ダサくて冴えない映画のモブ助手みたいなオッサンである俺の彼女は若くて可愛い
交差点の先のビルについている時計を眺める。
ほぼ時間通りに彼女がやってきた。
礼を言ってはにかむ彼女は若く、可愛い。
なんでこんなしょぼいオッサンと付き合いたいのか全くわからないが、一年前に告白された。
手を出すのが怖くて、一年経つのに男女の関係にはなっていない。
っていうか未だに信じられない。
天井裏からオーパーツが出てきたと言われた方がまだ信じられるくらい、信じられない。
「初めての車デート嬉しい!」
そう言うが、車なんか密室だ。だから今まで絶対乗せなかったのに、押し切られてしまった。
緊張している俺をよそに、ダッシュボードの上にある、初デートのゲーセンで取った雪だるまのぬいぐるみを弄り出す。
助手席の斜め上の手すりには、サイコロ型のお菓子のフィギュアが連なったストラップ。
……なんでこんなのここに付けたんだろう。
滅茶苦茶ダサい。俺みたいだ。
「どこに行く? 海?」
海に行ったらきっとイケメン細マッチョサーファーが沢山いるんだろうな、と自虐的な感じで思う。
「どこでも。 君の好きなところで」
なにかを期待するのは怖い。
足に使われているんだと保身の為の理由を付けているのが常。
「じゃあ……お家♡ それとも実家?」
そういう冗談はやめてほしい、と言うと拗ねて泣いてしまった。暫く無言のまま、車を流す。
中古で買ったこの車では、カセットテープでしか音楽も聴けやしない。仕方なくラジオをつけるとサッカーの試合中で、若手選手がハットトリックを決めたらしかった。
若いって羨ましい。
無駄なこととは知りつつも、バックミラーを見てみる。
鏡に見切れる俺。昔観た映画の主人公のしょぼい助手のような姿が、中古車と絶妙に合っているのが情けない。
外を眺めると、男がオサレな自転車で、徐行している俺の車を抜かしていく。
多分俺の車は奴の自転車より安いんだろうな……などと考えつつコンビニの駐車場に停車した。
「なんで君みたいな若くて可愛い子が、こんなダサいオッサンと付き合いたいかわからないんだよ……」
「ダサくてもいいんです。 いっそ『一生君の作ったお味噌汁が飲みたい』とか、ダサくて心に残る一言をずっと期待してるんですよ?」
「いや……言わないけどね?」
コンビニで珈琲を買って、駐車場で飲んだ。
ダサいなりにちゃんと考えたくて。
信じられなくてもズルズル一年間延ばしてしまったのは、結局彼女が好きだからだ。
俺なりのカッコつけ台詞を告げると、彼女はようやく笑った。