九十四話 眠れる獅子
街を一望できる島の離れの海上にて さっそく何かしら動きを見せていた榊葉直哉
フレアの世界は干上がった海と大地が黒炭と化して 蛹島の惨状は一目瞭然
時を同じくして 子々孫学校の視聴覚室にて燃えカスとして放置されていた遺体に動きが
黒く覆われた全身の皮が剥がれ落ち 起き上がってはさっそく大きく息を吸った
「ハァハァ…… 長ネギの丸焦げ焼きみたい……」
谷下はふと握り締めていた物を凝視する
それは利用価値があるのか分からなかった偶像〝蛇夢ノ像〟
何の役に立つのか分からなかったが 護身用として鞄に入れてた物を無意識に握っていた
「もしかして皆の魂は今……」
像を床に落としてフラフラと立ち上がる谷下は壁に手を付けようとすると
「熱っ…… くない!?」
焼け焦げた真っ黒な壁は尋常じゃない熱を帯びている 筈だったが冷たくなっている
玄関へ行っても自分の靴は履けず 辺りを見回す為に裸足で外に出てみると
「おかしい……」
そこはフレアが通り過ぎたであろう赤と黒で焦げた地獄絵図かと思いきや
緑が息づく変わらない島の風景が広がっていたのだった
「ウホッ?!!」
「うほ?」
校内のグラウンドを走り回るお猿さん いや
「これって…… 原始人?」
建物を初めて見た毛むくじゃらの原始人達は飛び上がって驚いていた
その彼らを見て谷下はまさかと 遠くに目立つ榊葉の考えに笑い堪えている
一方榊葉は谷下の存在に気付くが無視している 世界を創り直していることに酔っていたのだ
そうこうしている内に谷下は山を駆け上がり
サイロをよじ登ると 新しい世界の創造主様に拡声器を持って挨拶する
『テステス…… ファッ…… ファッファッ……
どうも榊葉町長!! 今はソトースってお呼びすれば良いかしら??』
〝 ………… 〟
大きな目で睨んでいる榊葉に物怖じせずに谷下は続けた
『世界を一から創り直す場合の予想をしていたんですけどね
泥から象ってアダムとイヴを誕生させるのか
はたまた原始人からなのか2パターンあったんですよ~
町長は現実的に原始人からのコースでしたけど それって神の存在を否定してませんかねぇ?』
〝 ……………… 〟
『矛盾が発生してますよね? どうなんです? やり直しますか?』
〝 ……黙れ 〟
『お復習いする精神は大切なことです でもせめて忠実に再現するならアメーバからですよねぇ?』
〝 黙れぇぇ!! 〟
『それにまず人工太陽を何とかしないと元も子もないでしょぉ?
せっかくの新人類達も可哀想ですよ~~』
谷下の挑発に歯をガタガタさせて堪えている榊葉は 体の僅か一部を取り出して冶金された槍を作り出し
その先端に力を込めてとある方角へと投げ飛ばした
速度は光の速さで太平洋に今でも存在する人工太陽へと辿り着き そのまま激突
宇宙規模で見る可愛い超爆発が発生し その最後の爆風が地球を覆う
蛹島にも勿論通過して せっかく息を吹き返した緑も原始人も跡形も無く消えてしまった
〝 ハァ…… ハァ…… 〟
「ホントに…… 何がしたいのよあなたは……」
〝 ?!! 〟
生物が生きていく事は不可能なこの場所で 平気な顔して宙に浮いている谷下に榊葉は圧倒されていた
しかしその答えは彼女の両端にいる二人の仕業だった
「ミカンさん!! ティキシ!!」
「はぁい! 超新星爆発ことミカンです!! 居ても立ってもいられなくなっちゃったので助けに来ましたぁ!!」
「うっす! お久しぶりです!」
七福神の変態ジジイでお馴染み 寿老人と福禄寿が登場
「なんで私は無事なの?」
「そんなこと聞くの野暮でっせご主人様♡ モノホンの神ならば説明抜きの神秘的な現象など朝飯前ですわん♡」
「ふぅん……」
「そんな事よりパパッと奴を倒しましょう!! でないといつまで経ってもこのままですからねぇ!!」
「……そうだね!!」
三人は改めて榊葉を見上げる
彼はというと 上手くいかない 邪魔が入る せっかく作った物を誤って自分で壊す
などなどストレスが溜まりに溜まっていて谷下達に怒りをぶつけたくて仕方なかった
そんな気持ちを配慮してるのか 知ったこっちゃないのか
三人の話題はミカンとティキシの追憶の話だった
「この惨状を見てると思いだすなぁ ティキシと大喧嘩し始めた時のこと」
「……互いに酒の入った本腰の殴り合いだったな」
「それが何千年も続いて……
千年前のあの日 この島に降りたって公民館で酒盛りしてた時期が終止符でしたね」
「我らの獅子 酒乱の谷下博士が俺達をド突き回してこう言った 〝短気は損気〟……ってな」
「七福神ともあろう者達がなに一人の人間に諭されてるんですか……」
「いやいや大事な事ですよご主人様♡
神たる者であろうとも仙人であろうとも 時々の初心を忘れるべからず♡ ですね♡」
「人も神もある時を境に高慢に陥るもの 己より上の獅子がいることに感謝を抱かなければならない」
「アイツも…… 榊葉の野郎もそれを学べなかった…… ということですね
そして私達はその欠点を見破れなかったという後ろめたさもあります」
「……獅子って」
「獅子とは〝母親〟のこと それは全ての生物に言えることで 母あらずして子は成長を覚えない
〝獅子の子落とし〟とは暴力的ですが上手く例えられた言葉です」
谷下はミカンの話を聞いて再度 目の前の魔神に目を向けてみる
「まぁ…… 間違いだよね」
「母は子に試練を与えることも可能で 達成すれば褒められる喜びを子に与えられるのも特権
彼は千年もの間 いや元々愛されることを知らなかったのかもしれない
産まれた時からロボットだった彼は 辿り着けない謎を一人で抱え込んでいたんですね」




