第112.2話 妻との思い出話
(公爵視点)
ミロアに語る私と前妻スターナとの思い出話。できれば馴れ初めの方を初めに聞いてほしかったものだ。だが、ミロアの将来を守るためにも必要な情報を頭に入れてもらうためにも奴との……ハトロイ・ミュドとの因縁を聞いてもらうべきだった。何しろ、親子で歪んだ粘性の愛情を抱くのだから最悪だ。本当に血は争えないものだ、本当に!
……だが、それも悪いことばかりではない。それはスターナ、君に瓜二つの姿にまで成長したミロアが証明してくれた。嘗ての君のように突然豹変して立派な貴族令嬢になってくれたように……。
たまに、意味不明な単語を口にするところまで同じなのもどうなんだろうと思う時もあるけど……。
◇
「ふっざけんじゃないわよっ!」
「「っ!?」」
「こっちは、男のヤンデレストーカーに迷惑しまくってるのに、そんな奴のキモイ愛情もどきを受け入れろだなんて馬鹿にすんのも大概にしなさいよ!」
「す、スターナ……?」
「スターナ様?」
あの時は本当に驚いた。心を入れ替えてから感情的になるのを控えて大人びて慎ましくなったあのスターナが、怒りを爆発してハトロイに暴言を吐き出したのだから。とても貴族令嬢とは思えないほどに。
「あんた、自分がどれだけ私やバーグ様、それに周りの人に迷惑かけたか分かってんの!? あんたの見苦しいこと極まりない奇行のせいで周りの空気が悪くなってんのよ、分かる!? いや、分かんないからストーカーやってんだもんねえ!? ああっ!?」
「そ、それは……僕の、愛を表現……」
「愛があれば何をしても許されるはずないだろ!? そもそも、あんたのナメクジよりも気味が悪い愛なんていらないっつーのっ!」
「そ、そんな……!」
ハトロイの顔に初めて絶望が浮かんだ時、私は思わずニヤついてしまったな。何を言っても言葉が通じないのだから絶望する顔が見てみたいと思ったのだ。
「う、嘘だ……僕の中のスターナ様が……」
「黙りなさい! 私を理解できるのは私だけだ! どこぞのストーカーなんぞに理解されて堪るかぁ!」
起き上がってヨロヨロとスターナに近づいていくハトロイだが、我慢の限界に来たスターナは手を……いや、足を出した。
「私に近づくんじゃねぇっ!」
「ぎゃあああ嗚呼嗚呼!?」
スターナは蹴りを放ったのだ。ハトロイの下半身の急所に。あれは痛いだろう。
「ああああああああああああああああ!?」
案の定、ハトロイはその場で悶絶。それにも関わらず、スターナは追撃を加えるから恐ろしい。ハトロイが気を失うまで……続いた……。
「ふん、これくらいでいいか」
「は、ははは……今日の君は豪快だねぇ」
「これくらいやらないと私の印象が変わらないでしょう。二度とつきまとうことがないようにするためには、あの変態の中の私の印象を粉々にしなければいけないのです。ですから、」
「分かってるよ。今日は君の貴重な一面を見たとでも思っておくさ」
「もう!」
気絶したハトロイを振り返りもしないで私達は仲睦まじく去った。
◇
――今となっては本当にいい思い出だな。




