八十一話 千年前 バレー彗星 ~流れ星に祈りを~
研究に一段落なんて無いけど それ故にキャリーからのプロポーズは時間がゆっくりに感じる
染島所長からも休みを貰って一日デートは島内のお寺巡り 昼食は蕎麦屋というまるで熟年カップルだ
最後に回ったのは牡丹卍という場所 何故か夜桜さんが境内を見学していて
「買い取ろうかしら……」
その土地の神主に話をつけているようでプライベートでも行動力の鬼でした
なんでも研究所にある資料が収まり切らないようで 地下に保管場所を造るとか
理由はそれしか教えて貰えなかったけど 単に趣味なんだなと思わせるくらい 彼女の目は輝いていた
それはそうと最後に行き着いたこの場所でお参りする私達二人も境内に上がって手を合わせる
「賽銭箱には何故五円玉なんだい?? 願い事を叶えて貰うならお金はもっと払った方が良いと思うんだが??」
「御縁があるからって掛けてるのよ…… もう~~…… ビジネスじゃないんだから」
「じゃぁ甲子園の時は五十四円とかなのか??」
「……分かってんじゃん」
二礼二拍一礼を済まし寺を後にする
夜はキャリーがサプライズを用意しているらしく
女性である自分が反応を大事にしなければならない瞬間だ
場所は研究所の入り口でもあるサイロにて 既に大勢の協力者によるディナーの舞台が整えられている
何処からともなくレッドカーペットが足下から奥まで転がり 手を差し伸べる彼に戸惑いながらも応えた
「さぁハニー 特別席へご案内いたします」
「ありがとう……」
さすがは外国人 エスコートが神ってやがる
導かれるがまま森を抜けて島内随一の羨門村と海が一望出来る高台へと連れて来られた
目の前には白いガーデンテーブルにクロスが掛けられていて その上には豪華な食事が
「友達が今日という日を祝ってくれて腕によりをかけて作ってくれたんだ」
「友達??」
席に座る私は空のグラスにワインを注がれる
ラベルが真上に光るボトルを握る手元を辿って 見上げるそこにいた人物は
「うぉっ! 友達タイプね」
『ごゆっくり』
澄ました表情で厨房に戻るかのように森の中へと消えていく
「乾杯しようか」
「えぇ」
グラスの弾く音と同時に吹いてくる 気持ちが昂ぶる温かい風が自分を応援してくれる
次々と出される料理はどれも高級品だが 程よく舌に馴染む味わいはしっかりと和風フレンチだ
「これ全て友達タイプが?」
「そうだよ 一流シェフのノウハウがインプットされているからね」
酔いも進み始める頃に踏み込んだ会話を持ち込む
「キャリーと友達タイプはどんな関係なの??」
「……それは本人がメインディッシュを運んで来る時に話そう」
ワインの縁を指で撫でて待っていると 両手に二枚の皿を乗せた彼が現れた
キャリーは隣の椅子に座らせてワインを注いであげている
「こいつは俺を殺したいと思っているが 俺はこいつを無二のフレンドだと思っている」
『そのような事は…… 拾って頂いたご恩は忘れていません』
「仲が良いのね」
「俺達と出会った頃から月日も経っているから察していると思うけど 俺とこいつは同一人物だ
研究の材料として俺のDNAが使われ 顔が瓜二つのターミネート18が生まれた
クローンなんてどの国でも法律が厳しいから 同じ顔の自分を目の当たりにした時は正直な顔を出してしまった」
『……』
「だがこいつは俺と違う 紛争地で背中を合わせた時 何気ない会話をしている時
質問を投げかければ こいつなりの返答が返ってくる全くの別人 個性を感じてしまったんだ」
『プログラムされた受け答えかもしれませんがね』
「それやめろって言ってるだろ
……こいつはガキの癖に人を殺さざるを得ない環境に置かれてしまったからな
俺は親になってやろうと思ったんだ 今回も良い機会だと思って連れてきたのもそれが理由だ
派手な争いとは無縁の落ち着いた環境を用意出来て 人様の役に立つ
こいつの自由を尊重して…… 友達タイプなんてユニークな名前も付けて貰って……
あとは自分の幸せを見つけりゃぁ俺も救われる」
『あなたには感謝しかありませんよ??』
「それが親ってもんなんだと思ってる クローン製造の片棒を担いだとかに罪悪感は無い
親に出来る精一杯を独身の俺が頭使って出来る事をしているだけだ」
半ば酔っているキャリーは水を貰うと 目線を私に集中した
「俺は大抵の芸術品は一通り愛でれば 感受性を浴び尽くすなり興味が無くなってしまう
これを一目惚れの類いと例えよう 君は宝石箱に一際輝くダイヤモンドだった」
ーーおっとこれはプロポーズか????
「付き合いを始めてからそれは揺らぐ事はなかった
だが自分の息子を育てようってなれば 経験を経て考え方が変わってきたんだ
物に例えて自分の恋に火を点ける日々には いつの間にか おさらばさ
家庭ってもんは言うなれば絵画を見ている隣の人間 それだけじゃぁただの恋人未満で終わってしまうが
その人を絵画よりも見入ってしまい 終いには見守ってしまう存在 それが未来の奥さん
掛け替えのない夢というものを金以外で手に入れようと努力した末に手に入る物なんだって気付いたんだ」
「……」
「希!!!!」
「は…… はい!!」
キャリーは胸元のポケットから小さいリングケースを取り出し
テーブルを越えて地に片足をついて跪くと 顔を上げてケースの中身を開けて見せた
「俺と……!! 夫婦になって欲しいで候!!!!」
ーー日本語が残念!!!! ……でも
「こちらこそ 不束者ですがお供させて下さい」
「ッ!!」
キャリーはガッツポーズを掲げ 海に向かって大声で誓う
「As freely as God has given me life, I join my life with yours.
Wherever you go, I will go; for better or for worse,
for richer or for poorer, in sickness and in health,
I take you as my wife, and will give myself to no other.
(神が私にご加護をくださっているように 貴方が向かう先に私も向かいます!!
良い時も悪い時も!! 富める時も貧しい時も!!! 健やかなる時も病める時も!!!!
貴方を妻とし 命ある限り共にする事を誓います!!)」
「はいはい…… よろしくお願いしますね」
呆れてるのか照れているのか 私は思わず友達タイプと目を合わせてしまった
そして今日のデートもあっという間に もうすぐ終わっちゃうのかと ふと空を見上げると
「え……」
そこには満天の星が夜空に鏤める夜景に勝る〝彗星〟が 人々の視界を独占していた
「あっ!!!! 言い忘れてた!!!! 今日は千年周期で訪れるバレー彗星の日だった」
「……すごい ……綺麗」
翡翠色に染まるイオン化されたガスが目に焼き付いてしまうくらい魅了され
辺りに散らばる流れ星が海に落ちたり手元に舞い降りたり
圧倒されながらも 願い事をしなければと思考が過ぎるので私もまだまだ乙女チックね
「日にちを合わせてのデートプランだったのに…… 今の今まですっかり忘れてたよ」
キャリーが頭を掻きながら私の方を振り向くと そういえば私はどんな顔をしていたんだろう
「パステル柄のように統一された 色が褪せることのない素敵な家族になりましょうね」




