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七話 三日目 ハナビ?


「事例の一つとして〝気候変動〟もあったそうだから今の空の現象と温暖化の関係性は無いとも踏んでいる」


「だけど年を越す度に暖冬の異変なんかで変動から〝気候崩壊〟に囁かれ始めたんだろ?

……平成か令和だったか覚えちゃいないが年々雪が降らなくなったとか」


大将が店前の暖簾のれんを下ろす時間帯

店内に残っていたのは例の四人だけとなっている

お冷やで頭を冷やしている染島と榊葉は去勢された猫の様に大人しかった


「……さて 祭も無くなったことだし

私達役場の人間は仕事が一つ軽くなったということで前向きに行こうじゃないか谷下君」


「……課長~~ 仮にも染島さんの前で言いますかぁ?」


「今日で吹っ切れる為に私も今夜は付き合ったんだ

民意を尊重しての結果なんだから無い物強請り(ないものねだり)されたところで深酒を繋げるだけさ」


高山は席を立つと染島を無理矢理立たせる


「榊葉さんは大丈夫ですね 大将! お会計!!」


「ヘイよー!」


四人分の勘定を文句一つ垂れずに済ませる高山に谷下は尊敬を覚える


「谷下君 帰り道は榊葉さんに送っていってもらいなさい」


「…………え?!」


「大丈夫大丈夫! 彼は人妻キラーであって独身女性には紳士的だから」


「人妻キラー!!?」


路地裏で用を足し終えて来る榊葉は店の前でシメの音頭を張った


「えぇ~~ 我々この島の民の平和と健康を願っている役人の集いですが

明るいイベントを一つ守り抜く事が叶いませんでした!!」


「ふざけんな~~ 町長だろ~~ なんとかしろ~~」


高山に抱えられているベロベロの染島は弱々しい最後の本音を溢している

谷下もこればかりはと最後の最後に事の現実を悔やんでいた


「もうさっさと帰るぞ〝タカヤマーン〟! 明日は祭の準備で忙しいんだい!」


「タカヤマーン?」


「そぉ! こいつの昔っからのあ・だ・名!!」


焦点が合っていない染島をやれやれと抱え直す高山は谷下に手を振る


「それじゃぁ谷下君 また明日ね

……二日酔いが激しい時は無理しなくてもいいからね」


「だ…… 大丈夫です!!」


「……それじゃぁ!!

ほら染さん! ちゃんと自分で歩いて下さい!!」


千鳥足の染島を操縦する高山は電柱に気をつけながら薄暗い路地の角を曲がっていった

残された谷下は視線を榊葉に切り替える


「じゃぁ俺達も行こうか?」


「はいっ!!」


ーー何故だか分からないけど この人を見ていると緊張する……

どこかで会ったことがあるのかな?


「綺麗だねオーロラ……」


「…………」


谷下は夜空を見上げる

満天の星なんてムードを作るセリフも吐きたくなるが

祭が無くなった原因かもしれないと思うと複雑だ


「そういえば町長」


「榊葉さんでいいよ 染島のことも染さんって呼んで上げた方が喜ぶと思うしね」


「……わかりました それでさっきのことなんですけど 獅子の系譜って?」


「あぁ覚えていたんだ

……ちょっと非現実的なこの島の歴史なんだが

ここは八人の神様によって作られた島だってことは知ってるかい?

まぁ神様は比喩で 大昔に八人の手によって今の私達の社会がある」


「日本史で習いましたけど…… あまり覚えていません」


「そんなある刻 八人の中から一人の〝大王〟が誕生した

彼は王としてこの島の秩序と平和を歴史を参考にして構築していき今までの歴史を紡いできた

同じ人類が外界に存在しない今の時代でたった一人の獅子として君臨する

そんな誰からも認められた王の子孫が今は確認されていない島の七不思議の一つだよ」


「神話の話ですよね? そんな何百年も前の空白を埋めるオカルトは苦手です」


「そうなんだよね~~ だけど過去の史実を洗うというのは何故か興味があってね

ほら! 日本史でも二千年以降の歴史が無いだろ?

遠い昔に実在した昭和や平成 未来なのに一番書物に情報が無い〝令和〟の時代には何があったんだろうねってさぁ」


「…………過去よりも今ですら何も無くなってしまうようですけどね」


谷下は榊葉との会話が進めば進むほど顔がうつむいてしまう

そんな中でコンクリートの隅に咲く一輪の花に目がいった


「……光ってる」


「あぁ~~蛍だね」


淡く小さな光を照らす蛍は弱々しい

既に枯れている徒花に勇気を与えようかと団結している様な虫たちは

儚い命を代償に精一杯 異なる命に生気を注いでいる

谷下は思った 今なら染島の言いたかったことがハッキリ理解出来る


「やっぱり…… お祭りは必要です」


「気持ちは分かるよ…… 不況を乗り越えたらまた島を活性化させようじゃないか!!」


「島民が弱っている今だからこそ 皆が元気になることをしなきゃいけないんじゃないんですか?!」


「……観光課だねぇ ではどうするんだい?

やりたいことを企画にまとめないと付いて行く者も付いて来れないよ?」


「それは……」


海に染まった潮風が吹いた

それは空からの贈り物か はたまた皮肉か

彼女は今 頭も心も空っぽで悩んでいる

そんな隙間に風は通り抜けて 林のうねりを模して教えてくれた


「……わぁ!」


「これは…… すごいねぇ」


二人の頭上を舞う蛍の大群 まるで花から打ち上げられた…


「打ち上げる…… 火花…… …………〝ハナビ〟?」


「どうしたんだい?」


「ハナビ…… ハナビって何ですか?!」


「…………やっぱり」


気がつけば二人はアパート前へと辿り着いていた


「あの…… 送って頂いてありがとうございました」


「いやぁいいんだよ…… とんでもない収穫もあったしね」


「え?」


「そうだったのかぁ…… 君だったんだねぇ!!

俺は調べ物があるから早めに帰らせてもらうよ!!」


「あ…… はい… お疲れ様です」


谷下は欠伸をしながら中へ入ろうとすると 不意に肩を三回叩かれた


「ヒャッ!!」


叩いた相手はもちろん榊葉だ

谷下は恐怖と微かな嫌悪感を際立たせる


「君が獅子だ!」


「……ふえぇ?」


「うん! お休み!!」


一人置いてけぼりの谷下はしばらく玄関前から動けずにいた

足音で帰ってきたことを察していた大家も中々アパートに入らないもんだから

思わず寝間着の上に羽織を覆って谷下を出迎えてやった




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