第120.2話 別れさせる
(元王太子視点)
僕を乗せた馬車が学園に着くと、僕はすぐに馬車から降りた。すると、護衛の兵士が僕に向かってこんな事を言いだした。
「殿下! くれぐれも学園で騒ぎを起こさないでください! どうか国王陛下のお言葉をお忘れなきよう!」
「うるさい! そんなこと分かってるよ!」
そう言って僕は学園に向かって走り出す。正確には、ミロアの婚約者だというオルフェ・イーノックとかいう侯爵令息の元へだ。
昨日の夜、頭の良い僕は部下たちに命じてミロアの婚約者について調べさせたのだ。どうも、オルフェ・イーノックという名前で結構評判のいい侯爵の息子らしい。弟が留学しているとか、父親がレトスノム公爵と仲がいいとかどうでもいい話はともかく、本当にミロアの幼馴染らしい。
ミロアに幼馴染がいたなんて知らなかった……ミロアめ、教えてくれてもいいじゃないか。いや、あの頃のミロアは馬鹿すぎてそんなことも頭が回るはずもないか。それでも、苛立ちを抑えられないがな。
「身の程知らずめ、この僕の元婚約者を奪うとは許せん。絶対に別れさせてやる……!」
銀髪で灰色の眼をした男がそうだと聞いた。結構特徴的な色の髪と目の色だ。おまけに僕に比べると地味な顔というらしい。それならすぐに見つけられるぞ!
「くくく、王族に逆らうとどうなるか思い知らせてやる!」
教室に入るなり、僕は思いっきり叫んだ。
「オルフェ・イーノックはいるかー! 出てこい!」
周りの生徒達が僕に注目するが、そんなのはどうでもいい。重要なのはただ一人!
「で、殿下……どうなさったのです?」
僕の叫びを聞いて、マークが戸惑った顔でこちらを見る。丁度いいといころに来たな。
「マークか、丁度いい。今から僕は、ミロアの婚約者になったというオルフェ・イーノックとやらに、ミロアと別れるように言ってやるのだ!」
「「「「「ええっっ!!??」」」」」
ただでさえ僕を注目していた周りの生徒たちが目を丸くして驚愕した。そして、それはこいつも同じ。
「……は? え? な、なんですって!?」
あのマークが動揺を始める。無理もないか。こいつもミロアがどんな女だったかよく分かっているもんな。だが今はそんなことよりもオルフェ・イーノックだ!
「さあ出てこい! この第一王子ガンマ・ドープアントが呼んでいるのだぞ! さっさと出てこい!」
なんとしてでもミロアと別れさせて、ミロアをこの僕がもう一度婚約してやらなければならない。僕が王太子に戻るためにも!
「ど、どういうことなのです殿下! ミロア嬢が婚約したというのは……」
「聞いてのとおりだ! ミロアのやつは昨日、オルフェとかいう侯爵令息と婚約しやがったんだ! 元婚約者のこの僕に相談もしないでな!」
「「「「「っっっ!!!」」」」」
周りの連中が『ええー』だの『マジ』だの『嘘ー』だのと喚くが知ったことではない! 僕にはやらなくてはならないことがあるんだ! こんな連中の喚き声などきにすること……
「ガンマ殿下っ! それは一体どういうことなのですかっ!?」
「うぇっ!? お前はっ!」




