神魔大戦 魔界編②
俺と魔王の娘リリス様は、魔王様に会いに、リリス様の家に向かっていた。しばらく歩いていると、遠くの方から声が聞こえた。
「リリス様ー!リリス様ー!」
「あ!フェレスの声です!」
俺とリリス様は声のする方へ走って向かった。
「フェレスー!」
そこには、細身だがバランスのいい体格をした、同じ年くらいの青年がいた。
「リリス様!良かった。ご無事で」
「私は、大丈夫です。フェリスは?」
「私も大丈夫です。神族共は返り討ちにしました」
「そうですか。良かった」
リリス様は安心した表情になった。
「ところで、リリス様。隣にいるそいつは何者ですか?」
魔族の男が俺を見ながら、聞いてきた。
「そうでした!この方は私を助けてくれた恩人です」
「リリス様を!そうでしたか」
そう言って、魔族の男は俺の方を向いた。
「リリス様を助けていただきありがとう。」
「いえ、別に。たまたま近くにいたので成り行きで」
「本来は私が全うしなければならないこと、リリス様申し訳ございません」
魔族の男はリリス様に向き直し、深々と頭を下げていた。
「いえ、フェリスはしっかりとやっています。あまり自分を責めないで」
リリス様は優しく声を掛けた。
ことの成り行きはリリス様がフェリスさんに説明してくれた。
「そういうことでしたか。わかりました。では、私も城までお供致します」
「ありがとう。フェリス」
「改めて、俺はフェリス。魔族部隊三番隊隊長をしている。よろしく」
「黛剣志です。よろしくお願いします」
俺とフェリスさんは握手をした。
しばらく三人で歩いていると、黒い色の大きな城が見えた。リリス様はその城を指さして言った。
「見えました。あれが私のお家です」
一度神界で経験していたので、今回はそこまで驚きはしなかったが、それでも顔は引きつってしまった。
門をくぐると、そこには見たことのない木々や植物がたくさんなっていた。その植物を一人の老紳士が剪定していた。
「ただいま。クラウスさん」
「おや、リリス様。おかえりなさいませ」
その老紳士はクラウスさんというらしい。やせ型で清潔感があり、上品な雰囲気を感じる。
「いつもありがとう。庭を綺麗にしてくれて」
「いえいえ、これは私の仕事でございますので。喜んでいただけて幸いです」
きれいな言葉遣いに、隣で聞いていただけの俺も緊張してしまった。
そんな俺を見て、クラウスさんは尋ねてきた。
「ところで、リリス様。そちらの方はご友人ですか?見慣れない方ですが…」
「はい。私を助けてくれた。人族の黛剣志様です」
「まゆずみ…」
クラウスさんにもリリス様が説明をしてくれた。
「そうでしたか。魔界に迷い込んでしまったので、魔王様に戻り方を聞きに。それはよい提案だと思います。魔王様なら人間界に戻してくれるでしょう」
クラウスさんは優しい笑顔で俺たちに言ってくれた。
「ありがとう。クラウスさん。では、行きましょう。剣志様」
俺たち三人が行こうとした時
「あの、リリス様」
「はい」
俺たちは、クラウスさんに呼び止められて振り返る。
「ちょっとフェリスに用事があるのですが、お借りしてもよろしいですか?」
「えぇ、いいですよ」
フェリスさんを残して、俺とリリス様は城に向かった。
大きな玄関を開けようとした時、ちょうど中から一人出てきた。見た目はスラっとしていて、髪も長く顔立ちも整っていた。
「お父様」
「おや、リリスちゃん。おかえり」
突然の魔王様の登場に俺は心の準備が出来ておらず、とりあえずその場に片膝をついた。
「ん、この子は?」
魔王様が俺を見て、聞いてきた。
いつも通りリリス様が、ことの成り行きを説明してくれた。
「そっか、ゲートの付近を歩いてると突然中に引きずり込まれて、魔界に来てしまったと…そういう訳だね」
「はい」
俺は答えたがなんとなく魔王様が怖くて顔を見ることができない。
「それで、人間界に戻るために私のところに来たと…」
「はい」
魔王様の声のトーンが少し低くなった気がした。封印されている場所に近づき、勝手に魔界に来てしまった俺に何か罰を与えようとしているのかと思った。
「よし!わかった。人間界に戻してあげよう」
「へ!?」
急にトーンが高くなった魔王様の声を聞いて、俺は変な声を出してしまった。
「黛…剣志くんだったかな」
「あ、はい」
「そんなにかしこまらなくてもいいよ。もっと肩の力を抜いて。リラックス、リラックス」
魔王様は気さくな話し方になり、俺が想像していたよりも明るい方だった。
「それに、偶然とはいえ、リリスちゃんを助けてくれたんだよね。ありがとう」
「い、いえ、そんな」
魔王様にお礼を言われて、どう反応したらいいのかわからなかった。
それから俺と魔王様とリリス様は少し雑談をした。会話は思いのほか盛り上がったが、時間も遅くなっていたので、今回はお開きになった。
「じゃあ、剣志くん。そこに立って」
魔王様の指示通りに立った。
「ところで、剣志くん。君の母親の名前ってなんていうんだい?」
魔法の準備中に魔王様が聞いてきた。
「母ですか!薫です。黛薫」
「そうか。ありがとう」
一瞬魔王様の表情が変わったような気がしたが、すぐに戻った。
「今日は楽しかった。久しぶりに人族の話を聞けてよかった」
「私も楽しかったです。また会う機会があれば話しましょう」
「はい!俺も楽しかったです。ありがとうございました」
魔王様とリリス様が笑顔で見送ってくれたので、俺も手を振って返した。
気づくと、人間界に戻っていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。