八十四話 千年前 エリとヨグ
神話の話は苦手 食事中も二人は会話していたので 意気投合してゲームの話でもしてるのかと思っていたが
〝 さすがに気付いていたか 〟
〝 当たり前じゃ このエリって片割れから大体の情報は流れてくるでのぅ 〟
〝 お前…… 南野雪花神か? 〟
〝 ほぉ…… 自己紹介がいらんとは処理能力が長けておるのぉソトース 〟
〝 さすがに過去と現在と未来は往復していないか 〟
〝 ワシ自身はな…… じゃがこのエリって奴からは映像として流れて来ておるよ
……あれだけ行きたくなかったイザナミがいる黄泉の国に 自分の姿が映されていると苦しゅうて敵わんの~~ 〟
〝 …………貴様は早めに詰んでおくに限るが 〟
〝 無駄じゃな…… 世界線が違うのじゃよ
仮にお主が今ここでワシを殺そうともお前が知る未来のワシは別人…… いや別神じゃ 〟
〝 ……お前の方こそ順応が早いでは無いか 〟
〝 伊達に神をやっておらんからなぁ!! カッカッカ!!
未来でもワシはこの娘を守っておるわけじゃが 現在でもそれは同じ事よ 〟
〝 ………… 〟
〝 片割れを吸収された土地神に100%勝てる見込みはあるか?
現在のお前が死んで果たして無事に意識だけでも未来に帰れる確証があるじゃろうかのぉ~~?〟
〝 ……覚えていろよ 〟
〝 それは雑魚と莫迦が吐く台詞じゃ 〟
雪花神は溜息を吐き 侮蔑の眼でヨグに愚弄する罵声を浴びせた
〝 この世の全てとその外側を司る唯一神がこうも下劣になるとはな……
不完全という因果がどれ程 危うい物なのかを示唆しているな 〟
〝 なんだと……? 〟
〝 今のお主がソトースと呼ばれるに相応しくないということじゃよ
そのような稚拙で人間の物差しで計るかのような裁量
それでワシより上位の神を名乗るなど勘違いも甚だしい 〟
〝 貴様…… 〟
〝 八つ当たりなら未来のワシにでもするが良い だがこれだけは覚えておけ
どれだけ偉い神であろうが 人や物を玩ぶ権利など一つもあってならないものじゃとな 〟
重い空気が静まり返る
川の字で寝てるが故に 小声による話し声は後半に向けてハッキリと聞こえていた
だが内容はちんぷんかんぷんで安眠には中々心地良いBGMでした
ーー話せぬのだよ 許せ谷下希 これから何が起ころうとも 手を貸してはならぬのじゃ
理と言ってしまえば早い話じゃが…… 記憶通り同じ事を繰り返すという後悔を抱いてはならぬな
えりちゃんに質問しても 少女は知らぬ存ぜぬの一点張り
友達タイプも本当に何も無かったという顔で朝食を済ませていた
子供の考えに理解が追いつけない 置いてけぼりの親の立場のような苦難に見舞われたが
丁度この時期から 何故だか どれだけ小さな不運だろうと それが嫌な予感に直結している
精神が不安定なのかとも危惧して病院にも行ったけど 仕事の疲れという医師の説明に納得せざるを得なくて
何かとても大きな物に襲われる恐怖に苛まれていた
「「「 大丈夫ママ? 」」」
「ダイジョブダイジョブ!!」
一気に子供から心配される私はちょっと照れ臭い
自分の容態を心配してくれた娘は 通院期間中だけ休みを取って帰って来てくれた
「独りぼっちで研究所に移住してるのかと思ったら 随分と賑やかなんだねママ」
「そうだね~ えりちゃんと友達タイプには仲良くして貰ってるよ~」
四人で食卓を囲い たまに國灯が来るとよりうるさくなる
動悸が激しくなることもなく 発作も無ければ通院生活は程なくして終わりを迎えた
娘も卒業間近でいそいそと本土に帰っていく 久し振りの水入らずだったのに港へ見送りにすら行ってやれない
「えりちゃんだっけ? ……最後に見たときと姿形がまるで変わってないけど そういう病気なの?」
「成長ホルモン分泌不全性低身長症って…… テレビでやってた小人症のこと?
もしくはハイランダー症候群かもねぇ
でもえりちゃんは今まで森で育ってたから栄養失調の可能性もあって 様子見って判断をしたのよ
うちの研究部には医療に精通している人もいるし 大丈夫!!」
半分嘘で半分本当
えりちゃんが特別な存在っていうのは娘には伏せていた
神だのなんだのと上手く説明は出来ないし
面白がられてネットに載せられるのも阻止したいという研究員目線での処置だった
子供に偽りの姿勢を見せて 後々に相手から親としての遺憾を覚えられるのは怖かったけど
まぁ変にオカルトに走られるよりはマシだろうと踏んだ
そして 私達人類は あの日を迎える事になる
2048年 ・人工太陽完成
テレビにも映し出され 見る者全てに感動と不安を与えた
地球に小さい太陽を創ったのだから無理もない
2049年 ・新型コロナウイルス〝第二世襲某国株〟が勢いを増して全世界に蔓延
世界は瞬く間に恐怖の渦へ
・学者が前回のコロナ渦の経験を基に
二度目の感染率が高くなるのは主に患者と密接が多かった医療従事者だと提唱した
これにより治療できる医者は限られ
医療崩壊が過激化する未曾有のパラドックスが暴発される
一部では闇医者が多く確認され 感染経路不明者が続出
・クローン開発停止命令が役人上層部で決定が決まる
投資されてきた研究費の提供は億から0に 研究員達は集まって会議を開くが
結論から言わせれば〝どうしようもなかった〟ので 満場一致で研究打ち止め
クローンが入っているカプセルの稼働は継続しつつも その日は全員で初の宴が開かれた
2050年 初頭
ソレイユフレアが完成されれば クローンの必要性が半分以下まで落ちていた
無重力装置の中で浮く太陽は 巨大な貨物船数隻によって運ばれ
テロリストの危険性も考えてさらにその周りを海軍が厳重に固めている
その世紀の大発明が起動される瞬間は 研究所のモニターから私達も見ていた
全世界が注目する中 開発主任の一人が挨拶を済ませ 現場の総力を挙げて準備に取り掛かり
熱風の射程外まで現地の人間は避難を開始し マスクを被る全人類が注目した その時だった




