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七十九話 千年前 オカルトは魔法と同じです


普段軽い雑談でしか使わない談話室にて

スクリーンとプロジェクターが準備されている壇上には既に肌触りがかんばしく無さそうな学者が立っていた


返霊考古学者へんれいこうこがくしゃのアイリーン・沙淡さたんと申します

日本語は不慣れですが この日の為に猛勉強して参りました

些か内容によっては聞き手を滑らせるかと思いますので その都度ご質問にお答えします」


早速手を挙げたのは私だ


「〝返霊考古学者〟なんて聞いたことも無いんですが…… その役職に付いて軽く説明してもらっても?」


「日本語に受け入れやすく翻訳したものでして正式名称は〝ネクロポリス・ペリクリタートレース〟

死者の都へと危険を顧みず過去を顧みる冒険者達という意味で名付けました

我々が今日こちらに招かれた理由はズバリ死者の魂の向かう先でしょう……」


「……以上です 続けて」


穏やかな笑顔を崩さない彼に 恐怖を覚えるのも無理はない

だけど死者に関しては最近の自分にとって身近に思えるのも当然 故に耳を傾けてしまう


「まず我々が知る二大一丸の大規模プロジェクト

人工太陽面爆発ソレイユフレア〟と〝短命の稀少心臓デロリアン・カーディオ

どこの国も危惧している変異ウイルスの複数の事例を含めた 未だ見ぬ恐怖に煽られる時代

学者の間では一先ずコロナによる第二次世界恐慌は終わりを迎える などと

必死に経済を立て直している真っ只中に 徒労を促す揶揄発言も出てきても仕方ない状況です


追い打ちを掛けるかのようなフレアというワードに人々はさらなる不安を抱える事になるでしょう

そしてもしもの時が現実に起こった場合に用意されるのが片方の心臓という訳です

これは心臓本体が活動を始めて 初めて時が進むという例えが使われる代物です

現在は一種のコールドスリープ状態ですね 丁重に扱われている理由はこの状態で千年後でも保存が可能だと既に証明済みです

そしてこの心臓を皆さんが苦労して製造して下さる肉体に埋め込み

肉体ごとスリープさせれば もしもの時 未来での活動は約束されます」


「胚から造り出して 人体のある程度の成長期を迎えた頃に移植では駄目なのでしょうか?」


「問題はありません ……ですがこの心臓は大人サイズです

最低でも二十年を待たされる上の方々は果たして痺れを切らさないでしょうか??」


「っ……」


「いくら莫大な予算が帳簿に書かれると言っても〝現在の人類〟は皆 フレアの方に期待を膨らませています

最終的にこちらへ工面される予算が一兆円だとすれば あちらは十兆百兆は確実でしょうねぇ

仕方のないことです 何せこちらは現時点で〝そうなるかもしれないファンタジー〟に本気にならなければならないのですから」


コップに水を一杯注ぎ 喉を潤すアイリーンは質問者に目線を合わせて話を続けた


「我々は言ってしまえば笑われてしまう 地球防衛軍なのです

宇宙飛行士の偉業を知らずに金をケチる人は ここの真実を知った時には石を投げるでしょう

ですがもし人類がウイルスまたはフレアで全滅してしまったら??

後世に残るのは医療崩壊もしくは……

平和な世界を維持する抵抗という意思を持ち合わせていない 故に生じた一瞬たる最終核戦争で全滅

大体このような筋書きで語られるでしょうね」


突然 彼の目の色は輝き出す

空の向こうを 未来を見越しているかのようにつぶらな瞳が見る先

そして両手を広げ 自分の目線からは私達が座っている視聴者の席を全て囲んでいるのだろう


「だが私達は特別です

やがて滅亡後はシェルターから顔を出す者や運良く生き残った者達で文明をリスタートさせるでしょう

そうなった場合にはその後の未来を先導する この島の文化を混ぜて言うなれば〝獅子〟が必要となります

氷河時代にも耐え抜いたホモサピエンスにも絶対的な指導者がいたのではないでしょうか?

我々や我々の子孫はこの百獣の王の座に君臨する心臓を身の内に宿すクローンを

いずれはこう呼ぶでしょう 〝文明の非常電源〟と」


気がつけば講習会の時間は予定のほぼ前半を使い切っていた

人に気付かれまいと小さい動作で欠伸している者もいたであろう

しかし私は違った タイミングがタイミングなだけに この人の言葉に勇気づけられてしまっていた


「そろそろ本題をお願いします」


自分を推薦した大学教授の咳払いと共にアイリーンは手元の資料を取り出す


「まず古代エジプト人のミイラの考え方は〝第二の誕生〟を信じて肉体を保持するという信仰をされていました

霊魂は五つの要素 心臓・影・名前・魂・精神から成り立つとされ

条件が揃わなければ失敗に終わり 再生が叶わなかった場合〝第二の死〟ということになります

最近の見解では前世を覚えている人間というのをテーマに考えられていますが

記憶を保持している場合は肉体ではなく魂だということから

同じ肉体は勿論のこと ましてや絶対に血族とは限らない訳です

ですからクローンに誰の魂が入るかはランダムになります」


「魂によっては未来での活躍も高低差が出ますよね?」


「いいえ…… 環境半分遺伝子半分で人の成長過程は決まると言われています

その点で必要になるのはクローンの教育設備が求められますね」


それの話についてはキャリーが壇に上がって説明する


「こちらで用意したターミネート18が対象クローンの世話係 子守用ロボットになってくれます

破損した箇所は独自で修復が可能 体内の重要組織は人の一個分多めに内臓されいますのでご心配なく

既に過酷な環境で実証済みです」


まさか友達タイプがこの研究所にいる明確な理由があったなんて思わなかったわ

キャリーが周りに黙っていたことはあくまで期待を持たせ 歓声を上げさせたいが為のサプライズだったらしい

あとで恋人の私には密かに謝ってきた



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