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降る雨は空の向こうに  作者: 主道 学
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天の園

 下には荒地が見えている。

 複数のかもめが軽トラックに近づいて来ては、下界の珍しい(といっても、ウインナーと三種のチーズのピザだが)食料をついばむ。

 空は雨が降ってきていた。

 中友 めぐみを連れてから二日経ったようだ。

 隆は天界の雨に片手を出して、掌に水滴を受ける。

「こっちにも、雨が降ってて下界と同じく冷たいんだなあ……」

 隆は掌の水滴を見つめて呟いた。

「ねえねえ! あそこに虹があるよ!」

 見ると、全方に雨の水滴を彩る巨大な虹が出現した。

 その虹の大きさは、ここがどこか別の惑星を思わせるほどの巨大さで、かもめたちも虹に向かっていった。

「おじさん。私、ここで降りるね。下のあの虹のところまで歩いていきたい。楽しかったよ。そして、美味しかった。サンキューね」

 中友 めぐみは軽トラックのドアを開けて、遥か下方へと垂直に降りて行った。

 隆は虹の大きさに面食らっていたが、中友 めぐみにさよならをやっとのことで言った。手を振り前方の虹へと恐る恐る進む。

 軽トラックを虹の中に進めると、かもめも追いかけてきた。七色の一つの赤い色の空間は眩い光を発し、隆の体も軽トラックもかもめも赤い色にした。しばらく進んでいると、雨が勢いを増したように感じた。

 いきなり、稲光が虹の中で光った。

 隆は急いで車を下の地上へと発進させた。

 その時、数本の落雷が発した。

 地上へと落ちた落雷は荒地目掛けて吸い込まれる。

 いくつかの大きな衝撃音とともに落雷の衝撃で荒地に地割れが出来た。

 中友 めぐみは無事だろうか?

 隆は赤い空間で、血相変えて軽トラックで地上へと降りて、窓から中友 めぐみを探した。この天の園で死ぬと……どうなるのだろう?

 

 荒地で慌てて車から降りようとしたら、車の助手席に中友 めぐみの携帯があった。どうやら、忘れ物らしい。

「もしもし、24時間のお姉さん!?」

「はいはいはい」

 能天気な声で電話の主が受話器に出た。

「この世界でこの世界の住人が死ぬとどうなるんですか?」

 隆は冷や汗を流して次の言葉に身構えた。

「大丈夫ですよ」

「へ……」

「あなただとまずいですけど……。ここでは死なないんです」

 隆は言葉を失ったがそれを聞いて安心した。

「よかった……。でも、俺だとどうなるんで?」

 24時間のお姉さんは少し間を置いて。

「死んでしまいますよ。この天の園で暮らさないといけなくなります。だから、気を付けてください。それと、今降っている雨と落雷は生命の神のせいです。生命の神はやっぱり、不穏だと私は思います。何か考えがあってあなたを襲っているのでしょう」

 隆は電話を切ると、中友 めぐみを探した。

 中友 めぐみは少し先で平然として歩いていた。

「よかった……」

 隆は中友 めぐみの無事を確認すると、軽トラックに乗り目的地へと向かった。

 落雷と雨はぱったりと止んでいた。

 今のは何かの警告だったのだろうか……?


「正志さん……。あの人よ」

 大勢が寝そべっている雲の上に、瑠璃が白い指を一人の男性に向けた。

 相手は黒田である。

 黒田は雲の上で友人の宮寺と一緒に釣りをしていた。友人もアロハシャツを着ていて、真っ黒に日焼けしている。それにサングラスを掛けた男だった。花田たちは黒田の服装を親切なアメリカ人から聞いていたのだ

「車ですか。珍しいですね」

 正志のカスケーダが黒田のいる雲に近づくと、黒田が話しかけてきた。

「いやー。今度のは、かっちょいいぜ」

 宮寺は白い歯を見せて身を乗り出してきた。

 

 黒田よりも派手なアロハを着ている宮寺は、角刈りの頭を右に左に振っている。

「ひょっとして、玉江 隆さんのお知り合いですか?」

 黒田は窓を開ける正志に聞いてきた。

「ええ。そうです。隆さんはどちらへ……。私たちは隆さんと会うために遥々東の方から来ました」

 正志は浅黒い顔でにこやかに言った。

「やっぱり。東ですか。熱いところから来たんですね」

「ええ……」

「彼は更に西へと行きました。何でもご両親に会うためです」

「ええ……。そうですか。隆さんのご両親のいる場所はここから近いので?」

 正志は黒田の言葉に適当に相槌を打ちながら話した。

「夫は……玉江 隆はどのくらい先にいますか?」

 

 智子が心配の表情をした。あれから、一週間。正志が持ってきたリュックサックの食料の缶詰を食べながら、この世界が少しづつ恐ろしく感じてきたのだろう。もう気持ちの逃避ができずに正気と狂気の狭間に緊張が走っているのだろう。

「隆さんの両親はここからは、一週間くらいは西ですよ」

 話をしている黒田の後ろで、宮寺は遥か下方の海から魚を一匹釣った。

「ここで、食事をご馳走しようかな……? 疲れたでしょ」

 宮寺が魚を素手で裂いて刺身のような生の魚肉を花田に渡そうとした。旨そうなその魚肉は寿司でいえば、大トロと比較しても大差ない。

「いえ、結構。今さっき缶詰を食べたばっかりなので……」

 正志は面目なさそうに頭を下げた。

「それじゃあ……」

 宮寺が釣り具一式を三人分渡した。

「これは?」

「下界の珍しい飯が食えますよ」

 そう言うと、釣り具で下界の食べ物の釣り方を丁寧に正志に教えてくれた。

「色々とありがとう。それと、隆さんが向かった場所の……ここには住所のようなものはありますか?」

 

 正志は方向音痴なのでカーナビの力がどうしても必要だった。

 黒田は目を丸くしたが親切に、

「ありますよ……。住所は虹とオレンジと日差しの町です」

 黒田は住所らしいことを言った。

 正志はカーナビに住所を入力する。

「目的地をセットしてください」

カーナビの音声に、

「虹とオレンジと日差しの町……と」

カーナビに目的地まで1980キロとでた。

「こんなに遠いの?」

 後部座席の瑠璃が呆気にとられた。

 正志は黒田と宮寺にお礼を言うと手を振った。三人はカスケーダで西へと向かった。


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