第107話 穏便に婚約解消?
だからこそ、ここは遠回しでも知ってる者に聞くしかない。
「エイル~? 詳しいことを教えてほしいわ」
「………ですよね」
エイルはため息すら吐いたがミロアは咎めない。ミロア自身も無関心にもほどがあると自覚しているからだ。嘗ての自分を何度も恥じるくらいに。
「グロン・ギンベスは自分が騎士団長の息子であることをひけらかして度々婚約者のアギア・ファングを見下していたようです。宿題もレポート等も彼女に任せていた節があるらしく、挙げ句にはミーヤ・ウォームに執心してからはすっかり蔑ろにしていた。入学当初の彼の成績が良かった要因には、トップクラスの成績を誇るアギア・ファングのおかげだったことは間違いなかったと思われます」
「脳筋と傲慢に加えて最低野郎だったのね」
「お嬢様、ご令嬢が口にする言葉ではないですよ。そういう不祥事がファング家の当主に知られてしまいそうになって穏便に婚約解消となったのです」
「……そこは婚約破棄でいいじゃない。あっ、あんなんでも騎士団長の息子か。親の立場がそんなところで……」
グロン・ギンベスは見るからに脳筋タイプだ。それなのに、学園入学当初の成績が中の下あたりなのはどういうことなのかとミロアは思っていたりしたが、婚約者を使って不正をしていたわけだ。仮にも騎士団長の息子が不正とは情けない。
「マーク・アモウとレイダ・ブラッドの関係は最初の頃は淡白な感じだったようですが、マーク・アモウがミーヤ・ウォームに執心した様子に自尊心を傷つけられたレイダ・ブラッドが激怒して婚約破棄しようとしたそうです」
「え? でも穏便に婚約解消したって聞いたけど?」
「彼女が婚約破棄を目論んだことを察したマーク・アモウの方から両親を交えて話し合おうという提案を持ちかけたのです。流石に人目の多い学園で婚約破棄を宣言しては不味いし変な噂をされるだろうと言うことで、レイダ・ブラッドは渋々ながらその場での婚約破棄を待って、まずは両家の当主を交えてという話になり……」
「両家の話し合い……父親の宰相が話をつけるとなると分が悪くなるんじゃない。マーク・アモウは先手を打ったわけね」
ミロアの脳裏に『婚約破棄の現場』が思い浮かぶ。前世の小説の婚約破棄と言えば、学園の卒業式やパーティー会場などの人目の多い場所が舞台になっていた。
(人目の多い場所で行うことで、多くの人に印象づけて後で取り下げなくしてしまうという作戦を実行する……彼女にはそういう意図があったのかもしれないけど、先手を打って両家で話し合いとなると不利ね)
「両家の話し合いの結果、最終的に婚約解消になったのです。アモウ家とブラッド家でどんなやり取りがあって婚約解消に収まったのかは定かではありませんが、少なくともレイダ・ブラッドは納得していないそうですね」
「……レイダ・ブラッド、彼女には同情するわ。本人には言わないけどね」
ミロアはレイダ・ブラッドの気持ちがわかる。ミロアも由緒正しいレトスノム公爵家の令嬢だ。上級貴族として虚仮にされたならば非情に悔しいはずなのだ。




