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七十八話 千年前 死路


「ただいまぁ!!!!」


思わず玄関前で滑って転ぶ私を出迎えてくれたのは父と母

と三木ちゃんの筈なのだが 何故か妹の同級の千代子という友人が実家にいた


「えっとぉ これはどういう状況??」


「……ウッ!!」


突然母は洗面台に向かって口を覆いながら走って行った

友人の千代子に関しては既に涙をハンカチで拭っている

置いてけぼりの私にちゃんと説明してくれてたのは父だった


「すまないと思っている……」


「何を? ……何なの??」


「四年前に既に…… 三木は亡くなっているいるんだ」


持っていた物を全てその場に落としてしまった

その振動でかは分からないけど 屋根に積もっていた積雪が全て流れて 自分の背後に崩れ落ちる

目をまん丸に見開く私は どれだけ時間が流れようとも家に入ることが出来なかった


「信じられない…… 信じない…… 連絡は……? 研究所に連絡できるよね??」


「詳しい話は聞いてないが 重要な研究をしていたんだろ?

お前が三木の事を大事に思っていることは知っていたんだ だったら察してくれないか??」


「検査を受けて…… マスクもして行けば少なからず……

……頃合いを見て一目でも会いに行けたかもでしょ?? ……なんで連絡もしないの??」


「…………うぅ!!」


父も取り乱した言動になってきた これじゃぁ私が悪人よ


「死ぬなんて思わなかったんだぁ!!!!

自分の娘は明日死にますなんて考える親がどこいるんだぁ……!!!?」


「…………」


「……再感染した患者にはそう少なくない話だったんだ

症状が出始めてから数日も経たない内に重症化

元々身体の弱い子だったから一回目も何とか峠を越えて安心しきってたんだ」


「…………」


「お前のことだから妹の事になると心が不安定になると知っていた……

再感染なら勿論…… 亡くなったなんて知らせたら尚更だろ?

入院中だった時の三木も お姉ちゃんに伝えないでって言ってたんだ……」


その場に泣き崩れる父を見て 私は事の全てを理解していた

充分に苦しんでやっと立ち直って過ごして来た今なのだろうと

これじゃあ まるで



ーーイジメ…… 親不孝だよね?



落ちた土産を拾って玄関にそっと置くと 静かに玄関の戸を閉めて出て行こうとした


「何処に行くんだ?!」


「仕事の途中だったから帰る…… 安心して 私は大丈夫よ」



「待って下さい!!」



帰路への歩を止めない私に 千代子が何やら必死に声を掛けていた


「三木ちゃんの…… 妹さんの遺言があるんです……」


外は私の気持ちに呼応するかのように猛吹雪

彼女の呼びかけなんて 耳に入らなかった


新幹線に乗ってから初めて気付いた母のメール


『三木の最期のメッセージが千代子ちゃんのスマホに届いたらしいのでちゃんと見てやって下さい

このメールも届くか分からないので 研究所の方に送りました』


吹雪いているからお墓にも顔を出せなかった

それよりも今はカタに会いたい この晴れない気持ちを今はとりあえず別の方へと向けたかった

窓越しに映る夜空と ぼんやり映る自分の顔を照らし合わせると 月が泣いていた


毎度の事ながら妹の優しい嘘は親譲りだと思う

困っていようが 悩んでいようが イジメに遭っていようが 直接話せば私に支障をきたさない笑い話


ーーそういえば私は父ちゃんと仲が悪かったっけ 今まで忘れてたなぁ


東京に着けば一目散に知り合いのもとへと駆けて行った

住所も変わっておらず 見慣れた喧騒が自分をなだめてくれた


「こんばんわ」


「あら久し振り…… 来るなら連絡の一本でも入れてよ~」


「これつまらない物ですが……」


「いやぁ…… うん…… ありがとうね」


「……カタは元気ですか?」


「……」


知人は何も言わずにコートを着て身支度を調えたかと思えば 下に見える空き地まで連れて来られた


「…………ウソ」


「預けた時期だって十分な歳だったでしょ? あれから何年経ったと思ってるのよ」


「そう…… ですよね」


「大丈夫? ここに来る前から目が腫れぼったかったけど?」


「……あのこれ 滞納して下さってたエサ代です」


「あぁ…… はい……」


お金の入った封筒を手渡し 特に何でもない会話を済ませると

カタのお墓に目もくれずに私はすぐに島へと帰った


「うっ…… うぅ……」


あのまま本土に居れば 立ち直れる気がしなかった

蛹島行きの船内では乗客の気に障らないように隅っこで泣いていた


「なんでこうなるのよ…… 私は何もしていなのに……」


棚の上から音が聞こえる

鼻水を垂らしながらその目に映る自分が見た物は ニュースを流す小型のテレビだった


『ここに来て二度目三度目の再感染者が立て続きに現れてきました

感染経路はほとんど不明ですが 一部では死者が出ているとのことです

冬場は特に体調管理に気をつけて下さい 死亡者の中にはまだお若い年齢の方も含まれていると』


自分だけではなかった 途端に私は泣くのを止めた

今手掛けている研究はもしもの時に必要な物なのだと 改めて再確認した瞬間だったのだ


「谷下博士??? 随分と早いお帰りで……」


「脳や各部位と心臓の神経はちゃんと繋がった?」


「それが全然ですね……

心臓も別にこだわりりが無ければ 胚子はいから段階を追って育てていけるんですが

部位同士を繋ぎ合わせた今の工程はクローンと言うよりは ほぼフランケンシュタインですよ」


「その場合だと例の心臓を移植しても身体が機能しないって結論が出たでしょ?

引き続き電流でも流して欠落している点があれば即座に体内組織の交換 寝てる暇なんて無いわね」


「……ここだけの話ですが本当にこんな心臓に魂なんか宿るんですか?

それに医療機関の頑張りも実って今やインフルエンザと同じ扱いにコロナは危険度を落としてますし

人工太陽命令式電磁波ソレイユフレア・プロジェクトなんて 無くても良くなって来てるじゃないですか?」


「それを知ることになるのは私達人類では無い筈よ 神様か仏様か……

私達は最善を尽くすだけ 例えどんなことが起こっても救えるようにね

だからその〝魂の帰還〟に詳しい人が後日いらっしゃるけど 開発当事者の私達は半信半疑でも聞くの」


そこには ついさっきまで項垂うなだれている自分は存在しなかった



「解った? 自分の今の仕事に全力で取り掛かりなさい」




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[気になる点] やっぱりぃぃぃぃぃ(´;ω;`) やっぱりまた死んだぁぁぁぁぁ(´;ω;`)
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