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八十六話 千年前 衆生救済


研究員チームはさっそく干上がった魚を捕りに向かうが

肝心の獲物は塵一つ残していなかった 浅瀬は勿論 そこそこ深い海底にいる魚でさえも

荒野と化す海のあった場所を見つめ フレアの威力を改めて思い知らされた


「……もっと潜った方がいいわね」


「潜るって言い方 合ってますかね?」


ほとぼりが冷めてから探検隊を結成した夜桜達は

体力に自信がある数名は六日かけて干ばつした大地を下っていた

潜水艦隊でもなければ拝めなかったであろう地層を眺めながら進み

四日掛けてようやく行き止まりに差し掛かった場所にて 生き残っていた海水に巡り会えた


「塩問題が少しは解決されるが…… 期待していた魚はと……」


夜桜は近くを泳ぐ巨大魚イシナギを銛で引き上げてみる


「ラッキーだな…… 他の得体の知れない奴は地道に可食だろうが……」


「研究は僕達の得意分野ですからね」


國灯コクトウも近くの貝類に手を出すが

実際に図鑑や水族館でしか見たことの無い独特の姿に手を付けるのは勇気が必要だった


「毒があるかもしれねぇから気を付けろよ!

……取り敢えず海水と食料諸々は手に入れたから引き返す」


およそ人間が持ち歩くことの出来ない水量を 友達タイプが軽々と運び

抜粋した深海魚を荷車に乗せて探検隊全員で押し運び 蛹島へと帰還した

目印通りを頼りに来た道を登り 往復で12日を費やす長旅は無事に終える


しかし帰って来た探検隊が目にしたのは

島から数㎞歩いた先に島民達全員が移住している光景


「……何があったんだゴッホさん?」


「〝標高〟だね

今やあの場所は富士山の頂上にいるようなものですからね

となると気温も徐々に低下していって 蛹島が真っ白になりますね

息苦しさを訴える人が続出しまして 一応全員で下山してみたんです」


「そうか…… 食糧難を解決すべく そこら辺が盲点だったな」


「えぇ 海が限りなく少なくなっているって事は 今までよりも本物の太陽光の分散が激減します

おそらく地球上の土地という土地が乾燥して 方々で大規模の火事が起こってるんでしょうね」


「大気も不安定ってことか…… だがその理屈なら雪が降るのはおかしい……

あの島は何を守ってくれるのか慎重に調べる必要があるな」


「それで 収穫の方はどうでした?」


「パッと見て瀕死だったが海は生き残っていた

事態は少しでも好転するが本土までは船が必要になる」


探検隊も一息ついていると

國灯が誰かを探しているようだった


「谷下博士や葛西さんは?」


「二人は研究所に戻ってるよ

クローンの肉体に問題が出ていないか確かめに向かった」


「じゃぁ僕も向かいます」


帰って来て早々 國灯は島に戻る


地下研究所では 二人だけで作業をこなしている谷下希と葛西由紀

非常電源が回復しつつの状態を狙って カプセルの中にいるクローンに送られていなかった液体呼吸の流れを正常にさせた


「ハァ…… ゴメンね 人間がとんでもない〝おいた〟をしちゃったせいで苦しかったでしょ……」


返事が返ってくる訳でも無いが 谷下はクローンの少女が入っているカプセルに謝罪していた

葛西がある程度の資料を掻き集めてリュックに詰め込んでいると

ふとレファレンスルームの外から警告音が聞こえてきた


「……大変」


彼女は急いで谷下に知らせに行く


「気温が急速に低下しています 外を出る際は防寒具を着込んで下さい」


「分かったわ…… じゃぁそろそろ行きましょ」


研究所内を後にする二人 心配して駆けつけてくれた國灯と合流して下山する三人に

感覚が麻痺していたが故に 上空から落下してきた人外の姿を横目で捉えていた


次の瞬間にはすぐ近くにまで迫って来ており 谷下達の目の届く範囲の積雪に衝突した

その衝撃波を辺りの木々にしがみついてやり過ごす三人が恐る恐る近づくと


〝 ……に ……肉 …………肉をくれ 〟


谷下達は研究所から持ってきた干し肉を彼女に与えてみる

しかし目を擦って改めて見ると 羽根が生えていて なんともファンタジーに出て来るエルフを思わせる


「貴女は宇宙人ですか?」


「今侵略するなら 絶好のチャンスですよ?」


谷下と葛西が冗談混じりにヘラヘラ笑っていると

生気を吹き返したエルフのような生物は 怒りを噴出する



〝 ワシは南野雪花神ミナミノユキガミ!! この蛹島の土地神じゃ!! 〟



そう言い張る彼女を前に 三人は少しも驚いていない



〝 ほぉ…… ワシを見てもビビらんとはのぉ 〟



「貴女の前にえりちゃんって子の凄さを見せられちゃったしねぇ」


「まぁ…… 少しは慣れちゃったかなぁ 田舎は怖いねぇ」


全然怖れない雪花神の登場も束の間

三人が再び空を見上げると 幾つもの星々のような落下物が各地に降り注いでるではないか


「流れ星がこんなに…… この世も終わりかねぇ……」


〝 違うぞ葛西とやら

あれはワシと似て非なる存在の数々 各土地の信仰により顕現を存続され語り継がれる神々達じゃ 〟


万を超える光を帯びる星は 外国まで行き先が伸び渡り

その内七つの光が 夜桜達の前にゆっくりと舞い降りてきた


「なんだなんだ?!!」


ある者は尻込みしてしまい ある者は武器になりそうな物を取って構える


恵比寿天えびすてん 〝 いやはや生存者の見込みがあったとは…… 我々は七福神だよ 〟


大黒天だいこくてん 〝 徳の見積もりに変化は生じるが 唯一住める場所が雪国になっちまってるなぇ 〟


毘沙門天びしゃもんてん 〝 勇ましい心を持つ者もいて関心関心 信仰も根気がありゃぁ融通も利くってもんよ〟


弁財天べんざいてん 〝 随分と苦労を重ねましたね 私達は徳を積んで来たあなた方に招福を与えにきました 〟


布袋尊ほていそん 〝 うんうん! なんでもかんでもは無理じゃが まずは海を元に戻してあげようかねぇ 〟


福禄寿ふくろくじゅ 〝 おい寿老人! あの谷下ってめんこいオナゴ えらい別嬪さんだなぁ 〟


寿老人じゅろうじん 〝 あぁ…… おっちゃんにお酌してくれねぇかなぁ!! 〟 


突如現れた七福神と名乗る五名と 変態を匂わせる若干二名の爺ぃ共

これからもたらされる救済はまさに 今を生きる世に見られることがなかっであろう神の所業

島でただ呆然とその世界の修復という偉大な光景に 誰も言葉で括れる者など現れはしない



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