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八話 四日目 祭は出来ずとも


二日酔いが板に付いた谷下はまたもやスーツのまま寝てしまっていた

ゾンビのように起き上がるボサ毛の彼女は渡り廊下を這う

すると今日は大家と一番に挨拶を交わす


「あぁ良かった起きたね アンタに電話だよ」


「……ヴエ?」


顔を洗う許しを請い

ついでに髪もとかして食堂へと早歩きで向かった


「もしもし…… 待たせてしまって申し訳ありません」


『もしもし谷下君! 予想通り潰れてたようだね!

早朝で悪いんだけど今から【町長の農園】に向かって欲しい』


「農園と言いますと…… 山ですか?」


『そうそう! そこで町長が君と〝とある探し物〟をして欲しいそうだ』


「え?! 仕事は……」


『こっちも人手が足りないんだけどさ……

あの人が適当な理由も無く他の職務を失敗エラーさせたり要因ファクターを作るような人間じゃないからね

それに谷下君には昨日の内に承諾を貰っていると聞いたんだが?』


「……ハァ」


『……まぁ榊葉さんには色々苦労すると思うけど頼んだよ

人によっては変人に見られてる所が多いからさ』


「わかりました……」


電話を切ると深い溜息を漏らさずにはいられない谷下は両方の頬を叩いて気合いを入れる


「ご飯出来てるよぉ~」


「……頂きます!!」


食堂に入って席に着く谷下は朝食の団欒(だんらん)の最中に 愚痴混じりに大家に電話の内容を話した


「そりゃぁパワハラだねぇ~ 町長のご機嫌取りとか それも山にまで出向かにゃいけないなんてね」


「ハァ…… 接待しなきゃいけないのは美人の宿命なのでしょうか?!」


「ンハハハァ!!!! 違いないねぇ まぁ胸の一つ二つ揉ませて出世するのも賢い女がやる一つさ!」


「……冗談は止めて下さいよ」


気が進まない中でも着々と支度を調えた谷下は重い玄関扉を開けようとすると


「ほら早く乗んないと遅刻するよぉ! 遅刻もクソも急なお誘いだから関係ないけどね!」


アパート前の道端には何処からともなくオート三輪を引っ張って来た大家がそこにいた

それだけならまだしも荷台にはえりちゃんとアカリヤミが遠足気分で乗車していた


「あの~ これは……」


「目的地まで乗せてったるよ! ついでにこの子達のピクニックの日にさせようかねぇってね」


「……それは町長のご迷惑になるんじゃぁ」


「迷惑しているのはアンタだろぉ? つべこべ言わずにさっさと乗りなぁ!!」


渋々助手席に乗り込む谷下はこれでいいのかなと不安になりながらもトラックは発進した


「今日は山で飲むよぉ!!」


「お~~~!!」


テンションがリンクする大家とえりちゃん

えりちゃんとアカリヤミが背負っているリュックの中にお酒も一緒なのか考えると谷下は気が引けてしまう

車は両端に広がる田園を真っ直ぐに走り抜け 阻む物もなく車窓を通り過ぎる風は澄み渡っていた


「しかしまぁ町長も女好きだったなんて大スクープだねぇこりゃぁ」


「……多分本当に別の目的があるとは思うんですけどね」


「ありゃま!! それはゲンナリだねぇ…… ただの農業のお手伝いかねぇ」


「だと思います」


谷下は昨日のことを鮮明に覚えていた

自分が唐突に口にした〝ハナビ〟とは何なのだろうか

榊葉も驚いてはいたが何やら知った風の態度だ


ーー農園に行けば何か分かるのかな……


軽快に車が走っているその時だった

大家は思いっきりブレーキを踏むと 全員が軽く宙を浮く

谷下が確認したのは 道端のど真ん中に一人の赤いランドセルを背負った少年が立っていたのだ


「危ないじゃないか!!」


「…………」


少年は何かボソボソと声を発していたが誰も聞き取れないくらいの声量

大家は呼び止めようとしたが少年の足が止まることもないので 諦めて顔を車窓の外から中に引っ込める


「ランドセル…… 初めて見ました」


「確かにねぇ…… ボロボロだったとはいえ大昔の代物なのによく遺ってたもんだ」


「そう言えばえりちゃん達…… 学校は?」


「行く金なんて私は出せないよ」


「……すみません 変なことを聞いてしまって」


「なぁに! その代わりアタシが教えてるんだから ちょっと学校じゃ教えられないアダルト授業だけどねぇ」


「ハハハ… ……あれ? 男の子って赤いランドセルでしたっけ?」


「えっ? ……どうだろうね そこまで詳しくないねぇ!

色なんて人それぞれの好みがあるでしょうねぇ」


「そう…… ですよね」


谷下はランドセルが新鮮でその話題しか出さなかったが

実はもう一つ気になっていた それは少年のランドセルに太く黒字で書かれていた


ーー〝ティキシ〟? ……まさか名前じゃないよね?


妙に気になる変な文字を遠くの山を眺めながら考えていた谷下は外の空気に懐かしい味を覚えていた

気がつけば林道に入り整理されていない山道をバウンドしながら進んでいく

川のせせらぎがどこからか聞いてくるのを頼りに

谷下とアカリヤミとえりちゃんの三人で 緑を掻き分けて青く生命を感じる場所を探し当てるゲームで楽しんでいた

森を抜けた高原に出るとそこには


「わぁ!! サイロ!!」


三本も並ぶ収穫した穀米やトウモロコシを貯蔵する大きな塔が出迎えてくれた

車を停めると塔内から榊葉が似合わない農作業服の姿で軽く挨拶をする


「待っていたよ谷下希さん ……だけのお招きの筈だけどぉこちらの方々は?」


「ウチらはこの子の〝ぼでーがーど〟だよ

町長さんに何かされないよう しっかりと見張る為にね」


「アハハハハ!! それは心強い!!

菜園にトマトとか苺がっているから自由に取って食べて楽しんでくれて構わないよ

休憩所には麦茶もあるので好きにどうぞ」



「イチゴォーーー!!!」



ダッシュで向かうえりちゃんとお守りのアカリヤミは瞬時にその場から姿を消した

大家も缶ビールを手にゆっくりと榊葉にお辞儀をして後を付いてく


「賑やかなご家族ですねぇ~」


「はい! アパートに来てからイベントが尽きません」


「それでは谷下さん…… 谷下先生の方がいいかなぁ?」


「何でです?!!」


「ハハハ まぁいいや

それじゃぁ本題の〝ハナビ〟についてなんですが……」


そう言って榊葉は塔の中へと入っていった

谷下も恐る恐る中へ入ろうとすると 待っていたのは地下への扉だった





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