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降る雨は空の向こうに  作者: 主道 学
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天の園

 一日の長い時間が過ぎた。

 黒田は終始おしゃべりをして、女性は下界の人と天の園の人でもどちらでもいいが、とにかく面白い女ならどちらでもいい。そんな話をしていた。

 食事は黒田が持っていた。珍しい下界の食べ物だ。それはハンバーガーレストランから釣り糸で釣ってきたと言われる代物で、隆は以外に好きな食べ物だった。飲み物は同じく釣り糸で釣ってきたダイエットコーラなどを食していた。

「あ、そうだ。24時間のお姉さんに電話してみては?」

 助手席の黒田の唐突な言葉に隆は首を傾げた。

「24時間のお姉さん?」

「そんなことも知らないなんて……。相当に遠いところから来たんですね。……いいですから、電話は私の携帯を貸しますからかけてみてください。多分、娘さんのことが解るかも知れませんよ」

 隆は黒田の渡す携帯を見つめた。


「番号は0024ですよ」

「はあ……」

 黒田の携帯で0024に電話すると、隆の耳に若い女性の声が聞こえてきた。

「玉江さんですね。私は何でも知っています。娘さんの里美ちゃんは北の雨の宮殿にいるはずです。でも、その前に力を得ないと……」

 隆は血相変えて、車の進路を北に取った。

「ちょっと、隆さん! 僕の友人が西にいますよ!」

「北の雨の宮殿に行かないと! 娘がいるんだ!!」

 電話の受話器から「ちょっとー!! その前に力を得ないとって、言っているでしょうー!!」

との大声が木霊した。

「玉江さん! 24時間のお姉さんも言っているでしょう! まだ、北に行ってはいけないようですよ! 僕の友人のところへ行きましょうよ! 何のことかは解りませんが!」

 二人の説得で隆は渋々に納得せざるを得なかった。

「力を得るって!! どういうことですか?!」

 電話越しに隆が叫ぶと、

「雨の宮殿にはこの天の園で、一番尊い生命の神がいます。そして、その神はここ100年ですが、様子がおかしいのです……。下界にたくさんの干渉をしたり、天の園でも不正な干渉をしているのです。何かあるとあたしは思います。ですから……あなたは力をこの天の園で得るのです。ご覧の通りにみんな遊び人ですから、難しいですね……。でも、きっと、力になってくれる人がいます。この天の園でも真面目な兵士がきっといて、力になってくれるでしょう」


 電話の24時間のお姉さんは続けた。

「西の方のあなたの本当の両親と両親は真面目な方ですが、後で雨の宮殿に囚われるでしょう。そうなる前に会って、話してみてください。あなたの両親は虹とオレンジと日差しの町にいます。何かがあります。あ、それと、天界の食べ物は決して食べてはいけませんよ」

「囚われる? 俺の両親と本当の親が?」

「ええ。私には解るのです」

 隆は電話の主の24時間のお姉さんの言葉に仕方なく頷くしかなかった。娘に早く会いたいが、この世界のことを何も知らないし、話を聞いておいて損はまったくないだろう。

「解りました。西に行って両親に会います」

 隆は電話をしながら西へとまた車を走らせた。

「頑張って下さい。後、時々私に電話をして下さい。きっと、役に立ちますよ」

 24時間のお姉さんの電話を切った。

 しばらくして、下には大きい海が見え、その先にビルディングが見えて来た。しかし、その建物の隙間には道路はなく。変わりにキラキラ光る川が巡る。

「もうそろそろです。僕の友達は雲の上にいますよ」

 快適に走る軽トラックの前方に数本の糸が垂れ下がっていた。

 上を見上げると、雲に寝そべって釣りをしている人達がいる。それから、空中で若者がたむろしていた。


 若者は高校生たちで、茶髪や派手なメイクの男や女だ。

 黒田とそこで別れると、隆は釣り糸と釣り具を貰った。それで、お腹が空いたら下界から食べ物を釣ればいいと言われた。方法は下界を念じて糸を投げればいいと、黒田は下界からその方法で、何度も珍しい食べ物を食べていた。

 隆はまた、果てしなく西へと向かう。

 すると、隆の車を見て珍しがる若者の一人がやってきた。

 空を飛ぶその人は、また隆の車に乗りたがっているようだ。

「うっそー! そんなに遠いところにおじさん行くの!? 私も連れてってよ!」

 女子高生である。

 派手なメイクの褐色の肌を持つ日本人だ。

 かなり短めなスカートとブレザーを着ている。

 隆はどうもこういう人が苦手だった。けれど、ここは天の園。悪い人はいないだろうと、快く助手席に座らせた。

「ねえねえ、おじさん。私、下界の食べ物食べた時ないなー」

 隆はその女性にしばらく、目を白黒させられることになった。

 黒田から貰った釣り具で遥か下の下界に向かって、念じながら糸を投げると、釣り糸は弧を描いて落下しながら、急にできたぽっかりと空いた小さな空間の中へと入って行った。 

 そして、少し力を込めるとビーフシチューの皿ごと引っ掛かって来た。

「わあ、美味しそう。早速食べるね。おじさんも食べる?」

 隆はまた釣り糸を下界に投げて、同じビーフシチューを釣った。


 遥か西へと向かう車内で、二人は食べ終えた後、また色々と話をした。

「え……?下界に子供を落とすこと……?私もしていないけど」

「はあ・・・じゃあ、いつも何しているの?おじさんは娘を探しているんだ」

 隆は里美が大きくなったら、こんな女性になったら困ると内心思っていた。しかし、この天の園にいるのだから、あながち悪い子ではないのだろうけど。

「いつも遊んでいるけど。でもね、ここカラオケやゲームセンターとかファッション誌とかがないでしょ。だから、暇でもあるの。私、いつもは友達とおしゃべりよ。砂漠は暑いねーとか、昨日何食べたとか」

 女子高生と隆の話は以外に弾んだ。

「あ、そうだ。お嬢さん。下界に降る雨とここに降る雨が関係しているってことは、知っているかな?俺はどうしても雨の日に死んでしまった娘に会いたくて旅にでているんだ」

 女子高生は首を傾げてから、

「おじさん。私、中友 めぐみって名前あるよ。それと、雨のことなんて知らないから」

 隆は驚いた。

「え!? 今なんて言ったの?」

「雨のことなんて知らないって?」

「いや、君の名前さ」

「私……中友 めぐみ」

 中友 めぐみには確かに隆の知っている里美の友達の面影が見え隠れしていた。


 隆は血相変えて、めぐみから携帯を借り24時間のお姉さんに電話した。

「あの、里美の友達がここで大きくなっているんですけど!?」

 しきりに首を傾げるめぐみをそのままにして、電話を続ける。

「ええ、きっと時の流れの問題よ。天の園にはその時の流れの違いがあるの。つまり、下界では西暦2015年でも、天の園ではそれとは違う時間が流れているのよ」

 隆は24時間のお姉さんの言葉が理解できなかったようだ。呆気にとられた顔から納得した顔までいっていない。

「玉江さん。つまりは、ここ天の園では下界と違う時間があるってこと。下界にカップラーメンがあるとするでしょ。そのカップラーメンは天の園にもあって、それは同一のもの。そして、下界ではお湯を入れたてなのに、天の園には……。3分後の未来になっていて美味しく食べられるというわけよ」


 助手席のめぐみは訳が分からず喚きそうになった。

「カップラーメンと私がどうしたのよ!? おい、おっさん! 三分後って、私と何が関係あるのよ!?」

 隆は混乱しながら、めぐみを宥めながら、

「あの……つまり、めぐみちゃんは下界で高校生の時に死んでしまったと?」

 24時間のお姉さんは静かに、

「ええ。恐らくそうなるわね。でも、絶対ではないの。その中友 めぐみちゃんは確かに高校生の二年の時に自動車の居眠り運転の犠牲になっているけれど。あなたは、知ってしまったから、それを阻止することもできるわ。何せその中友 めぐみちゃん・・・天の園にいるほうだけど、もう20年くらいはここにいるのよ」

「20年もですか?」

「そうよ。私、20年もここにいるの。でもでも、ここで車に乗ったのはこれが初めてなの……。カップラーメンのことは置いておいて。さ、早く行きましょ。おじさん」

 めぐみが気楽な口調で言ったが。若くして命を失い。この天の園で暇を潰している人生に嘆きが少し感じられた。

「ここは、不思議なところだな……」

 隆は電話を切って、軽トラックを発進した。


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