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ユニオン=サバト  作者: 佐藤モア
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序章 

序章



 妹にたたき起こされる。

 いつもなら嫌がらせとばかりに遅刻ギリギリに起こしに来るのに。中三になって大人びたのだろうか。シバかれた背中の悲鳴を幼さの残滓と自分を納得させつつ体を起こす。

 まだ親父が布団で伸びてる上を、腹いせに軽めに踏んでから洗面所に向かう。どうやら我が家には男を布団から出させない呪いがあるようだ。悲鳴が聞こえるが無視。

 慌ただしく廊下を行き来する母と接触事故を起こしながら洗面所に到着。ちなみに俺の髪型は周囲から、日替わりヘアー(笑)と呼ばれている。毎日セットしてるわけじゃないのにね。

 自室に戻り、真新しい制服に袖を通す。やる気なさげにしぼんだリュックを背負う。今日から俺の高校生活が始まる。心が軽いのは羽が生えたわけでもなく、減量に成功したわけでもなく偏に新しい生活への期待だろう。足取りが軽すぎてバレエダンサーになったといっても過言。

 「じゃあ、行ってくるわ。」

 不安なんて微塵もない、期待100%のハートで玄関を飛び出した。そんな俺の背中に親父が一言、踏まれた仕返しとばかりに向き合いたくない現実を突きつける。


「ところでエンジュ、一週間後の魔宴(ナハト)のチームメイトは見つかったのか?」

恨むぞ、父よ。




 現代

 魔術とは本来秘されるべきものであり、大衆の目には触れてはならないものであった。しかし、日本の一人の魔術師がこの禁忌を破り、その神秘を世に知らしめる。魔術協会は魔術師を非難し、情報を処理しようと試みるが、魔術という神秘を目の当たりにした人間の好奇心を止めることはできなかった。そんな魔術界と世界を大きく変える出来事を経て今に至る。

 今では魔術が一般化し、科学と魔術が現代の技術の覇権を争うようにもなった。それに伴い、高校や大学にも「魔術科」や、そこから派生した「魔工学部」「魔導学部」といったクラスが増えつつある。



 帰りたくなる衝動を、地面を踏みしめる力に変換しながら通学路を進む。

 魔宴というのはこの地域特有の儀式である。魔術一族の認められた者のみ参加する儀式であり、認められるための条件は高校生であること。何をするのかというと、参加者が二人~五人のチームを組み三つ巴、または四つ巴で倒れるまで戦うのである。もちろん、戦うときは仮想の体と街なので本人には全く影響はないのだが、痛覚はあるのでかなりつらい。この街の一流魔術師が安全に考慮し、一般の人間に全く迷惑のかからない場所を魔術で作ったのだ。素晴らしい技術なのだが、こちらの身にもなってほしい。四季でシーズンが変わり、三年後に一番ポイントの高いチームが優勝となる。そして優勝すると、魔術の総本山であるロンドンへの招待状を獲得できるというものだ。

 だが待ってほしい。俺がこの儀式を嫌っているのは痛いからではないのだ。じゃあなぜ嫌なのかというと、「チームメイト集まらない問題」だ。はじめまして!のクラスで初対面の人に魔術一族か聞いたうえで誘うなんてレベルが高すぎる。それに猶予はあと一週間しかない、やばい。

 そんなことを考えている内にもうすぐ親友との待ち合わせ場所だ。待たせてたときの言い訳を今から考えるのも悪くないかもなと思った矢先、

「すまぁぁぁぁん!遅れたぁあああ!」

直後、背中に強い衝撃。俺の背中はもうダメかもしれないと悟りながら振り返るとそこには親友/アルフ=フェニクリスが人に飛び蹴りを食らわせた後とは思えないほどの笑顔で立っている。

「元気なのはいいことなんだけどさ、俺今背中に爆弾抱えてるんだよな。」

かろうじて答えたはいいが立ち上がるのが本当につらい。

「大丈夫か⁉どこの家に爆発の呪詛つけられたんだ?」

「お前の小ボケってシャレになってないよな」

そんな会話の合間にようやく二足歩行に進化できた俺/天降 槐(あまろう えんじゅ)はおぼつかないながらも歩行を再開した。

「お前、歩き方どうなってんの?」

「こうなった原因であることをしっかり認識しようね。」

こいつは黙ってさえいれば女子からモテること間違いなしのイケメンなのに本当にもったいない。クウォーターで金髪碧眼、スポーツ優秀でさらに美形というモテないはずがない要素があるのに、神というものは残酷で、そこにひょうきんものというステータスをいれてしまった。本当にもったいない。ちなみにこいつは魔術一家ではなくふつうの家庭だと小さいころから言っていた。

「unknown(不明)って英語とunkonow(う●こナウ)って似てるよな。」

そう、こういうところ。

「ところで」

塀の上を歩きながら器用にこちらを振り返るアルフ

「エンジュさぁ、お前の家って魔術一族だったよな。」

「ああ、それだいぶ前にも言ったよな。」

「魔術一族だと魔術科に入らないといけないよな。」

「だいたいそうだな。俺も魔術科だし。アルフも一般枠で魔術科だろ?」

ここで俺はアルフがものすごく嫌な笑顔を浮かべていることに気づく。なんだこいつ張り倒してやろうか。

「実は俺さ…魔術一族なんだよ!」

こいつ、俺の魔宴事情を知ってからかってるんだな。は?と思ってしまったが、流石にそのままいうのは気が引けるのでオブラートに

「は?」

包めなかった。

「いやぁ、俺の家系の方針で魔宴(ナハト)に参加する年までは言っちゃだめだって言われてたからね。こうしてエンジュに言えるのがすごく楽しみだったんだぞ?」

「まじか…じゃあ俺とお前で組めるじゃねえか!」

これほど嬉しいことがあるだろうか。親友が魔術一家だったことで魔宴に対する抵抗感がなくなる。あとは負け過ぎない程度に三年間過ごせば…と思っていると、

「いやお前、二人だけじゃ勝てないじゃん。」

親友からの衝撃の一言。

「勝つつもりなのか⁉」

「当たり前だろ!本気でやらないと楽しくないぜ!負けるつもりでやるんなら俺はエンジュと組まないぜ!」

「本気でやるんで組ませてくださいお願いします。」

「おう、その意気でこれからも精進しなさい。」

アルフに組まない宣言をされてしまうと俺が折れるしかない。こうして、俺がひそかに夢見ていた平和な高校生活が静かに幕を閉じたのである。


 まだ面影に幼さの残る少年たちが向かう先は、羽巻(はねまき)市の北東に位置する下社(しもやしろ)高校。入学式初日から少年たちは学校中を走り回ることになるのだった。

本作をご覧になっていただいた皆様、ありがとうございます。

幼いころから小説家を夢見てきたので、こうして作品を投稿することができて感無量です。

シリーズとしてしばらくこの作品を続けさせていただこうと考えているので、よければ稚拙な本作を見ていただけると幸いです。

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