神魔大戦 交流編②
アテナ様が見守る中、俺とテセウスさんは勝負の確認した。
「何かルールはありますか?」
「ルールか。そうだなぁ、俺に一発でも当てることが出来たらお前の勝ちでいいぞ」
「それだと全然不公平じゃなですか。俺の強さを見くびってますね?」
「見くびってる訳ではない。俺の見立てだとこれくらいがちょうどいいハンデになる」
いつまでも俺のことを見下すテセウスさんに少しイライラしてしまったが、怒ると勝負に支障がでるかもしれないので、俺は冷静になるため深呼吸をした。
「じゃあ、その条件で受けます。後で後悔しても遅いですよ」
「心配するな。後悔はしない」
辺りは静まりかえっていた。空気がピリピリとして緊張感が漂ってるのがわかる。
俺とテセウスさんは構えた。
「来い!」
テセウスさんが言った。
俺は一瞬で近づき顔に右ストレートを入れるが軽くかわされてしまう。続けて左でブローを撃つがこれもかわされる。動きを止めずパンチとキックを素早く撃っているが、すべて避けられる。そして俺に隙が出来て、腹に一発くらってしまった。
「くっ!」
「わかったか。俺とお前にはこれだけの力の差がある」
「ま……まだ…やれる」
腹は痛かったが、それよりも悔しい感情の方が強かった。
俺は再度テセウスさんに向かった。だが、俺の攻撃は一回も当たらず、テセウスさんの反撃に俺は何度も吹き飛ばされる。
それでもまだ諦めたくなかった。力の差はもう十分理解した。最初の一発でわかった。でも、どうしてもテセウスさんに一発ぶちかましたかった。
「もう諦めろ!俺の勝ちだ」
「いや、まだやれます」
俺の体力は少なくなっていたので、これが最後になるかもしれないと思い、力を振り絞って向かった。
「なんで諦めない!?なんでお前はそんな状態でも向かってくるんだ?」
「俺、諦めは悪い方なんです」
「そんなにこの勝負に勝ちたいのか?」
「いえ、この勝負に勝ちたいというより、俺はもっと強くなりたいんです」
「強くなりたい!?何のために?」
「強くならないと……守りたいものも守れません」
その時一瞬、テセウスさんの動きが止まった。それを見て俺はすかさず顔に右ストレートを入れた。
テセウスさんは顔にかすったが、ギリギリのところで避けられて、顔に重い一発をくらって俺はKOされた。
「剣志くん!」
アテナ様が近くに来て、俺を心配してくれた。
「テセウス!やりすぎ!」
テセウスさんもハッとしてすぐに俺に近づいてきた。
「すまない。剣志。力を入れすぎた」
「だ……だいじょ……ぶです。アテナ様も…テセウスさんを怒らないでください。もともと勝負を吹っ掛けたのは俺なので…」
「剣志くん。ちょっと待っててね。すぐに治癒するからね」
そういってアテナ様が俺に手のひらを向けると、なんだか傷の部分が温かくなり、痛みも少しずつ減っていった。
「ありがとうございます。アテナ様」
「ごめんね。治癒魔法あまり得意じゃないの」
「いえ、全然元気になりました!もうほとんど痛くないです!」
俺は体を動かしてアピールした。
「それにしても、テセウスさん強いですね!」
「うっ、当たり前だ。これでも神族部隊三番隊隊長をしているんだ。これぐらいの強さがないとなれるものじゃない」
「本当にすごいです!年も俺と同じなのに、その強さ!尊敬します」
「べっ別にたいしたことはない。俺よりも強い奴は沢山いる」
「そうなんですか!あのー、一つテセウスさんにお願いがあるんですが…」
「なんだ?」
「俺に稽古をつけてくれませんか?」
「はぁ!?」
俺のお願いを聞いて、テセウスさんは驚いた表情だったが、アテナ様の目はキラキラしていた。
「いいねー!それ。そしたら剣志くんがまた神界に来る理由も出来るし」
アテナ様はノリノリで賛成してくれた。
「ちょっと待ってください。俺には仕事が…」
「仕事っていっても私の護衛でしょ。私もそばに居れば問題ないでしょ。それにテセウスもいい修行になるんじゃない」
「わかりました。受けます」
アテナ様に言いくるめられて、テセウスさんは渋々受け入れてくれた。
「ありがとうございます。テセウスさん!」
「テセウスだ」
「え!」
「俺のことはテセウスと呼べ!あと、敬語もやめろ」
「わかった!よろしくテセウス!」
「あ!じゃあ私のこともアテナでいいよ!」
「それはいけません!」
早速俺は神王城の敷地内にある広場で、テセウスに戦い方を教わっていた。今まではじいちゃんやみことばかり組み手をしていたから、テセウスの教えは新鮮で楽しかった。
いろいろ教わっているいるうちに、いつの間にか夕暮れ時になっていた。
「もうこんな時間か。今日はここまでにしよう」
「ありがとう。いろいろと勉強になったよ」
「お前はもともと筋がいい。それに教えたこともすぐに吸収している。お前がどのくらい強くなるのか楽しみだ」
「今度はテセウスにも負けないかもな」
俺とテセウスはずいぶん仲良くなっていた。
そんな話をしてる時、アテナ様がやってきた。
「稽古終わったの?」
「はい。今終えたところです」
「じゃあ剣志くん、人間界に帰るの?」
「そうですね。もう時間も遅いので…」
「私の家に泊まってもいいけど…」
アテナ様が目をキョロキョロさせながら提案してくれた。
「姫様!それは…」
テセウスが言いかけたところで、アテナ様はすごい目でテセウスを睨みつけた。
「ありがとうございます。アテナ様。でも、家でじいちゃんと父さんが待っているので、今回はお暇させていただきます」
アテナ様は少し寂しそうな表情になったがすぐに笑顔に切り替えた。
「そっか!ごめんね。急に誘って」
「いえ、嬉しかったです!ありがとうございます」
「テセウスとの修行もあるし、また遊びに来てくれる?」
「はい!もちろんです。アテナ様がいいのであれば、俺はいつでも。あっ!でも学校のある日は夕方だけになりますが…」
「やったー!」
アテナ様が笑顔で飛び跳ねている。
俺は人間界に戻してもらおうと神王様のところへ行こうと思っていた。
「じゃあ、神王様には申し訳ないのですが、また俺を人間界に…」
そう言いかけたところで、アテナ様が遮った。
「あ!それなら大丈夫だよ!私が人間界に送ってあげる」
「え!」
「この前、剣志くんが帰った後にね、お父さんに転移魔法を教えてもらったの。もしまた剣志くんが来た時のために練習してたんだけど、こんなに早く使う時が来るとは思ってなかったよ」
「転移魔法ってそんなに簡単な魔法なの?」
俺は小声でテセウスに聞いた。
「簡単じゃない。上級魔法だ!そんなすぐに出来るような魔法じゃない」
「え!じゃあ大丈夫なの?」
「大丈夫だろう。アテナ様がそうおっしゃるのなら」
「二人でなにコソコソ話してるの?」
テセウスとのやり取りで不安になったが、俺のために覚えてくれた魔法らしいので、断ることもできなかった。
「心配するな。アテナ様は神王様の娘だ。神力の使い方なら並みの者より上手い」
アテナ様が魔法の準備をしている時にテセウスが小声で俺を励ましてくれた。
「じゃあ、そこに立って」
「はい」
俺は覚悟を決めて目を瞑った。足元に魔法陣が描かれ、周りが光りだした。
「じゃあまたね、剣志くん!」
なんだか風が強く吹いている。それになんだか立ってる感触がない。目を開けると、俺は落ちていた。
「えーーー!まじかーー!」
俺は木にぶつかりながら、地面に落ちた。幸い木のおかげで勢いが弱まり、なんとか無事だった。立ち上がり近くを見渡すと、ゲートがあった。人間界に戻って来た。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。