屋敷で治療中だったのだ。それも今はだいぶ治っていた。
「それにしても、もうそこまで治ってしまうとは……私のいない間に『陰』の技術も発達しているのだな」
「そうですね。他国から導入された医療技術を掌握してから大幅に変化したのです。つまり、つい最近ですね」
ゴウルと会話するのは侍女のエイル。彼女も嘗ては『陰』の一員であり、ゴウルの先輩にあたる。だからこそ、騎士と侍女らしからぬ会話も成立するのだ。
「お嬢様の学園復帰は後一週間をきった。それまでに君も復帰できそうか?」
「問題ありません。すでに皮膚の傷は塞がり、体力も取り戻したので」
ゴウルは上着とシャツを脱いで、包帯を外す。顕になった上半身には痛々しい傷の跡が多数あるが、開いてる傷口はない。目を細めてゴウルを眺めたエイルは、もういいと言わんばかりにそっぽを向いた。
「……間に合いそうだ。この一週間の間に無茶をしなければな」
「左様ですね」
二人の会話はそこで終わった。エイルはゴウルの部屋から出た。この後も仕事が山のようにあるため、休み時間にゴウルの様子を見に行っていたのだ。
「……一週間、何事もなければいいのだがな。こういう時は悪い予感のほうが的中するものだから私も気をつけねばな」
つい独り言を口にするが、数日後にその予感は少し斜め上をいく形で的中することになるのであった。
◇
悪い予感をしているのはエイルだけではない。老兵のダスターとスタードも予想をしていた。
「こういう時ほど、悪い予想は当たるもの。外れてほしい予想ほど当たるものだ」
「我らの勘が優れている証拠にもなろうが、こういう時ばかりはいい気はせんな」
「ただ、我らのやるべきことは変わらん。我らの主とそのご家族を守り通すだけのこと」
「左様じゃ」
老兵二人は悪い予感を感じても一切ブレることはない。それは騎士として当たり前。勿論、若い女騎士も同じ気持ちであった。
「旦那様やお嬢様の期待に応えなければ……!」
屋敷の訓練場でソティーは剣を振るう。訓練の剣を壊すまで彼女は激しい訓練を己に貸していた。全てはミロアを守る剣であるために。




