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八十話 千年前 歩み寄られ歩み寄りて


魂が還る話について アイリーンからはもう一つの可能性が出された

その仮説は時間跳躍というものであり タイムスリップやタイプリープといった

またもや体験出来そうにない無謀な話だった


「魂とは〝生まれ変わる〟を前面に置いて議題に置いた結果

過去には戻らない結論となります しかしあくまでこれは前提を固定して成り立つ話です

未来で目覚めたクローンは死後 この時代に戻ってくるという仮説を私は立てました」


思わず首を横に傾けたくなる暴論だ


「黄泉の国というのは日本より信じられるあの世のこと

そこはどんな場所か 私は人の記憶で形成される擬似的な理想郷が具現化されていると思っています

何故か? 死んでも五蘊(ごうん)を欠けるだけであって意識が鮮明だからです

そして生まれ変われる日まで苦を感じない暮らしをする

それこそが天国 過ちも後悔も払拭できる場所を極楽浄土と呼ばずして何と言う」


「その死後の世界で一服したあとでここに帰ってくると……」


「成功例になぞれば可能です

何故ならフレアがご破算になる事態になれば 限りなく人類は生き残っていないでしょう

つまり思い出の終着駅である〝現在〟こそが今を生きる魂達の還る場所と言えます」


「……だから未来のクローンに入る魂もここに戻ってくると」


「残念ながらこれは賭けです」


アイリーンはホワイトボードに幾つかの横線を縦に何本も引いていく


「私達がいる世界線を一番上としましょう

もしも意識的返還(タイムリープ)なら未来にいるクローンは今ここに返り咲きます

しかし時間旅行(タイムスリップ)の場合 ここより違う線に移動します

違う線というのはパラレルワールドに向かうということです」


「なんで?? SFはノータッチなんですけど……」


「有力説として〝祖父殺しのパラドックス〟

例えるならこのタイムスリップというのはドザえもんでも見たことがあるかと思いますが

タイムマシンで過去に戻り もう一人の年齢が違う自分に出会う訳です

この時点で同一人物が二人存在します

問題は未来からやって来た自分が過去を変える術を持ち合わせているということ

存在自体が時空を歪み兼ねませんが もしも未来のクローンがあなた方を殺したらどうなりますか?」


頭がゴチャついて回答なんか出来やしない


「産まれる筈ではなかった存在が好き勝手やっている 矛盾が生じてますよね

そうならない為に起こり得る一種の修正だとでも思って下さい」


「それが本当ならドザえもんの話が嘘にならない??」


「まぁあれは漫画ですから あくまで例えの材料に使ったまでです」


自分の言葉を否定しない精神

常にどんな質問でもそれなりに返答する彼には脱帽だった


「私達調査団がもしもの時に備え 世界中の何処かにクローンが現れないか目を光らせています

このご時世で暇人扱いされるのも妥当ですが 確率がゼロでない限り未来に頼りたいですからね

そして当事者が知る過去をレポートにまとめて 危険を知らせでも出来たならそれなりに称賛もされます

タイムリープが理想的なのですが まだ肉体も完成していないと聞きましたので

今後の研究成果を心待ちにしています」


説明会は何の問題も無く終了した

廊下のソファーに項垂れる私と國灯コクトウは気が滅入っていてしばらくその場から起き上がれなかった


「頭痛い~~」


「文字通り実にならない話だったわね……

上手く丸め込まれた話だったけど 結局不確かな未来に任せる運ゲーってことでしょ」


ダラダラ会話してると いつの間にいたのか目の前にはアイリーンが微笑んでいた


「仕方の無い事ですよ 谷下博士が研究しているのはけして公に出来ることではありません

それほど世の中にとって危険な事に手を染めている だけどそれは盲目であって功績とは受け入れ難いだけのこと」


「そうですね…… 時間を移動できることも 実は可能だったなら公にするべきではありませんしね」


缶コーヒーを手渡される私と灯闇は陰口という失言を取り消すべく

アイリーンとの雑談を歓迎した


「アイリーンさんってギリシャ出身でしたっけ?」


「母が日本人で父がギリシャ人です

こちらの国には何度か語学留学でいらしてましてねぇ

いやぁ…… 古墳はロマンですよねぇ」


「遺跡とかミイラを追ってるんですからそうですよね~」


「日本といえばお墓ってイメージなんでワクワクですよ

だけど最近はお墓を建てる人が少なくなってまして 伝統や決まりではないんですか?」


「まぁその人の自由ですし 今が今だけあって立派なお墓もその分 値も張りますからね」


「少し淋しい気もしますがねぇ 死者を大事に弔っていた昔ながらの日本が好きだなんて余所者が図々しいですかね?」


「いえいえ…… 最近は樹木葬って 言い方はあれですけどオシャレな墓地が人気なんですよ」


他愛もない会話で変わる人の印象

今までの自分は仕事もプライベートも含めて余裕が無かったと気付かされてしまった


「まだ遺跡発掘のチームを作って間もない昔の話なんですけどね

大きな穴が開いた遺跡を見つけたから来てくれって言われて向かったんですよ

ロープに身体を括り付けて いざ下に降りたらそこはゴミ処理場だったって分かったわけ

不法投棄の場所だったから国に認知されない場所だったんです

何日かに一回やってくる傷もんの作業員達から〝臭そうな生ゴミが不法投棄させれてるなぁ〟って

もう笑うしかなかったよ!」


「ギャハハハ!!」


私の隣で國灯はブラックジョークに大笑いしていた


「目まぐるしい成果は無かったよ 捨て子を拾ったくらいで即撤収 ちなみにその子は今では私の娘だ!!」


「「 ギャハッ…………!! 」」


笑える話を続けるのかと思えば いきなり重くてちょっぴり良い話に変えてきやがった

不意打ちで笑い損してしまった二人は気まずいのなんの これだからブラックジョークは嫌いだ



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