第120話 懸念
レトスノム公爵家では姉妹が楽しく触れ合っていた。
「お姉様~」
「スマーシュ~」
とてつもなく仲良くなった姉妹。この二人がつい最近まで長く離れて暮らしていたとは誰も思えないだろう。事情を知る両親や家臣を除いては。
「今日も娘二人が楽しそうで何よりだ」
「そうですね。こんな日が来ることをずっと楽しみにしておりました……」
両親のバーグとイマジーナが温か眼差しで娘たちを見守る。それは家臣達も同じ。
「あの様子だと今日の訓練も短めの方がいいですね……」
「む? そうだな、すまないがソティーもそのように時間を調整してくれ……ん?」
バーグが振り返ると、ミロアの護身術等の訓練の指南役のソティーが複雑な顔をしていた。その視線の先はやはりミロア。
「ソティー、寂しいのは分かる。だが、あの二人にはもっと一緒にいる時間が必要なのだ。君が指南役をしてくれていることは感謝しているが、今だけは訓練の時間が短くなるのは許してほしい」
「いえ、私が懸念しているのはそういうことではなく……ミロアお嬢様の婚約が決まったということは、それを許さない者達が大きく動くことを意味します。万が一、この屋敷にまで乗り込んでくるような者が……」
ソティーは、いやこの屋敷の家臣たち全員が王太子だったガンマが屋敷に乗り込んだことを知っている。ミロアの状況が大きく動いたことで同じようなことが起こるのではないかと危惧しているのだ。
「そうだな……。そういう輩も現れるかもしれんな。だが、そういう者達から対処するためにミロアの専属騎士になる君や我が家を守る多くの家臣がいるのだ。あの二人の未来は君たちの努力次第ということになる。……私達や娘たちを守っておくれ」
「! はっ! 我が命を掛けて、お嬢様をお守りいたします!」
バーグの言葉を激励と受け取って、やる気満々の顔で敬礼するソティー。そんな彼女に苦笑してしまうバーグたちだが、バーグはソティーの懸念は間違っていないと感じている。
(王族のガンマ殿下であれだ。おそらくは奴に近い者が我が家に乗り込んでくるか、学園からの帰り道にでも行動を起こす事もありえる。まあ、そうなるようにけしかけたのは我々でもある。用心は怠らなければいいだけだがな)
バーグは王家にミロアとの婚約を書状で伝えている。すでに昨日、屋敷に戻ってすぐに書状を作って『陰』を使って送ったのだ。その日のうちに伝わるように。
何よりも、ガンマに伝わるように。
(『どうか、戒めの意味も込めてガンマ殿下にもお伝え下さい』と読めば、そのままガンマ殿下に伝わる……つまり、勝手に学園に情報をばらまいてくれるわけだ)
バーグの思惑通り、今頃学園はガンマを中心に大騒ぎになっていた。




