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七十四話 姉 


宙に舞う魂は人の姿に変えて人混みへと消えていく

残されたのは谷下の肉体のみ いや遺体だけだった


「谷下さん?! 谷下さん!!!!」


三木とカタは必死に彼女の身体を摩るが返事は無い

今起きた現象が結果的に何を表しているのか既に察している死人は何も出来なかった


「ここでは魂の方が強いか……

惟神霊幸倍坐世カムナガラタマチハエマセ 惟神霊幸倍坐世カムナガラタマチハエマセ


死人が祈りを捧げていると 何処からともなく一人の女性が近寄ってきた

死人はその顔を確かめたかと思えば 引きつる顔で体の揺ぎを見せる


「お帰りなさい…… 今までどこをほっつき歩いてたのよ」


「……母さん」


母親に優しく引っ張られていて歩みを止めない

こんな嬉しい表情をしている死人なのだから 踏み留まる理由は何も無かった

やがて彼から五蘊ごうんが抜け落ちていき その魂は天国より迎え入れられる


「谷下さん…… 谷下先生!!!! 起きて下さい!!!!」


「…………」


死人がいなくなったことも気付かず 三木は必死に谷下を起こそうとしていた

カタはというと何をするでもなく ただ谷下の腹の上に座ってジッと見てる

そんな黒猫が不意に上を見上げるとそれに三木も釣られて


「「 っ…………? 」」


上には一つだけ魂が浮いていたのだ

それは周りのように人に変わる事もなく

ひたすらゆっくりと谷下の胸元に降りてきた


そして


「ゲホッ!!! ゲホッ!!!!」


「……谷下先生!! ……谷下先生??」


「……三木ちゃん」


目覚めた谷下は開口一番に三木に抱きついた

受け止める準備をしていない三木はそのまま押し倒される


「三木ちゃん…… 三木ちゃん…… ゴメンね……」


「何で…… 謝るんですか?」


「他人行儀って事は許してくれていないんだね…… 本当にごめんなさい!! ごめんなさい!!」



「ニャオン……」



背後から猫の鳴き声を聞いた谷下はまさかと思って振り返る


「カタ!!」


「ゴロロロロ……」


「カタもゴメンねぇ!!! ずっと会いたかったよぉ!!!」


彼女に抱かれた瞬間に カタは全てを理解した


ーーあぁ…… 本物の飼い主だ


落ち着きを取り戻した頃には 近くの茶屋の畳に座る二人と一匹


「え?! ……じゃぁ本当にお姉ちゃんなの?」


「そうだよ」


「そりゃぁ見た目もお姉ちゃんだったけど でも中身は……」


「うん…… 五十万の魂から成る〝あの人格〟の子には悪いことしちゃったな」


「……〝谷下先生〟はもう戻らないの?」


「……うん」


お茶を啜る三木は事の今までが嘘だったように肩の力が抜けた

夢でも見ていたのか そんな風にさいなまれる


「お姉ちゃんはどうして彼女の体内にいたの?」


「それは分からない…… 死んだ後はずっと真っ暗だったもん」


「そうなんだ…… 辛かったね」


さりげない優しさに谷下はウルッと来てしまった


「三木ちゃんは遠距離になると優しい嘘を付くからもぅ!!

だから大学卒業したらこっちにおいでって言ったのにぃぃぃぃ!!!!

もう…… 会えなくなるからさぁ…… ウゥゥゥ!!!」


「私まだ高校生なんですけどぉ!!!?」


一回一回抱きつかれて泣かれる身にもなって欲しい

と思ったが 話を聞く限り未来の姿を想像してしまったら何も言えなくなる


「私は…… 皆はどうなったの? 本当にあの島だけ残された世界になってしまったの?」


「……」


谷下は我に返り 真剣な表情で三木を見つめる



「話してあげる 当時を生きた私達が何を見たのか」




一方その頃

列車が止まっている近くのベンチにて

放置されたサクラとピロシキが転た寝していると

二人の身体が金色に輝きだした


〝 ワシは腹ペコじゃぁ!!!! 肉を持って来い肉をぉ!!!! 〟


独り言にしては大胆で物騒 されど確実に南野雪花神は復活された


〝 ここは黄泉か?!! ……ママンには会いたくないの~~

……この気配?!!! ……彼奴め まだ死んどらんのか?!! 〟 


雪花神が向ける視線の先は列車が辿ったレールの向こう

微かに迫りつつある邪気が 雪花神の勘を研ぎ澄ませる





そしてレールの向こうにて


ーーいる…… 上手く逃げやがって……


黒い瘴気が雲のように広がり 主張が強い複数の紅い眼が辺りを隈無くまなく見渡している

前方のトンネルを迷いなく壊しながら突き進み その巨大な飛行物は着実に桃源郷へと近づいていた


ーー誰だろうと邪魔するなら徹底的に抹殺する

どうせ大掃除されたんだ 皆は一度消えてくれ 俺が新しい良い物を創り直してやる 



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