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七十六話 千年前 蛹島 


立案が目に見えて来る頃には地下研究施設が設けられる【蛹島さなぎじま】と呼ばれる

中国地方から少し離れた小島への出向が命じられた

今住んでいるアパートから引っ越す訳だが どうも閉鎖的な有人島と聞くだけで栄転とは程遠い

もはや原始人との交流だと事前に思っていれば地元付き合いも上手く出来るだろう

言うて生活の殆どが地下暮らしなのだから あまり心配する事では無さそうな


「ゴメンねカタ……」


「みゃおん???」


クローン製造が段階を踏めば忙しくなることを習知していた私は

泣く泣くペットを知り合いに預けて貰い 暫くの別れになってしまった


ーー落ち着いたら必ず迎えに来るからね


去り際に涙の大粒を散らす これだから猫派は辛い


船着き場にて 数人の研究仲間の筆頭に立っていた私は満を持して船に乗る

渡航中は資料と会議の繰り返し それしかやる事が無いから

大方のサンプル諸々の資材は諸外国から蛹島に運搬完了の報告を得ており

実際には着けば 細かい実験抜きにして本格的な製造が始まるだろうと把握していた


「見えた見えた! ……閉鎖的な島民達が出迎えてくれてる??」


港には大人数で歓迎してくれている

先頭に立つ偉丈夫な外国人は 船から下りてくる私達に第一声の挨拶を投げ掛けて来た


「ようそこMs.谷下 私はJAXA研究開発部門の〝ギア・キャリントン〟です キャリーと呼んで下さい」


「初めまして 谷下希です

……現地で合流する手筈と聞いていたタスクフォースの代表でしょうか?」


「いいえ…… 国連のチームは既に地下研究所内にて準備を進めております」


キャリーは後ろにいた彼と背丈が同じ黒人男性を紹介する


「彼は〝染島ジェロム〟 私と一緒で元はNASAに配属してた研究チームの一人だ

島の住民であり島内の代表でもある彼のお爺さまによって ここに研究所を造れる事になったんだ」


「ニッショウケンモ カンケイナイシネ!!

ココロヨク! ウェルカンム! シテクレタゼィ!!」


クセが強い彼との挨拶を終えると さっそくキャリーの車で研究所がある山へと案内して貰う

まるで自分の土地のように キャリーはベンツ ジェロムは2000GTと

片田舎には似つかわしくない乗り物を走らせていた


「ガソリンとかどうしてるの?? ハイオクなんでしょ??」


「独自輸入だね ドバイの石油会社に知り合いがいるんだ

ボッタクリだけどこういう特別な日じゃ無い限り乗らないしね」


「はぁ…… 素敵な歓迎ありがとうございます」


「君とこんな辺鄙へんぴな地にて出会えたことに感謝!!」


ギアは高笑いしながらもバックミラーで後部座席をチェックする


「もちろん君達もだよベイビー

ようこそ蛹島へ 綺麗な飲み水と山の恵みに包まれた…… 原始時代だぁハハハ!!」


私と一緒にやって来た二名の同乗者は後ろにて引きつり笑い

気持ちは車内の空気を吸わずとも同情する 無駄に明るい人間とは接しにくい

あとそんな空気を掻き消すかのような香水もキツいものがあった


気付けば坂を登り始め 山の中腹の何も無い野原にて停車した


「……大きなサイロ 研究所はどちらに?」


「こっちだ」


荷物を車から取り出し サイロの中へと入る

外には研究に必要な設備が一つも備わってはないので 少し不安を抱いてしまう


「こんな場所に入り口があるなんて…… まるで秘密基地ね」


「今は宇宙から監視できる時代だからねぇ……

誰かがここで 何かしているというネタを売り捌けば研究は即中止

大抵のマスコミは金を握らせられるが 無名の一般人に余計な事はされたくない」


「大きな国々が動いているプロジェクトですもんね」


「まぁそんな話も今はどうでもいいじゃないか! 華々しい功績への扉がこれだ!!」


キャリーがレバーを下げると

目の前の鉄製の壁の一部が手前にスライドして扉が開かれ

地下への通路が奥まで続いていた


「さぁ入ろうか? 俺と君の愛の巣だ」


「ハハ……」


通路を通り抜けると広い空間に出る

必要性をあまり感じない受付のカウンターの上には

施設内のマップを指す電光板が飾られている


『お帰りなさいませ谷下博士 貴女宛のメールは現在ありません』


「うぉ!!」


突如流れるアナウンス音に驚いてしまって後ろに倒れそうな私を

キャリーがキザっぽく受け止めてくれた


「大丈夫かいハニー?」


「……えぇ」


ちょっとだけ胸がトゥンクしてしまいましたね

しかし初日というだけあって そう簡単に恋に落ちる訳にもいかず


「寝室へ案内して下さい」


荷物を各々の私室へと置いて一息つく

しかし今度は肉声のアナウンス音が響き渡る


『オフィス前のロビーにて タスクフォースチームが集合しました

谷下博士率いる研究員達もお集まり下さい』


いつもの白衣のコートを身に纏って仕事モードに変身

中央の通路を歩く集団の先頭はもちろん私 恥ずかしいけど

端の壁に寄りかかって腕を組んでいるキャリーに口笛を鳴らされたのも原因だ


「初めまして この度の開発の総責任を請け負う谷下希です よろしくお願いします」


「〝夜桜愛海ヨザクラマナミ〟です よろしくね!

我がタスクフォースは見ての通り各国から一名ずつ抜粋された加盟国の言わば先遣隊

総勢三十名 勿論その道の専攻を歩んでおり

私に関しましては某国で実際に機械ベースのクローン造りに参加しました」


「疑ってはおりません ……私達はまだ施設を見て回ってないので

全てを把握したらさっそく実験を開始しましょう」


こうして一人の人間を造るクローン実験は始まった

成果が出るか出ないかなど考えている暇は無い 既に何百億という金がこの研究所を中心に出回っていたのだから 



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