第108話 男と女
二人の被害者仲間の一部事情を知ったミロアは大きくため息を吐く。
「はぁ~……そんなことがあったのに気づかないなんて……本当にあの頃の私は盲目だったわ。彼女達は私のことをどう思っているのかしら?」
「流石にそこまでは定かではありませんが、少しは気になっていると思われます。仮にも王太子の婚約者であり、それでいて王族相手に『婚約破棄』をなさったのですから」
「……婚約解消と婚約破棄は大違いだものね」
ミロアとエイルの言っていることは何も慰謝料を求められるかどうかという意味だけではない。相手に非があることを示せるかどうかという意味合いの方が強いのだ。
「王族と言えば大袈裟に言うと貴族の頂点と言ってもいい。そんな相手を有責で婚約破棄した我が家は注目の的、彼女達からしたら自分たちにできなかったことをしてやってみせたとも受け取れる。気にならないはずもないと思うけどね」
「そんな彼女達の気持ち次第では、お嬢様とも関係を築けるかもしれません。無理に関わる必要もありませんが、向こうから声がかかるなら乗っかるのも手かもしれません」
「あんな最低な男たちなんだもの。心の底では腸が煮えくり返る思いがあるでしょうしね」
二人の性格は大分違うが、元婚約者のことでは同じ境遇を持っている。男たちに対していい感情を抱くはずがないだろう。
「それは間違いないでしょう。見た目もよくて成績上位にも関わらず、クラス内の立場があまりよくないのは元婚約者の影響でしょうし………」
「げっ、婚約者だった男が悪いのに彼女達の立場も悪くなるって言うの?」
「実際、婚約解消する直前まで『婚約者に相手にされない女』とか『魅力がなかった』とか言われて遠回しに見下されていたようです」
「………男を間違えると女も苦労するわけか」
ミロアは頭を抱えた。彼女達のことを他人事のように思えなくて仕方がなかったのだ。それと同時に理不尽な男たちに対する怒りと呆れが込み上げる。
「………貴族の世界にまともな男って少ないのかしらね。そもそも王子があれなんだものね……」
「お嬢様、オルフェ様はまともですよ。ガンマ殿下達だけがおかしいだけです」
「それは分かるけど……彼女達のことがあると私の立場も予想よりも悪そうじゃない」
「お嬢様は王家の有責で婚約破棄されています。好機の視線があっても悪く見られるのは少数と思われます。何よりもお嬢様自身が変わられたことですし、すぐに立場も良くなるでしょう」
「……そうかな?」
「そうです!」
エイルの言っていることは本心だ。ミロアが変わったことは誰よりも知っていると自負しているから自信を持って口にしている。ミロアが前世の記憶を持っていることを知らなくても、豹変したと言い切れるだろう。




