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八十八話 千年前 最期の最後は一番苦しくない


翌日には 雪花神様の提案で五十万もの魂がクローンの肉体へと埋め込まれる

生き字引という言葉は神様にも当てはまるのかは疑問に思うところだが

一躍研究員の間で人気になり 歴史やら日本の様子やらと質問攻めが後を絶たない


夜桜さんが日本の悲惨な光景に目を背けず聞き続けていたのを気になっていると

彼女は聞いたまんまの景色を絵に描いていたのだ どうやら遠い子孫に見せる為らしい



ある昼下がりの午後

サイロの近くにある山の高台にてガーデンテーブルが置かれている場所に座っている私に

仲間の一人である佐分利景虎が同席してきた


「何をしているんです?」


「夫への追悼…… かな?

島の復興でバタバタしてたから改めて彼がいた方角に別れを告げていたの」


「あぁそっかぁ…… ご冥福をお祈りします」


「う~~ん…… おそらく未練たらたらで彷徨ってるかもね

佐分利さんはどうしてここに? 休憩ですか??」


「曾祖父の遺伝でね…… 歌舞伎症候群って知ってる?」


「確か原因不明の先天性異常症候群よね?

だから佐分利先生…… 隈取のような目を」


「遺伝子が誤った働きをしてしまって誰も恨めない難病

おかげで昔は知的障害者認定されたんだけど……

まぁ恵まれた家庭環境だったからたくさんの助けもあって能力が向上していった」


「辛かったでしょうに……」


「中学生と同じ水準で勉学の仲間入り出来たのは成人してからだね

考え方の発達を手助けしてくれたのはアニメだった

訳が分からなくても感情という機能が働いて 一個一個培っていって社会を覚えた

根気でどうにかなる訳じゃなかったけど 発達障害を覗けば姿が歌舞伎役者なんだもの得した気分だよ

ただ体調が悪くなるのが一番の傷で 皆さんには迷惑を掛けていると思ってる」


「でもそんな話 初めて知ったわ」


「染島さんにお願いしてたのよ これでも障害者だから

問題は子供よね…… 外見から歌舞伎症候群が見られるし

症状も私くらいで治まってくれればいいんだけれど 合併症なんて身構えようがないし……」


「……難病なんですから そこは症状を理解する親であるあなたが付き添ってあげなきゃ」


「この前も学校で急に倒れたらしいのよ…… 私の時は無かった傾向だから不安で」


「……皆さん苦労されてますね 私達ももう五十歳後半」


「早いよね~~ それだけ研究に夢中だったんですもんね~~

そういえば谷下博士の娘さん 〝ミキ〟ちゃんだっけ?」


「えぇ…… 無事に結婚出来ました

アペルト・ゴッホさんの息子さんと一緒にアパートの管理人になってます」


「ゴッホさん…… 癌ですもんね この状況で仲間が亡くなるのは辛いですよ」


「えぇですから夫婦の母として これまた忙しくなりますよ」


二人はギア・キャリントンとアペルト・ゴッホに向けて黙祷を捧げた


年を重ねる毎に一人 また一人と土の中へ還っていき 気付けば私の老後は

残っている研究仲間の最年少だった國灯闇一コクトウヤミイチ

薄々予想はしてたが 八十を過ぎてもピンピンしていた夜桜さんと三人とで

サイロ近くにチューダーハウスを建てて余生を過ごしていた

死ぬ間際までクローンの世話を忘れずに


「何してるんです? のぞっちゃん」


「手紙をね…… もし生まれ変わって数億年後

愛する妹がもしこれを読んでくれたらなって思ってさ」


「それはさすがに残ってないですよ~~」


「いいの! 手紙ってそういうのも有りでしょ?  

届くか分からない宛先でも 便りなくなるまで しがみついてみたいの」


いつを境にかは覚えてはいないけど 互いをあだ名で呼ぶ仲までに

これは夜桜さんの提案だった 私達を童心に帰らせるように おそらく次の日からはあだ名で浸透していた


そして國灯の提案で どうせなら綴ったノートをお宝探しのようにしようと言ってきた

年甲斐もなく三人は丸一日を使って大いに騒ぎ始め

しっかりと答えに辿り着けるように 後半馬鹿にでもなったのか壁一面に太文字のメッセージを刻む

一通り走り回ってヒントを残し終えると 私は鳩時計の裏側に穴を掘って写真立てを置き

満足気にそっと閉じた


リビングで寝転がっている三人は 軽い雑談で今日を締め括る


夜桜「久々に子供に戻ったな!」


谷下「そうですね……! 私達が出会ったのって大人になってからですし それ含めて新鮮でした!!」


國灯「っ~~~~楽しかったぁ!!!!」


そのまま朝にラッピングしてた残り物で晩食を済ます

そして半年後には國灯が 島民に看取られて安らかに眠る


残った私と夜桜さんは 日がな一日をいつも通り過ごし

海を見たり 子供達の作る祭に参加したり 双方が元気ならばまたはしゃぎ回ったりして そして


「谷下希博士 貴女と共に仕事出来たこと 心より喜びを感じます」


「こちらこそ…… フレア後の行動も含めて貴女は 私達の誇りでした

指導者という誉れ高い称号において 貴女の右に出る者はいません」


「ハハハ…… ゲホッゲボゲボッ…… 先に行ってるぞ のぞっちゃん…… ありがどっ…………」


これで全員 私は幸運だった 不謹慎にもその言葉が頭に浮かんだ

最期まで全員の生き様を見届けられたのだから みんな安らかに寝落ちる


そしていずれ私も


気付いた時には そこで記憶が薄れている


最期に覚えていたのは 火葬場などではなく 小さな病室の ベッドの上での娘夫婦の笑顔だった


あぁ良かった 私も一人じゃなくて もう眠くて眠くてしょうがないよ


この笑顔があったから この笑顔を私達が作って残してやれたから とても幸せでした



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