第109話 幼馴染の手紙(3)
エイルの力強い言葉にミロアは少し不安が晴れた気分になった。
「ありがとうエイル。少し希望が見えたわ」
「少しどころか他にも希望はありますよ。オルフェ様がいますし、旦那様や我ら家臣共がいるのですから前向きにいこうと考えてくださってもいいのですよ?」
「ふふふ、それもそうね」
エイルの言う通り、ミロアには多くの味方がいると言えるだろう。だが、学園では父や家臣の力は制限されることもミロアは忘れてはいない。閉鎖された学園では、敵味方の大部分が生徒に決まるのだ。
(まあ、護衛の騎士もいるし私自身も結構強い方だから味方が増えなくても大丈夫かもしれないけどね……)
「アギア・ファングとレイダ・ブラッド……彼女達とならなんだか仲良くできそうな気がするけど、向こうの出方次第ね。友達の候補には入れておく程度に考えていけばいいか」
「さようです。……友達と言えばお嬢様、オルフェ様からの手紙が先程届いたようですよ」
「え? そうなの? 早くない?」
オルフェの手紙はよく来る。しかし、いつもより早い時間に手紙が届いたことにミロアは首を傾げる。
「私も不思議に思ったのですが、封筒が何だかいつもと違う仕様になっているのでただならぬ事があったと思われます」
「……見せて」
オルフェからの手紙。いつもの手紙は、貴族らしく品があって慎ましい感じの物だった。それでいて親愛を込められた筆跡と切手によって、それだけで気持ちが表現されていると感じさせられる。
だか、今日の手紙は明らかに違って見えた。筆跡にはどこか急いで記したような節があり、切手もいつもと違って速達用の物が貼ってある。何やら胸騒ぎを感じさせられるような雰囲気を放っていた。
「……開けてみるわよ」
封を開けて手紙の内容を確認するミロアとエイルは、顔をしかめた。初めの出だしが『今更か』と思わざるを得なかったのだ。
『ローイ・ミュドはミロアに異常な執着をもっていて、ミロアのことで俺にあれこれ聞いてきたり周囲に自分とミロアの相性がいいなどと吹き込むなどの問題行動を起こしている。俺は最初のうちはくだらない行動だと呆れて気にもしなかったが、それが不味かった。最近は殿下達とも口論したり、俺にも腹立たしくなるほど突っかかってくる。奴は危険人物だった。報告が遅れたのは俺のミスだ』
「……もう知ってるわよ。もっと早く気づいて伝えてくれればよかったのに」
「お嬢様、問題はその後の内容です」
「……これまじ?」
『ローイ・ミュドは近いうちにミロアと婚約するためにレトスノム公爵家に交渉を持ちかけてくるつもりだ。そうでなければ、レイダ・ブラッド伯爵令嬢との婚約の打診を断るはずがない』
ミロアもエイルも目眩がしそうになった。
((まさか、そんな事になっていたとは……))




