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雪桜の華冠  作者: null
二部 プロローグ 装い新たに

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30/53

装い新たに

こんにちは、nullです。


これより、『雪桜の花冠』の更新を再開しようと思います。


不定期の更新にはなりますが、ご興味がある方はご覧頂けると幸いです!


それでは、お楽しみ下さい。

 生ぬるい朝だった。お世辞にも爽やかな朝とは思えない空気が外から入り込んでいる。


 愛用していた長剣は粉々になってしまったがゆえに、背負うものは何もなかった。昨夜までは一応、使命感という大荷物をこの小さな背に乗せていたのだが、それも今ではどこかへと落としてしまっていた。


 それでも、時間は止まってくれない。坂道を下り始めた車輪を止める術がないこと、ここで一過性の感情に流されては、後々後悔することを知っていた桜倉は、顔を洗い、エルフから手渡されていた衣装に袖を通す。


 今まで着ていた服は、黒衣の女との戦いのために着られなくなっていた。まぁ、すでにボロボロだったことを思えば、穴がいくつか空いてちょうど良かったのかもしれない。


 鏡を見てから、桜倉はぞっとした。同時に、頬が熱くなるのも感じた。


「…これは、思っていたより…」


 上半身はいい。長めの袖ではあるが、生地も手触りが良く、伸縮性も抜群だ。文句はない。


 しかし、下のほうはどうだろう。コートなのかロングスカートなのか分からない、ひらひらした部分が足全体を覆っており、少し体を動かすと、下に隠れた生足が太もも辺りまで見えてしまう。


 スカートの前中央から大きなスリットが入った印象だ。機動性は悪くないのだが、その下に履いている革のスカートが短くて落ち着かない。


 こんな姿で人前に出るのは、恥ずかしくてならない。そう思っていたところ、ノックもせずにルーナが部屋へ入ってきた。


「おはよー、そろそろ準備でき…」

「わっ!ちょっと、ノックぐらいしてよっ!」


 慌ててコートの裾を抑えれば、にやにやした顔のルーナの嫌な視線とぶつかった。


「ふぅん」

「何。ふぅんって。言いたいことがあるなら、言えばいいじゃん」


 ルーナは無言のまま近寄ってくると、警戒している桜倉の周りをぐるぐる回り始める。品定めするような眼差しが、どうせこんなもの似合わないと言われるのだろう、という暗い気持ちと重なり、顔が無意識のうちに曇る。


「可愛いじゃん、それ。似合ってるよ」品評会の感想がそれだった。「何だかんだ言って、お嬢様だもんね。桜倉」

「う、うるさい、茶化すな」


 ルーナに真面目な顔をされると、どうにも邪推を挟む余裕がなくなった。本気で似合っていると評価された気がして、思わず、恥ずかしさから背中を向ける。


 すると突然、「ねぇ、下はどうなってるの?」と無邪気に聞きながら、ルーナが何の許可もなくコートの裾をまくり上げた。


 途端に露わになった太ももが、生ぬるいと思っていた風を感じて鳥肌が立つ。


「やっ、馬鹿!めくるな!」驚きながらコートを抑えれば、ルーナは悪びれた様子もなく唇を尖らせた。「えぇ、女の子同士だし、別にいいじゃん。減るもんでもあるまいし」

「ちょ!やめろってば!この、変態っ!」


 いつまでもめくり上げようとする手を止めないルーナに、我慢ならないと拳を振り下ろそうとすれば、ひらりと彼女は身をかわした。その上、鉄拳制裁に意識を割いていたせいで、容易くコートをまくり上げられてしまう。


 ルーナは革のスカートを確認すると、これみよがしにため息を吐いた。


「何だ、履いてるのかぁ」

「こ、このっ…!」


 履いていて悪いか、と怒鳴り飛ばそうとしていると、不意に、パキパキと音が聞こえてきた。


 音の出どころはすぐに分かった。ルーナの軽鎧が肩のほうから氷つき始めていたからだ。


 驚いて跳ね上がったルーナの後ろに、片手を掲げ、冷たい目つきをした雪希が立っていた。明らかに機嫌が悪そうだ。


「犬。何をしているのですか」

「冷たい、冷たいって!あぁん、桜倉!溶かしてよぉ」


 本当に冷たいらしく、ルーナは桜倉に宿るわずかばかりの炎を求め、バタバタと駆け寄って来た。


 柔らかな感触と甘い匂いと共に、氷かけている肩を桜倉へと擦り寄せるルーナに、ますます雪希は不愉快な顔をする。


 仕方がないので、一先ず掌に魔力を集め、氷を溶かす。ブリザのときより上手くできた自信があったが、想像していたよりも時間がかかった。それだけ雪希の魔力が強大だと思うと、薄暗い感情が湧いた。


「さすがにやりすぎだよ」と注意すれば、雪希は唇を尖らせて自分とルーナの顔を見比べた。その動きだけで、ルーナを贔屓するつもりかという非難の意思が如実に感じられた。


 ぶつぶつとルーナが小言を口にする中、雪希は桜倉のつま先から頭までを無言で見つめていた。やがて、彼女は桜倉が自分の視線を追っていることに気づくと、何でもなさそうに近寄り、ルーナから桜倉を引き剥がして言った。


「とてもお似合いですが…それを初めに見るのは、そこのお調子者の獣人でも、鏡でもなく、私であれば良かったと思います」

「あ、ありがとう」


 こんな歯の浮くような台詞を言ってしまえるのが、スノウ・リアズール――もとい、雪希というわけだが、どうにも慣れない。


 雪希は、以前よりとても自信に満ちた振る舞いをしているように見えた。いや、というより、いっそう周囲を気にしない振る舞いに拍車がかかったと言うべきか。


 魔法が使えるようになれば、こうして何かが変わるというのであれば、自分はどう変わっていたのだろうと何となく思った。

明日、続きを更新致します!


ご興味のある方は、ブックマーク等頂けると幸いです!

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