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八十七話 千年前 思い詰めるも今夜まで


語り部は戻る


奇跡って今まで一度も起きていなかったんだなぁて思わされた

降臨した七福神達は私達を陸へ誘導したかと思えば

何をするのかと後ろを振り向くと 長い時間を跨いだかのような景色があっという間に

干上がった海の寄せて返す波音を耳にして 人々が歓喜の声を上げた


〝 それではわしらは帰るでの~~ またの~~子孫達~~ 〟


見渡す限りの範囲で全てを元通りにした 恵比寿天率いる七福神達は天に昇っていきました

若干二名 寿老人と福禄寿を残して


「や~した先生!! お酒注いで下せ~~!!」


「お主ばかりずるいであろうが福禄寿!! 谷下先生! 俺も俺も!!」


肝心の蛹島自体は全く被害を受けていなかったのが不幸中の幸いというものだった

気怠さを感じていた標高は元に戻り 澄み切った空気を味わえる場所へ戻れたと知れば

数ヶ月滞在していた難民キャンプから移動して 住民達は各自 久し振りの我が家へと早足で駆けて行く


そして私達も公民館に寝床を借りて後日 地下研究施設の大掃除を決行する

やることは長い年月の間に生じる不具合の修復だ

あとは慌てて出てきたので 周辺の片付けなどなど

例のあの日から被災を受けていた期間は 皆を餓死させない為に集中的に動いていたのだから

最低三人で赴いては クローンを気にかける事しか出来なかったのだ


島は元通りでも 世界は滅茶苦茶だ

未だ確認しようが無いけど あの災厄のフレアを見てしまえば

おおよその事実確認を目の当たりにしたようなもの


折良く戻った海には小魚が泳いでいる

不思議なことに船を出しても 近くにはサメやら鯨やらと

人にとって僅かでも危険が伴う種類が見かけられなかった事だ

これも神様の恩恵なのだろうか


簡単な事じゃなかったけど

勿論 研究者である私達のそこそこの叡智があって島の再興は訳無い


皆が落ち着いて暮らせる頃には五年の月日が流れていて

島内で一番大きい牡丹卍で例大祭を開催することに

お酒の種類は限られていたけど 現地で貯蔵されている焼酎を一番に鱈腹たらふく飲んでいたのは

アフターケアだのなんだの理由を付けて居座っている寿老人と福禄寿


「お爺ちゃん達…… 飲み過ぎですよ」


誰もが喜びの声を上げているが

一番耳に入ってくる声質はいつでもこの二人

私は適当な理由でその場を凌ぐと 遠くで肉を頬一杯に溜め込んでいるえりちゃんのもとへ


〝 おぅ谷下じゃな 〟


「食べ過ぎですよ……」


〝 この世は肉じゃ 故に是正は認めぬ 〟


「心配してるんですよ……」


あとで知った事実であるが 少女の身体に入っているのは雪花神ユキガミだった

彼女曰く 私がえりちゃんに出会う前から宿っていたらしいが


〝 しかしワシがちょっと島を離れる間に雪化粧でメイクアップするとは……

この星が弱っている証拠じゃな 〟


「そろそろ聞かせてもらいます? あの災害が起きた時 何処に行っていたのか?」


〝 外海のワシに信仰心がある魂を包んでおった…… 行き場の無い怨念一色に染まっておる 〟


「もしかして本土の人達の……? ていうことはやっぱり……」


私は一緒にいる娘に席を外すように伝え メモ帳を机に取り出して話を聞く


〝 お主らからすれば支離滅裂の話じゃというのに 随分と神を認知されてしまったな 〟


「えりちゃんに感謝ですね」


〝 ……ソトースか これを見越して人間に接触したならば さすがと褒めてやろう 〟


「ん??」


〝 何でもない ワシはこの五十万を超える者達を成仏させたいと思っている

だが知っての通り 怨念の魂は怨霊に成るのが末路 今やこの世界の大半がそれを占めている

それぞれの土地の神が何とか導いてはおるのだがな~~

生まれ変わり 肉体を持って赤ん坊になって貰わねば ワシらも仕事が減る 〟


「信仰心…… でしたっけ?」


〝 そうじゃ…… 神は偉大と言われているが そう例えられる殆どの存在は人間が作った空想話

実在するのはワシのような土地神と八百万と死神と黄泉の国の仏くらいじゃな 〟


「……ゼウスとかいないんですか?」


〝 ギリシャにおるぞ? ただの土地神じゃがな

見た目は雲の上から覗いているような巨大な形はしとらんし

……じゃが浮気と不倫を司る 全知全能のクズには変わりはなかったの 〟


「そうなんですか…… 神話とリアルには違いがあるんですね~~」


〝 ……一つ頼んでも良いか? 〟


「なんですか?」


〝 彷徨っている行き場を無くした五十万の魂を あのクローンの中に埋め込んではダメか? 〟


「……そんな事が可能なんですか?!」


〝 無論じゃ…… あの肉体には魂が空っぽ 持ち主がおらぬからこそ拒絶反応が起こることは無い 〟


「……クローンには魂は宿らないんですか?」


〝 あのままでは脳に支障をきたす人形マリオネットが出来上がるが……

そういう風に造るようエリに頼んだのでは?? 〟


「…………」


〝 なんじゃ煮え切っておらんのか あんな人間の形をしてるだけの肉塊を

よくもまぁ何も思わず研究というものを進められるなと感心しとったのに 〟


「そうですね…… 何をやってたんだろうね私達……」


〝 ワシの意見を否定するのかと思うておったが…… 自己肯定する意欲が無いとはの…… 〟


「状況が状況ですからね…… 誰も称賛してくれない研究だってのはちゃんと呑み込んでた筈だけど

実際誰もいなくなって ようやく私達の出番の筈なのに…… 成果が実る筈なのに……」


笑って過ごす今日という日に 涙を見せまいと即座にハンカチで涙を拭っている私は

会話の中で込み上げてきた現実を受け入れ切れず ポロッと今思う気持ちを口から吐き出す



「やっぱり悲しいな…… 皆いなくなるって哀しいよ」




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