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九十五話 本当の愛を知らない子供


榊葉の猛進と共に三人は散る

空中を移動できるようになった谷下は右往左往に怒り狂った拳を避けながら彼の諸々をまとめていた


ーー私のオリジナルの谷下博士も本当の親では無かったから 榊葉は受け入れられなかった

彼の本当の母親は存在しない 彼のオリジナルであるギア・キャリントンが代わりになるとしても

世間一般では母親=女性という認識が強いという観念が榊葉自身にもあるとすれば そこで亀裂が入る

千年の時間の中で本当の母親なんて人物は現れる筈も無く

縋るように心を委ねていた同一人物の私の誕生を待っていたが 当時の私は子供

私自身が彼を父親と見ていたのだから

そして結果は自暴自棄のこの有様 ソトースと合体したことによって自身の闇が周りへの関心を失せてしまって

おそらく彼は自分でも望んでいない方向に歯止めがきかなくなってしまっているんだ


華麗に飛び回るミカンとティキシは放物線を描くように迂回し

魔神の両腕を不思議な力で切り落とす


激痛を顔で表す榊葉の額に足を着けた谷下は問う


「お母さんがいないって…… どんな気持ちだったの?」


曇った彼の目に映ったのは涙を溜める彼女のやるせない表情だった


〝 ヴォォォォォォ 〟


新たに腕が生えて小バエを叩くように滅茶苦茶に振り回す

デタラメな動きでも サイズが小さい方は小回りが利いて中々当たらない

そのチャンスを突いて谷下は ミカンに頼み事を言う


天之瓊矛あめのぬぼこ三叉戟さんさほこを取り寄せて!!」


「承りました♡」


ポンッとあの世から取り寄せた二本の神器を握って構える谷下は指示する


「もう一回腕を斬って下さい!!」


「「 了解!! 」」


腕を無数に生やしていた魔神に死角は無い

次々と襲い掛かる魔の手を二人が全ての力を振るって引きちぎる

全ての処理には時間が掛かったが 自分に標的を向けられる事を阻止できればそれで良かったのだ


無尽蔵に溢れ出る槍の力に負けず 絶対に倒す姿勢で前屈みに腰を下ろし

勢いを増して榊葉のくびに目掛けて飛ぶと 目を瞑る速さで思いきり体をねじ曲げ

加速を活かしてその巨躯の首っ丈を一気に斬り裂いた



〝 っ……!! っ…… 〟



首から上は地に向かって落ちていき 三人もまた力尽きる

制御出来なくなった体は 有り余る体内のエネルギーを膨張させ

次の瞬間では時空が歪むほどの大爆発が起きたのであった



〝 これでどうなるんだろう…… 元通りなら それがいいな 〟



とある映像が流れる 鮮明に覚えている 衝撃を受けたあの記憶

榊葉がティキシとカタに殺された いつぞやの出来事

過去に戻る形でまたループしたのかと思ったが 視点はもっとずっと遠く

それに気付いたのは その光景には自分自身も映っていたからだ


「…………」


微動だにしない榊葉 それもそうだ 死んでいるのだから


「…………イテテ」


誰もいなくなって数分後 何事も無かったかのように起き上がる彼は

頭部から血を流していようが平然と辺りを見回していた

しかし身体が思うようには動かず 結局その場にまた倒れる

視点はいつの間にか榊葉になっており 彼が目を瞑ろうとすれば真っ暗で何も見えない


すると 遠くから足音が近づいて来た

片足を引き摺るようなそんな弱々しい両脚が榊葉の前で立ち止まる

その場に座ったような音がしてゆっくり目を開けると


「お…… お前は……」 


「因果応報…… あなたにとって他人を殺す事に罪の意識はありませんよね……」


「……何故生きている アイリーン」


「もうすぐ死ぬよ だけどその前に聞きたいことがあるんです」


「……???」


「あなたは私のパパですか?」


「……違うな 絶対」


「……あなたはママのなんだったんですか? 誰なんですかあなた??」


「俺…… 俺は…… ……なぁ 榊葉直哉って何だと思う?」


「命が残り僅かなのに…… ふざけないでください……」


おそらく 全身が焼けただれて呼吸もままならないアイリーンはそれでも知りたかったのだ

自分の父親の存在 一目でも会ったことすら無かったのだろう

榊葉がそうだったとしても真実を受け止めたかった 二つと無い真実を知りたかったがそれは叶わない


「お前を見ていると アイツと出会った時間まで巻き戻せるよ…… 鮮明にな」


「ハァ…… ハァ…… ゲス野郎が…… 私の信者の命を何人も…… 奪いやがって……」


「どうせ死ぬんだ…… 後ろを見ろよ」


背後には水平線を飲み込む紅い煙が


「じゃぁ何で殺した? 予言はお前が〝発信元〟なんでしょ?」


「起こりうる事実を話しただけだ…… いざとなれば太陽の御心みこころ次第ってな……

まぁ所詮は俺と同じ人工物だから 放置されてれば自然と物を覚えて怒りに繋がるのかもな」


「同じ物……?」


「〝人工太陽〟と〝俺〟と〝谷下希〟

初代アイリーンにとってこの世界に遺されたやっかみは

全て大昔の人間にしか作れかった物ばかりだった

お前が持っていたゲーム機だってそうだぞ?」


「…………」


アイリーンは既に白目をむいており 座ったまま息を引き取っていた


『〝何故殺した〟か……

そういえばなんでだっけな…… どうなんだヨグ=ソトース?』


胸を撫でる 榊葉の口調も機械音にノイズが発生し始めている中

誰かに声を掛けているようだが 榊葉の周りには誰もいない


『裏切るのか…… 友達がガラクタになったらゴミ捨て場に置き去りにして行っちゃうのかい?』


手足も言うことを聞かなくなり 倒れる機体から漏れ出るのはオイルではなく謎の黒い液体


『血ってもっと赤いよな…… 俺は…… 俺は誰から産まれたんだよ……』


液体は次第に広がっていき それはアイリーンの遺体をも飲み込んでいき


『死に…… シ二ダグナイ アッ…… オレロボットカ……』



〝 私は両親が大っ嫌いだから小学校から寮に入ったの あなたも周りの大人達と同じなの?? 〟



映像は瀕死の榊葉の記憶の中へと引き込まれる

その光景はアイリーンの母親と初めて出逢った頃に繋がっていく



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